頼りになるのはあなただけ
だんだんとスライムが増えてきたなぁとは思った。
今までは、たまにピョコンと出てくる程度だったのに、今や休む暇なく飛びかかってくる。
はじめのうちはサントス君が自慢げに倒していたのだが、無駄に派手な風魔法を使って魔力を無駄遣いし、一番必要だと思われる今は、ただただゼコゼコいっていた。
「お、お兄様!しっかりなさって。お兄様が必要なのは今ですわ!戦えないお兄様はただのブタですわよ!」
何気にひどいマリーちゃんの言葉だが、やはりサントスくんはゼコゼコ言っているだけで、とうとう動けなくなり、ジョーン先輩におぶわれた。
「お兄様……これからブタと呼んでやりますわ……」
マリーちゃんがボソリと呟いた。
ダウンしたサントス君の代わりに、マリーちゃんががんばっているが、とにかくスライムの数が多い。
私も薔薇を出してはぶつけているのだが、さすがにスライムも一発で倒れない。数も多すぎる。
「キャア!」
「マリーちゃん!」
とうとうマリーちゃんの魔力も底をついてしまった。
残されたのはショボイ私のお花を出す魔法だけだ。
もう、周りは薔薇だらけだ。
そして、スライムが止めとばかりに、波状攻撃をするように押し寄せてきた。
絶対絶命だ。
ピクニックみたいなダンジョン一階層のはずなのに、何でだ!?
無駄にメルヘンなお花畑が、今は逆に不気味に見えた。
そんな時、颯爽と前に立つ影が現れた。
「マリーちゃん、風で彼女の拳を覆って!」
「わかりましたわ!」
マリーちゃんが、最後の力を振り絞るように彼女の拳を風の膜で覆った。
彼女は直接スライムに触れられないが、魔法の風で覆えば直接攻撃できる。
そこからはもう、彼女の独壇場だった。
数の暴力のスライムを相手に、目にも止まらないパンチを繰り出した。
あまりに速すぎて、ヒュンヒュンと風を切る音しか聞こえない。
速い!強い!頼もしい!
私の耳には、あの名曲のテーマソングが聞こえるようだ。そう、カタカナの〝ロ〟から始まるあの昂揚する名曲だ。
こんなピンチに颯爽と前に出て、戦う彼女は間違いなく格好良かった。
私もマリーちゃんも、彼女に惚れてしまいそうだ。
そう、この美しい戦女神!
カンガルーのマッスルちゃんに!!
「なんて素晴らしい動きでしょう。まるで蝶のように舞い、蜂のように相手を刺すですわ!」
「うんうん!この場にいる誰よりも頼りになるね!」
男性陣は、聞こえないふりをしてマッスルちゃんを応援していた。
だって、しょうがない。僕達は戦闘に向かない人種なんだ!と、ジョーンとジューンの心の声が聞こえるようだ。
ちなみに、パスカル君はしばらく前から体力が底をつき、ジューン先輩におぶわれていた。
今や、その筋肉は飾りどころではなく、ただの重りである。
そうしてしばらく後、とうとうマッスルちゃんは全てのスライムを屠った。
彼女が高々と勝利の拳を突き上げた時、誰もが涙した。
君こそがチャンピオンだ!
私達は惜しまない拍手と歓声を送った。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、今のうちに先生達のいる入り口に戻りませんか?」
冷静なパスカル君の言葉に私達はハッとした。
確かにその通りだ。
いつまたスライムがやってくるかわからない。
「あら〜、それはちょっと困っちゃう」
男の声なのにオネエな声が響いた。
そして、私の足元から伸びた黒い陰からズズズッと現れた。
私達の時が止まった。現れた男を凝視した。
男は全身ショッキングピンクだ。ショッキングピンクのピチッとした全身タイツだ。あれだ。もじも◯くんスタイルだ。
やばい人だ。リアルだ。目の前にいる。
「変態だね」
「変態ですわ」
「変態ですね」
「変態だ」
「「変態」」
「誰が変態よ!」
私達の満場一致の感想に、変態が吠えた。
私達は無言で指差した。
「もう!可愛くない子達ね!まぁいいわ。さっさと仕事を終わらせないとね。何だがよくわからない展開に予定が狂っちゃったわ」
変態が私の体をヒョイと肩にかつぐと、私はそのまま自分の影に男と共に引きずりこまれた。
変態のくせに、動きが素早い。
「キャロちゃん!」
マリーちゃんの声がグニャリとこもったように聞こえた瞬間――私はその場から消えた。
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大分、間があいてしまってすみません。無事投稿できました〜!
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