ソル様と待ち合わせ
パスカル君→筋様。ベラちゃんの婚約者。
ソル様→ついこの前キャロちゃんの婚約者になったユーリカちゃん兄。公爵令息。
「ウメ、正直に言って。制服似合う?」
私は、恐る恐るクルクルと回ってウメに制服を見せた。
ブレザータイプの制服は淡い水色で、首元にピンクのリボンを結び、スカートは膝丈で裾にレースが付いていてふんわりしたシルエットだ。
男子も水色のブレザータイプの制服だが、そのシルエットは体型に添い細身のシルエットだった。
中身はアラサーに片手をかけた私だ。
こんなアイドルが着るような制服を着てイタくないだろうか。
いや、普段ドレスを着ていてなんなんだが、それはそういうものとして受け入れている。
しかし、このいかにもアイドルチックな制服は、前世にも通ずるものだからなんとも落ち着かないのだ。
外見はキャロライン10歳なのだが、どうにも気恥ずかしくてしょうがない。
「よく似合っておるぞ」
「本当に?なんかおばちゃんがにじみ出てない?」
「其方は10歳であろ?」
「中身は違うでしょ?」
「中身なぞ誰も気づかぬであろ」
それなら大丈夫か。
やっと私は安堵した。
今日からとうとう学園生活スタートだ。
「ところで、そんなにのんびりしておって良いのか?ソルフォードと今日は一緒に行くのであろ?」
ソル様とは婚約者になったあとも、うっかりその事実を忘れてしまうほど、お互い通常運転で過ごしていた。
私もあのお茶会以外は、入学準備やら商会の仕事やらでバタバタしていたし、公爵令息であるソル様もなかなか忙しくしていたようだ。
しかし、学園初日やイベントなどはやはり婚約者がエスコートするものらしい。
私はすっかり頭になかったが、ソル様はきちんとしていて、今日のエスコートのお声をかけてくれたのだ。
一瞬、婚約したことを忘れて「何でですか?」と答えたのはご愛嬌だ。
ソル様も一瞬、私との婚約は勘違いかと思われたようで、小首を傾げてお兄様に婚約を確認していた。
お兄様はあきれた視線で私達を見ていた。
大丈夫!すぐ思い出したから!
そうして、今日は中等部の入学式の会場までソル様がエスコートしてくれる約束だったのだ。
私は時計を見てハッとする。
やばい!待ち合わせの時間まであと15分だ。
「ウメ、今日はどうする?」
「式だけであろ?我は寝ておる」
基本、ペットは参加自由だ。
学園にはペットシッターもペット広場も完備だ。
「わかった。じゃあ、行ってくるから」
ウメが籠の布団にもぐって、手だけ振った。
ソル様の待ち合わせ場所は、寮の入り口だ。
蒼みを帯びた艶やかな銀の髪に、ワインレッドの鋭い三白眼、眉間の皺がデフォルトのソル様が腕組みして待っていた。
冷たくも整ったお顔のソル様が中等部女子寮の前で待っているのだ。
遠巻きに注目の的だった。
私はサアッと青褪めた。
しまった!遅れた。
普通は爵位の下の私が先に来て待っているべきだろう。
「ソル様!申し訳ありません。お待たせいたしました」
「いや、そういうものなのだろう?」
そういうとはどういう?
「父上の話によると、婚約者を待たせるなど言語道断なのだそうだ。待たせて貧血で倒れたら大変だとおっしゃった」
貧血?私は前世も今世も、何それおいしいの状態だ。
「女性はそんなに倒れるものなのか?」
「いえ、私は全く。強いて言うなら、見習いの騎士訓練に参加させていただいて、魔法量アップのために気絶するまで鍛えて倒れるくらいです」
それも、3分時戻しののための目標回数クリアしているから、私がこの先倒れるなんてことはなさそうだ。
「ああ。ハウルから聞いた。私もユーリカもやってみた」
「気絶するまで鍛えて、魔法量までアップって素晴らしいですよね!」
「そうだな」
ソル様の眉間の皺の形が変わった。
心情的には少し微笑まれたようだ。
「ああ、もしかしたら父上の基準は母上なのかもしれない。母上は昔からお体が弱い」
なるほど。
確かソル様達のお母様は、元々お体が弱く滅多に社交の場には出られず、さらに弟君を出産後はベッドに横になっていることが多いと聞いた。
「私は倒れることはないです。とりあえず、待ち合わせはお互い約束の5分前あたりを目指すのはどうでしょう?」
「そうだな。決めておけば気持ちも楽だな」
「はい」
丸く決まったところで、ふと周りの声が聞こえた。
「あの方が、フィジマグ様の婚約者?」
「不釣り合いね」
「見て、フィジマグ様も不機嫌そうよ」
ヒソヒソと囁かれている。
こんな時、どうすれば良いか。
そんなものは昔から決まっている。
フワマモだ!
フッフッフッ。とうとう封印を解く時が来たようだ。
お兄様に、まだ早いかなと言われたあの日から5年が経った。
もう、早くはない。
さあ!今、封印は解かれた!
私は顎に拳を当て、バチリとソル様にウィンクした。
「それでは行くピョン!」
その場にいたみんなが一歩後退りし、ソル様がブホッと吐き出され、たまたま通りかかったパスカル君が「拳の角度はこうです」とスッと直して、また歩いて行った。
あれ?なんか思った反応と違うような?
⭐︎書籍化のお知らせ⭐︎
「王太子が公爵令嬢に婚約破棄するのを他人事で見ていたら後日まさかのとばっちりを受けました」
〜とばっちり令嬢と近衞騎士団長の溺愛の始まる可能性〜
8月26日 (月) コミックシーモア様より先行配信です。
特典SSとして、
前巻に「ミリアムと黄色い薔薇と初恋と」が付きます。
kindle様など他書店様からは 9月20日 (金) に配信予定です。
下巻「「王太子が公爵令嬢に婚約破棄するのを他人事で見ていたら後日まさかのとばっちりを受けました」
〜扇子言語のある世界、とばっちり令嬢は近衞騎士団長と結婚して幸せになります〜
こちらは後日、発売日をご報告します(^^)
良かったら覗いてみていただけたら嬉しいです ♪
表紙イラストは、この秋アニメ化の「ハイガクラ」の作者様 高山しのぶ 先生です!
電子書籍記念SSを番外編の方に投稿します。
こちらも読んでいただけたら嬉しいです(^^)





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