遠足の、じゃなかった、ダンジョン体験の朝
こういうのをフラグを立てるということを……。
さあ、楽しみな遠足だ。じゃなかった、ダンジョン体験だ。
今日は動きやすいように、みんな騎士が練習の時に着るような服装だ。
剣が使える生徒は脇に剣を挿している。
私は危ないので挿してはない。
どう動いても、某出っ歯のシェーのポーズになってしまうからね……。
みんなダンジョン体験の格好だが、その雰囲気は観光バスに乗る前の遠足のそれだ。
「キャロライン、おはよう」
ユーリカちゃんは、艶やかな赤い髪を高めのポニーテールに結えて、純白にさりげなくたくさんの細かな宝石がついた騎士服を着ていた。
宝塚のようで格好いい。
多分脇に挿している剣は、魔法剣だろう。
小指には収納の指輪をはめており、身軽だ。
私は少し大きめのリュックを背負っている。
まるきり遠足だ。
収納の指輪は高いんだよね。
「ユーリカちゃん、おはようございます。その騎士服格好いいですね」
「お兄様とお揃いよ」
おお、それはソル様もよく似合ってそうだ。
「ユーリカ、キャロ」
噂をすれば影だ。お兄様とソル様が揃って私達のところに来た。
ソル様もユーリカちゃんとお揃いの純白の騎士服だ。
美形な兄妹は眼福だ。
周りの御令嬢方もポーッと見惚れる格好良さだ。
「おはようございます。お兄様、ソル様」
「おはよう、キャロ」
お兄様が満面の笑みだ。
「僕のプレゼントしたお守りをつけて来てくれたんだね」
嬉しそうなお兄様に、私はブレスレットやら指輪やらアンクレットを見せた。
お兄様もうんうんと満足そうだ。
「ダンジョンの一階層だから危険はないはずだが、ダンジョンには変わらない。用心に越したことはない。ユーリカのこの騎士服も護りが付与がされている」
「お兄様、この服そうなの?」
ソル様が言うと、ユーリカちゃんがびっくりした顔をして聞き返していた。
「父上がユーリカのために、宮廷魔導士に頼んでこれでもかと付与してある」
このさりげなくキラキラしているたくさんの小さな宝石一つ一つに護りが付与されているようだ。
愛が重い。
「もう、お父様ったら心配症ね」
ツンと横を向くユーリカちゃんだが、顔が嬉しそうだ。
一時期は拗れていた父娘だったけど、今ではもう大丈夫そうだ。
「ソル様〜。ご機嫌よう」
猫撫で声でピトリとソル様に擦り寄ろうとした誰かを、ソル様は慣れた様子で氷の壁を出して阻止した。
「冷た!おのれ、無礼者!私を誰だと思っておる!?」
ハエ取り紙に張り付いたハエのように、ビタッと氷に張り付いていたのは、なんとマチルダ姫だった。
なぜ、入学前のマチルダ姫がここに?
マチルダ姫の後ろには困った表情の護衛騎士のお兄さんが立っていた。
ああ、勝手に来ちゃったんだね……。
というか、私が睨まれているけど何もしてないよ?
「王女殿下、その氷は私が出したものです。怪しげな気配がしましたので、失礼いたしました」
絶対零度の視線でソル様はマチルダ姫を見た。
「そ、そうか。誰にでも間違いはある。気にするな」
ソル様は明らかに気にしてなさそうだ。
「なぜ王女殿下がこちらに?」
「へ?それはもちろん未来の婚約者の見送りに」
マチルダ姫はクネクネと体をくねらせ、ソル様を上目遣いで見つめた。凝視するその目が怖い。
まだ諦めてなかったようだ。
「そうですか。では早くお行きください。では、私達もこれで」
ソル様がさっさと距離を取ろうとするが、マチルダ姫は蛇のような粘りをみせた。
「ま、待たれよ!ユーリカ様は、私のお兄様の婚約者だ。とういことは私のお義姉様、ということはソルフォード様は私の愛しいお義兄様ということだ。妹としてお見送りせねば」
なおも懲りずにソル様にくっつこうとして、さらりと躱される。
「実の兄上をお見送りください。では」
ソル様はこれでもかという、眉間に皺の冷えびえした表情でマチルダ姫から距離を取る。
「おのれがソルフォード様にこのように言わせておるのだな」
マチルダ姫にオドロオドロした恨みのこもった顔で睨まれた。
なぜか、矛先がこっちに向いた!?
「フン!ダンジョン一階層ごときでそのお守りの多さよ。情けない。最下層のボスでも倒す気か」
思い切り馬鹿にしたように言われたが、多分この場で一番すごいお守りを身につけているのは、宮廷魔導士にお願いして護りの付与をこれでもかとされた服を着ているユーリカちゃんだろう。
「それはユーリカのことか?」
ソル様が、それはそれは冷ややかにマチルダ姫を見た。
「そうね。私以上に護りが付与されているものを身につけている人はいないでしょうね」
ユーリカちゃんもマチルダ姫を呆れたように見た。
「へ?」
そう言われて、マチルダ姫がマジマジとユーリカちゃんの騎士服を見ると目を丸くした。
「ドラゴンでも討伐に行くのか?」
マチルダ姫は思わず呟いて、しまったと口を覆ったが遅かった。
ソル様から物理的な冷気が漏れ始めた。
寒い寒い!
「そろそろ、お兄様の見送りに行かぬとな」
コソコソと退散しつつ、マチルダ姫がついと私の襟首辺りに触れた。
「ゴミが付いていたぞ」
そう言ってニンマリ笑って去って行った。
一体マチルダ姫は何しに来たのだろう?
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