フラグを立てる
保護者同伴でなくて良かったと思った入学式だった。
忘備録
⭐︎パスカル君→筋様。ベラちゃんの婚約者。
⭐︎カリム君→王太子。ユーリカちゃんの婚約者。
いやはや、大変な入学式になってしまった。
ありがたいであろう学園長のお話も、貴重なカリム君の新入生代表のお話も、何一つ記憶に残っていない。
多分、周りのみんなもそうだろう。
私が覚えているのは、会社の忘年会でたらふく飲んだ後の二次会のような模様の御令嬢方の、赤ら顔で揺れている姿だ。
そんな微妙な入学式の後はクラス発表だ。
学園では爵位を公平にシャッフルして3つのクラスにわける。
ユーリカちゃんかベラちゃんかティアラちゃんと一緒になりたい!
そして運命のクラス発表。
私はユーリカちゃんとベラちゃんとティアラちゃんと同じBクラスになることができた。
女神様!ありがとう!
残念ながら、パスカル君とカリム君はAクラスだ。
前情報によると婚約者同士はクラスをわけられるようなので、ユーリカちゃんもベラちゃんも特に残念そうではなかった。
「キャロちゃん、同じクラスで嬉しいです」
ティアラちゃんが、教室に入ってすぐニコニコと話しかけてきた。
「ティアラちゃん!私も嬉しい!3年間よろしくね」
私とティアラちゃんがキャッキャッしてると、ベラちゃんと一緒にユーリカちゃんも来た。
「みんな一緒のクラスになれて良かったですわ」
ベラちゃんがニコニコと言った。
「私は別にどちらでも大丈夫だったわ」
安定のツンのユーリカちゃんだが、その表情は明らかに込み上げる笑みをこらえる顔だった。
「私達はユーリカちゃんと同じクラスで嬉しいよ」
私が言うと、ティアラちゃんとベラちゃんもうんうんと頷いた。
「そ、そう?」
いよいよ嬉しそうだ。
「私も……嬉しい」
とうとうユーリカちゃんがデレた。
そのはにかんだ笑顔が可愛い。
あまりの可愛さに、両脇からティアラちゃんとベラちゃんが抱きついていた。
うんうん、わかる。
そういう私もユーリカちゃんの手をキュッと握っている。
そんな私達を、周りの子達が唖然と見ていた。
いつもツンとしていると評判の悪役令嬢のユーリカちゃんのはにかみ笑顔はさぞかしギャップがすごいだろう。
キュンキュするよね!
いつも孤高のユーリカちゃんに、親しげにくっついている私達のことも驚きの対象だろう。
その後は担任の先生が来て、お馴染みの自己紹介をして解散となった。
ちやみに担任の先生は穏やかそうな、少しふくよかな年配のマイラ先生だ。
間違いなくゲームになんら関係ない先生だった。
◆
「キャロ。明日はダンジョン体験であろう。装備の準備とかしないのか?」
寮の部屋でウメに尋ねられた。
そう。明日はダンジョンに行くのだ。
入学式の次の日に、もうダンジョンだ。
マジかと思うだろうが、行くのは一階層だけだ。
ピクニックみたいな感じで、出てくるモンスターもスライムくらいなので安心安全。
スライムなんて、私がポンと出した薔薇の棘が刺さっただけでも倒せる強さである。
綺麗な風景を楽しみながら同じグループのメンバーと親睦を深めるのが目的だ。
もちろん、乙女ゲームではヒロインとカリム君がトラブルを乗り換えて距離が縮まるダンジョンのイベントだ。ちなみに、何のトラブルかはとんと記憶に残っていない。
まあそれは3年後だし、勝手に2人でウロウロ迷子になってからのトラブルだから、私には関係がない。
明日のダンジョンは遠足気分だ。
「大丈夫。大丈夫。ちゃんと、動きやすい格好でいくから。おやつはこの前いっぱいもらったマルリラ持っていこうかな」
そんなウキウキの私に、ウメは若干心配そうだ。
「ダンジョンを甘くみるでない。ダンジョンは女神様の漏れ出た力が溜まり澱んでできたものなのだぞ。一階層とて油断するでない」
「高等部の先輩がグループ毎に引率してくれるし心配ないよ。そんなに心配ならウメも一緒に行く?」
さすがにペットはお留守番だが、ウメの大きさならリュックの中に入れられる。
「キャロ。我をよく見よ」
ウメがプニプニの手を見せた。
「戦えると?」
「思いません」
どこをとってもプニプニ丸んとしたフォルムは間違いなく戦えまい。
「そうだ。お兄様にいただいたお守りを身につけていくよ」
「おお!それは良いの」
お兄様は、私に身代わりのブレスレットを作って誕生日にプレゼントしてくれて以来、お守りを作ることにはまった。
誕生日はもちろん、何かにつけていろいろなお守りを作ってはプレゼントしてくれていたのだ。
箱いっぱいに入っている中から、良さそうなのを付けられるだけ付けていこう。
それなら、ウメも安心だ。
知っているだろうか?
こういうのをフラグを立てるということを……。
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