攻略対象ソルフォード・フィジマグ
ユーリカの兄であり、絶対零度の氷の騎士ソルフォード・フィジマグ……攻略対象様だぁ!!
攻略対象ソルフォード・フィジマグ。
悪役令嬢ユーリカの4つ上の兄で、蒼みを帯びた銀の短髪に切れ長の三白眼、ユーリカちゃんと同じワインレッドの瞳、整いすぎた顔は常に不機嫌に眉間に皺を寄せた攻略対象の中で最難度のお人だ。
私は早々に諦めて攻略できていない。
画面で見た時より幼いが、眉間に皺の不機嫌顔はそのまんまの彼が目の前でユーリカちゃんを無言で睨んでいた。
ユーリカちゃんは蛇に睨まれたカエル状態だ。
コリムも体を小さくして尻尾が股下に入ってしまっている。
私はその隣で気配を殺して空気になりきった。
重い。この部屋の中の重力が何かおかしい気がする。
私はお店の方で待たせてもらおうかな。
そそっとドアに向かおうとする私を、ユーリカちゃんが涙目で腕にしがみついた。
コリムも私のドレスを必死で口に咥えている。
「キャロライン、私を置いて逃げるの!?」
「いえいえ、私はお邪魔かなと……」
「お願い。私も連れてって」
「いや、無理です」
「じゃあ、お兄様をどうにかしなさい」
「もっと無理です」
私達は小声でコソコソと話す。
ユーリカちゃんの気持ちはわかるが無理は無理だ。
「君は?」
今までユーリカちゃんに向いていた目が私を見た。
ヒィ!
「わ、私の事はどうぞお気になさらず」
「君は?」
ジッと私から目を逸らさない三白眼の瞳。
私は大きく深呼吸した。
今こそフワまもを発動して逃げるきるのだ。
「私は、伯爵令嬢キャロライン・ヴィゼッタですぅ。よろしくね!」
テレビのアイドルを真似てウィンクして握り拳を顎に当ててみる。
重かった空気に寒さが加わった。
え?ソルフォード様、魔法を発動してる?
ユーリカちゃんも腕から離れ、物凄い目で私を見てる。
コリムがユーリカちゃんの肩に飛び乗った。
「君はおかしいと人から言われた事はないか?」
え、おかしい?何が?
私が首を傾げると、ソルフォード様が気持ちを切り替えるようにひとつ息を吐いた。
「失礼した。私はユーリカの兄ソルフォード・フィジマグだ。妹が世話をかけた」
「だ、大丈夫だピョン?」
咄嗟に手でウサ耳も作った。
あ、これは何か違った?
フワまもが迷走し始めたのを感じた。
「君がユーリカに気づいてくれたと聞いた。感謝する」
「と、とんでもござらん」
あぁ、別方向に違う感じがする。
いや、まだ諦めちゃ駄目だ!失敗を恐れるな!進め!
そうだ!このまま動物でゴーだ!
「君が見つけてくれなかったら妹は攫われていたかもしれない」
「無事で何よりニャン」
「ユーリカとはずいぶん仲良くなったようだな」
「嬉しいピョン」
「こんなに楽しそうなユーリカは初めて見た」
「私も楽しいウキッ」
「本当に感謝する」
「とんでもござらん」
あ、間違った。
「君の父上は今、私の父上とこちらに向かっている」
「分かったメェ〜」
「もうすぐ来るだろう」
「了解……」
呆気なくも、もう動物が思いつかない。
その時ピンクのまるんとしたお尻を思い出した。
「了解ブー!」
「ブホッ」
眉間に皺の不機嫌顔がデフォルトのソルフォード様が横を向いて口元を手で覆って肩を震わせて笑っている。
「お兄様が笑った……フフ」
私の隣でユーリカちゃんも口に手を当て笑い始めた。
肩のコリムの尻尾が機嫌良さげにユラユラ揺れ、ユーリカちゃんの顔に頭をスリスリとしている。
え?何?何で?
困惑する私を前に二人は遠慮なく笑い続けたのだった。
ソルフォード様はひとしきり笑った後、またデフォルトの眉間に皺の不機嫌な顔に戻って言った。
いや笑った分、最初より柔らかいか?
「ユーリカ、心配した。無事で良かった」
「私を心配……?お兄様は私が嫌いなのに?」
ユーリカちゃんはしまったと言う風に口を手で押さえた。
その言葉にソルフォード様はジロリとユーリカちゃんを睨みつけた。
ユーリカちゃんは睨まれて、また固まってしまう。
その表情も今にも泣きそうだ。
肩にいるコリムの尻尾もしょんぼりと下を向く。
あれ?でも、何か……?
二人を代わる代わる見て気づいた。
ソルフォード様は無言で立ち去ろうとしたが、私は慌ててその腕を捕まえて引き止め、ユーリカちゃんの隣に座らせた。
コリムはユーリカちゃんの肩から下り、ソルフォード様の足に体を擦り寄せたり、ユーリカちゃんの足元を心配そうにウロウロしたりと落ち着かない。
あ、やっぱり。
「何か分かりました……」
コリムがユーリカちゃんに敵意を持つ人に体を擦り寄せたりするわけがない。
「えっとですね、私にもお兄様がいるのですが、私はお兄様が私を大好きな事を知っていますし、お兄様も私がお兄様を大好きな事を知っています。なぜか分かりますか?」
「……貴重な読心の魔法持ちか?」
小首を傾げて答えるソルフォード様に私は残念な目を向けた。
そんな貴重な魔法使いがホイホイ田舎にいるわけがない。
「お互いに、大好きって言葉でも行動でも伝えているから分かるのですよ。お兄様はいつも大好きと私に言いますし、抱っこしてくれたり、ほっぺにキスをしてくれます。もちろん、私もします。フィジマグ様もユーリカ様も読心の魔法を持っていないのに、なぜ大好きな気持ちが相手に伝わると思っているのですか?」
私の言葉に二人はハッとしたようにお互いを見つめた。
さすが兄妹、その表情がそっくりだ。
ほんの少しの空白の後、ソルフォード様は不機嫌顔はそのままに、でも一生懸命ユーリカちゃんを見つめて言った。
「私は……何よりもユーリカが大切で大好きだよ」
それはとても気持ちがこもっているように感じた。
伝わっただろうか?
ユーリカちゃんを見ると、彼女は一心に兄であるソルフォード様を見つめていた。
その心を目を凝らして見ようとしているようだ。
やがて、その瞳が揺れ始め、みるみる涙が盛り上りポロポロと泣き始めた。
ソルフォード様はユーリカちゃんを膝に抱き上げ、ゆっくり背中をさすった。
ユーリカちゃんがギューッとその首に抱きついた。
「すまない。不安にさせていたのだな。私は目つきが悪いから怖がらせてしまわないか不安だったのだ。ずっと大切で大好きだったよ」
いつの間に来ていたのだろう?
私のお父様と、髪の色はユーリカちゃんにお顔はソルフォード様にそっくりな不機嫌顔のお二人のお父様がソルフォード様とユーリカちゃんを優しく抱きしめた。
足元ではコリムがソルフォード様と二人のお父様の足に体を擦り寄せ、ニャーンと嬉しそうに鳴いた。
お父様と私は微笑み合うと、そっとその部屋から出たのだった……。
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