表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

01

 気がつくと真っ白い空間にいた。

 四方を見回しても何もない。

 ここはどこだろうと思った時、目の前の空間がゆらりと歪んだ。


「……呼びかけに応じて下さり、感謝致します」


 現れたのは灰色の髪の怜悧そうな美人だった。思わず視線がそこへ向かってしまうほど胸が大きい。すごい。


「呼びかけって? 君はだれ? ここどこ? 僕はどうしてこんなところに――」

「お願いがございます、聖女様」

「なんて?」


 ちょっと待って、僕、男。ノット聖女。確かに体は清らかだけど!


「妹を――レスタを、よろしくお願い致します。明るくて可愛らしくて優しい良い子なのです」

「いやちょっと待って、よろしくって言われても何が何やら、っていうか、僕は――」

「お願い致します。大切な妹なのです。気に掛けてあげてください。私の望みはそれだけです」

「だからちょっと待って! 説明ください!」

「全ては、あなたのお心のままに――ですが、どうか、くれぐれも、妹を――」


 美女は妹を頼むと繰り返しながらさめざめと涙を流した。

 待って。ほんと待って。頼む待って! 説明してくれ! 説明、大事!


 目の前の情景はかすんでゆく。美女の姿もうっすらと陽炎の様に揺らめいて――手を伸ばした時にはもう、その姿は霞のように消え失せた。……ほんと、ちょっと、待って。


「だから! 待ってってば!」

「おお! 目覚められましたか! テスラ様!」


 伸ばした手が目の前に見える。その先にはたぶん、部屋の天井が。……えーっと? 知らない天井だ?

 目覚めた? ってどういうことだ? と視線を巡らせば、なんだか奇妙な服装をしたじいちゃんばあちゃんがわらわらと寄ってきた。皆似たような紺色のワンピース? ローブ? みたいなくるぶし丈の、袖も長くてヒラヒラしたものを着て、ファンタジー映画の中でしか見ないような奇天烈な背高帽子を被っている。手には宝石なのかガラスなのか分からないけどでっかい石がはめ込まれた本人の身長くらいある大仰な杖を持っていた。


 背中が痛い。起き上がろうと手をついたのはつるりひやりとした石の床だった。え? 何これ?

 じわりと背に嫌な汗が流れる。頭の後ろに感じるのもなめらかな冷たい石の感触だ。

 なんだか変な模様が部屋一面に描かれている。……魔方陣、っぽいな?


「……ここは? それに、あなたたちは?」


 声が変だ。なんでこんなに高いんだ。ヘリウムガスでも吸わされた?

 見下ろせば、胸があった。………………胸が、あった。え? でっか――

 思わずもんだ。柔らかい。本物だこれ。いや初めて揉むけど。

 てか、胸揉まれるって、胸揉まれるって感覚なんだな、なんか新鮮。


「何をなさっておられるので、テスラ様」

「僕、テスラって名前じゃありません……その、田中たなかはじめ、です……」

「おおお! 皆のもの! 召喚は成功じゃ! テスラ様こそが、真なる聖女!」


 周りの人達が急に歓声を上げたのに、思わずびくっと体が震えた。

 何。なんなのこの人達。なんか変。なんで急に雄叫び上げてんの!? きもちわる!


 その後、にっこにこ笑顔全開のじいちゃんばあちゃんに手を引かれて起こされ、そのまま部屋から連れ出された。

 テスラじゃないって言ってるのに、テスラ様テスラ様と呼ばれ続けてなんだかもうどうでもいいやって気持ちになりかかり――じいちゃんたちが立ち止まりばあちゃんたちだけに囲まれて連れ込まれた小部屋の中に置かれた『ソレ』を見て固まった。平たい板状の、アレだ。――それが姿見だってことを、鏡だってことを、分かっているのに、頭のどこかが拒否していた。


 そこに映っていたのは、あの白い空間の中で会った美女だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ