そのに!!
「おい!!ニール!この薬、わざと効力弱めただろ!ふざけんなよ」
自宅にある、小さな実験部屋で没頭する、腐れ縁の男の頭を鷲掴み、こちらを向かせる。
乱暴な行動にもかかわらず、男は眉をひそめただけだった。
「なんだ、親友。もう気がついてしまったのか。ならば仕方ない、新しい薬を渡すから、今日あったことの報告をしてくれ。実験録にのこさねばならないのでな」
「おまっ、まじでふざけんなよ。大体、お前が俺をゾンビにした時点で、親友でも友でもないわ!こういう人の日常で実験を二度としてみろ?警察につきだすからな」
「それはかまわんが、そうすると友よ、お前も国の実験体扱いか、最悪、殺処分されるぞ。この国はゾンビに厳しい」
バカ真面目な顔で、そう告げるニールにいよいよ嫌気がさして、ぺいっと放り投げた。
本当に、人間て怖い。
こんなに善良なゾンビなのに。人肉も食わず、少量の血液と、普通の豚肉、鶏肉等で生きていける優良ゾンビなのに、ゾンビには人権はない、とばかり、調べて殺そうとする人間のいかに多いことか。
「ちょっとばかし、見た目が怖いだけなのに‥」
思わず呟いた声をききとがめたニールが、立ち上がりながら怪訝な顔をした。
「ちょっとか?」
「っ、確かに、皮膚は青白いけど、美の象徴とされる、抜ける白さだし!所どころ腐って臭いけど、良質のコロンを使っていて、むしろいい匂いだし、目はおちくぼんで、皮膚はとけてるけど、帽子で隠してるし、っていうか、僕をゾンビにした君にだけは言われたくないんだけど!!!!!」
思わず叫んだ彼をどうどう、となだめながら、ニールは戸棚から新しい薬を差し出した。
「だから、自費で戻すための研究をしてやっているだろう?」
「当たり前のことだから!」
この尊大な男、ニールはめちゃくちゃ顔が良く、スタイルも良い、頭も良い天才である。
大手商社の御曹司であり、自身も資産に恵まれているこの男は、突き抜けたマッドサイエンティストだ。
おおよそ、人の感情を理解しない彼だが、裏表がなく、付き合いやすかったため、中、高、大と一緒にいたのが運のつきだった。
社会人になって、院に残って研究している彼を訪ね、こっそり飲みながら、よくわからない調合をした彼に付き合い、翌日目が覚めたらゾンビになっていた。
ニールも相当酔っていたらしく、配分を覚えていない有り様。
僕が社会人になった後、彼には友達ができず、寂しくて、久しぶりに僕と会ってはめを外してしまったらしい。
なんとなく、友達のことは彼の自業自得な気がする。
尊大なくせに寂しがりや、モラルはないくせに、以外に面倒見が良いアンバランスな腐れ縁がニールだ。
ゾンビにされた直後は怒り狂って、彼を警察に付き出したが、(彼もさすがにしょんぼり大人しかった)僕のほうが捕まえられ、実験されそうになった。
それを見たニールが、罪悪感からか、全面的に保護、各界に手を回して、今があるというわけだ。