え?このメンバー?
「ゴミが付いていたぞ」
一体マチルダ姫は何しに来たのだろう?
なんともよくわからないマチルダ姫が帰って行ったあと、ダンジョン遠足のメンバーが発表された。
王太子であるカリム君のメンバーは、ソル様、ベラちゃん、ティアラちゃん、そしてティアラちゃん兄イリアス君、あとロニドナラ侯爵家で騎士見習い訓練に参加している、いかにも強そうなお兄さん方……。
見事な武闘派メンバーだった。
万が一にも怪我をさせてらならないという、学園側の並々ならない忖度が感じられた。
このメンバーでは、カリム君がわざわざスライムにダイブしようとしても怪我一つさせないだろう。
一方の私はというと……。
「ヴィゼッタ嬢、同じ班ですね」
「はい。よろしくお願いします。ベラちゃんと別の班で残念でしたね」
「まあ、先生方が決めたことです。仕方ないですね」
筋様ことベラちゃんの婚約者パスカル君。
彼は頭が飛び抜けて良いが、その魔法は瞬間記憶だから全く戦闘に役立たない。
あれ?でもその筋肉は?と思うだろう。
もしかしたら、口の悪い奴はその筋肉は飾りか?なんて言うかもしれない。
悲しいかな、その通りだった。
ベラちゃんの話によると、その筋肉は飾りだそうだ。いくら筋肉をつけても、あの運動神経では活かせなかったらしい。合掌。
「でもまあ、マッスルを連れて来て正解でした」
そう。パスカル君は何とびっくり、カンガルーのマッスルちゃんも連れて来ていた。
相変わらずの迫力だ。
シャドウボクシングのように腕を振ると、ブウンブウンと風を切る音がするのが素晴らしい。
「キャロライン、やはりこれは運命だろう。今からでも遅くない。俺と婚約しろ」
「いや、ただの偶然です。結構です」
あと、サントス君が同じグループだった。
サントス君がニヤニヤと手を握ろうとするのを、私はサッと避ける。
「お兄様。どうか、お兄様とイリアス様をチェンジでお願いします!」
鼻息も荒く無茶振りを言っているのは、マリアンヌちゃんだ。
どうやら、入学式で赤い血潮を鼻から吹上げた時に運んでくれたイリアス君に一目惚れしたようだ。
この兄妹は風魔法使いだ。
魔法だけ見たら強い。
でも、どうにも残念な空気を纏っている二人だ。
サントス君は強引に迫ってくるし、マリアンヌちゃんは鼻血を吹上げている印象が強い。
残りの二人は、ジョーンさんとジューンさんだ。双子でお兄様達と同じ上級生だ。
見るからにヒョロッとしていて、剣を振り上げたらそのまま後ろに倒れそうな二人だった。
魔法は、通話能力だ。
二人はどれだけ離れた場所にいても、会話ができるのだそうだ。
すごい能力だ。
だがしかし、同じ場所にいたら、全くその能力は活かせない。
そして、魔法で花を出すだけの私……。
戦闘能力がサントス兄妹しかないメンバーだった。
一番頼りになりそうなのはマッスルちゃんのような気がするのは気のせいだろうか。
まあ、ダンジョン一階層だ。
先生方も、カリム君のグループ以外は適当なのだろう。
◆
そんな私を含めて心配なメンバーであったが、グループ毎に順番にダンジョン一階層に入ると、全く心配ないことがわかった。
綺麗なお花が咲くピクニックコースだった。
ダンジョンの中は擬似太陽があって、外と変わらず明るく、歩く所はレンガ道ができており、左右はお花畑が広がってのどかだった。
去年はここまでのレンガ道はなかったそうだから、これもカリム君仕様だろう。
学園の並々ならない以下略……。
「ヴィゼッタ様、見て。蝶々ですわ。グフフフ」
「キャロでいいよ〜。綺麗な蝶々だね」
「まあ、では私のこともマリーと。ダンジョンの中は恐ろしいかと思いましたが美しいですのね」
女の子同士ということで、マリーちゃんとはすっかり打ち解けた。
後ろでは、パスカル君と双子のジョーンとジューンがのんびりとおしゃべりしながら歩いている。
パスカル君の一方的な筋肉談義に、ニコニコ頷いている二人は間違いなくいい人だと思った。
「キャロ、では俺のことはダーリンと呼んでいいぞ」
「あ、キャロ。見て、スライムですわ」
「触らないように気をつけようね」
サントス君のことは、私とマリーちゃんは全くスルーである。
「チッ」
八つ当たりするように、サントス君がスライムを風魔法を当てると、小指の先程の水色の魔石を落としてスライムが消えていく。
「お兄様、すごいですわ」
マリーちゃんが褒めると、途端にデレデレと笑い、サントス君の機嫌が治った。
「拗ねると面倒ですの」
こそっとマリーちゃんが私に耳打ちした。
たまにスライムが出てくるだけで、穏やかなピクニックだった。
――そう、この時までは。
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