入学式
なんか思った反応と違うのに首を傾げつつ、私はクックッといつまでも笑っているソル様にエスコートされて入学式会場まで来た。
「ソル様、私のウインクの何がそんなにおもしろかったんですか?」
あまりに謎で私が尋ねると、ソル様はとっても驚いた顔をされた。
「あれはウインクだったのか?」
私は意味がわからず小首を傾げた。
ウインク以外の何だと言うんだろう?
「はい。ウインクです。可愛らしくないですか?」
私はもう一度、今度はパスカル君になぜか直された手の角度にも気をつけてやって見せた。
「ブフッ!」
また笑われた。
なぜ??
「そうか。これは可愛らしいウインクだったのだな?クックッ、アハハハ……」
ソル様の珍しい大爆笑だ。
美形の笑う姿に周りの御令嬢方がポウッと見つめていた。
「うん。キャロラインは確かに可愛らしい」
ソル様が柔らかく微笑まれて、私の頭を撫でた。
周りからキャアだのギャアだの悲鳴が上がった。
まともにくらった私は咄嗟に鼻を押さえた。
やばい!鼻血を噴くかと思った。
手を見ると赤い血はついてなかったので、強靭な毛細血管は耐えたようだ。
しかし、ソル様の攻撃はこれだけではなかった。
畳みかけてきた!?
「キャロ。また明日ニャン」
そう言って、ソル様は完璧なフワまもをやってのけた。
吊り目がちな瞳を小悪魔的に微笑ませ、パチリとウインクしてグーにした手は猫の手を模して、顎の横あたりにつけた。
そうして、スッといつもの眉間に皺の表情に戻ると、高等部の校舎に向かって行った。
あまりの衝撃に、私はカハッと吐血した。
いや、心情的にね。
大丈夫。現実世界では吐血していない。
しかし、周りにいた御令嬢方は無事ではなかったようだ。
オレンジの髪で団子鼻の、ずんぐりとした体型の御令嬢はプフー!!と鼻血を盛大に噴き上げた。
赤い飛沫に美しい虹がかかった。
そして、その御令嬢はキラキラとしたいい笑顔で「我が人生に悔いなし」と呟いて倒れて逝かれた。
「保健医ー!!」
「はいー!?」
呼ばれた保健医は、新任者なのかオロオロした様子でやってきた。
ショッキングピンクの緩やかウエーブに瓶底眼鏡の若い男性の保健医だ。
「え?どうしろと?」
なんて頼りない保健医だろう。
「とりあえず、保健室に運ばれては?」
私は思わず声をかけた。
「あ、あんた!」
保健医がギョッとして私を見た。
はて?
私は、この派手な髪色の保健医の先生にとんと見覚えないが?
「えっと、ごめんなさい。知り合いでしたっけ?」
「ハッ、いえいえ、滅相もない。初めましてですよ!?」
あ、そうだよね。
「おい!何をしているんだ!早くその御令嬢を保健室で手当しないか!?」
「え!?私が!?」
いやいや、他に誰がいると?
「やだぁ、血まみれよぉ。お手々汚れちゃう」
小さくオネェ言葉が飛び出した。
え!?と驚いて保健医を見ると、真剣な顔でたまたま運悪く?通りかかった騎士、あ、イリアス君だ。に指示を出して運ばせていた。
オネェ言葉は気のせいか。
さすがはイリアス君!
全ての女性を愛する男は、大変だ!とすぐさま持ち上げようとした。
しかし、小さくウッと呻いた。
どうやら持ち上がらなかったようだ。
「お兄様、魔法にばかり頼って鍛え方が足りませんわ」
いつのまに来たのか、ティアラちゃんがご機嫌ようと微笑んだ。
その後、イリアス君は肉体強化魔法を使って鼻血の御令嬢を運んでいかれた。
「何だか、大変な様相ですね?何があったのですか?」
ティアラちゃんが不思議そうに周りを見回した。
鼻血の御令嬢に気を取られて気づかなかったが、周りの御令嬢達もひどい有様だった。
ボオッとした赤い顔に、貴族にあるまじき緩んだ顔をした御令嬢方が、ユラユラと体を揺らして多勢いらっしゃる。
その様子は酔っ払いのようだ。
ある意味麗しのソル様に酔ってしまったと言えるかも?
それにしても、ソル様!恐ろしい子!
(某永遠の名作漫画風に白目で)
「さ、さあ?何があったのか、私にはとんと見当もつかず?」
そっと、犯人のソル様を庇っておいた。
私はユラユラと揺れてらっしゃる御令嬢方を置いて、ティアラちゃんとさっさと目立たない後ろの座席をキープした。
もちろん、その後の入学式は散々だった。
式の間中、御令嬢はしまりのない赤いお顔で揺れていた。
壇上の先生方はさぞ不可解であっただろう。
御令嬢達の隣に座った御令息達は、決して目を向けず必死で無の表情で座っていた。
時折、何かを思い出すようにウフフ〜と笑う御令嬢に体をビクッとされていた。
保護者同伴でなくて良かったと思った入学式だった。
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