トランプをしよう
困った…この空気。どうしたら良いやら……。
そうだ、何かゲームだ。みんなで楽しく遊んだら自然と仲良くなれるんじゃないかな。
手軽にできるゲーム、トランプだ!
「みんなでトランプをしませんか?」
「いいですわね」
みんなもこの空気を変えたかったのだろう。すぐに賛成した。
「じゃあ、ババ抜きをしようか」
まずはやはり定番からだろう。
「キャロライン、ババ抜きを知らないわ。教えなさい」
驚いたことにユーリカちゃんはババ抜きを知らないようだ。
私はユーリカちゃんにババ抜きの説明をした。
「わかったわ。簡単そうね」
ユーリカちゃんが自信満々に頷いた。
そして、いざババ抜きをすると……。
ユーリカちゃんは圧倒的な弱さを発揮した。
ババを引いたユーリカちゃん。
顔には出ないのだが、わかりやすく体がビクッとした。
そして、私がユーリカちゃんのババをひこうとするとハラハラした表情になるのだ。
わざと引こうとすると、ユーリカちゃんは引かせまいとグッと指に力を込めた。
後ろからユーリカちゃんの札が丸見えの2人は顔を見合わせた。
負けたくないが、私が引くのも嫌なようでどんどん目がグルグルし始めた。
見かねたティアラちゃんが私と先を交換すると、やはりティアラちゃんがババを引くのも嫌なようで、ティアラちゃんがババを引こうとすると「こっちになさい!私の言うことが聞けないの!?」とババ以外の札を渡していた。
はっきり言ってゲームとしてはおもしろくない。
でも、そんなユーリカちゃんにティアラちゃんとベラちゃんがほっこりし始めた。
とりあえず私はババ抜きを諦めることにした。
人には向き不向きがあるのだ。
「今度は神経衰弱をしよう」
「これ以上、私の神経を衰弱させるゲーム!?」
どうやらこれも初めてのようだ。
ベラちゃんが「そんなに危険なゲームではありませんわ」と、ユーリカちゃんに説明してくれた。
「わかったわ」
さて、この神経衰弱。私が圧倒的に弱かった。
ユーリカちゃんはなぜか、初めて開ける札が同じ数字ばかりだ。
その運が強い。やはり、公爵家に生まれるだけあった。
ベラちゃんとユーリカちゃんは記憶力がすごい。
ベラちゃんは筋肉をミックスして覚えている感じだ。
「3-2はヒラメ筋で覚えた4ですね」
ブツブツ言っている言葉が意味不明なのだが、ピタッと当たる。
そして、ティアラちゃんは感覚的に覚えているようで、「ここだったような……」と言いつつバンバン当てていく。
そして、私だが……。
「この3はどこかで見たような……?これ?」
札をめくると5だった……。
万事がこの調子だった。
脳が、開いた札の数字を新しく開いた札の数字にどんどん上書きされていってしまうのだ。
頭をツルンと記憶が滑っていく。
どうしよう、全く札が取れない。
あまりに取れない私に、何とも言えない3人の視線が集まる。
そして、私はまた3を開けた。
なんで、毎回3をひいてしまうのか……。
どれ?どれだっけ?
私はキョロキョロ札を見回した。
そっと札を開けようとすると、3人がプルプルと首を横に振った。
あ、これではなさそうだ。
でも、わからない。困って3人を見た。
私だけひと組も取れてない。
多分、私の目は涙目だろう。
3人が一斉に一つの札を差した。
そして、同じ行動に「あ」という顔をしてクスクス笑った。
私はありがたく札をめくると、やっとひと組取れた。
みんなの優しさがありがたい。
3人共嬉しそうに拍手をしてくれた。
「ありがとうごさいます!みなさんのおかげです!」
さすがに1枚も取れないのは嫌だった。
最終的にぶっちぎりで負けだけど、3人の距離が縮まったような気がした。
「ユーリカ様は王太子殿下に近づく令嬢に容赦なく意地悪をすると聞きましたが、本当でしょうか?」
トランプのあと、ベラちゃんがズバリ聞いた。
「カリム様は女性に囲まれると疲れてしまうそうだから、ご遠慮願ってるだけだわ」
「そうだったのですね」
「あの、ご令嬢方としても少しでも喋りたいのではないでしょうか?」
ティアラちゃんがおずおずと言った。
「確かにそれはわかるけど、普段からお忙しいカルム殿下を煩わせたくないわ」
なるほど。
「囲まれなければいいんじゃないですか?」
「どういうこと?キャロライン」
きっとたくさんのご令嬢に囲まれると、お優しいカリム君はみんなと話そうとして気疲れしてしまうのだろう。
「3人とかなら大丈夫ですよね?」
「そうね」
「整理券でも配って順番に話せるようにするとかどうですか?」
「いいアイデアだわ!」
「だったら、その整理券はユーリカ様のお茶会で渡すというのはどうでしょう?はっきり言ってユーリカ様の評判はかなり悪いです。でも、今日接してみておもし……いえ、お優しい方とわかりましたので、このまま放っておけません」
いつの間に来たのか、コアラのインナー君がムンと力こぶを作った。
「お茶会にお誘いして、整理券を配れば派閥が作れると思います。味方を増やしましょう。きっと嫌な噂もユーリカ様ときちんとお話すればなくなります。それでも、わからない方とは私がきちんとお話し合いしてみます」
ティアラちゃんが優しく微笑んだ膝で、うさぎのミミーが目をギラリと光らせた。
「あ、ありがとう」
ユーリカちゃんの顔が赤くなり、堪えきれない笑みで口がムズムズと動いている。
「キャロライン。私は2人と友達になりたいのだけど、どうしたらいいの?」
ユーリカちゃんがヒソヒソと私に尋ねたが、2人にも聞こえているようで孫をみるような表情でユーリカちゃんを見ていた。
「お友達になってほしいですって言ってみると良いですよ」
「わかったわ」
ユーリカちゃんが緊張した顔で2人を見た。
そして、言った。
「あなた達、私のお友達になりなさい!」
ユーリカちゃんは、思い切り言い間違った。
アワアワと2人を見た。
でも、2人はちゃんとユーリカちゃんの言いたいことをわかっている。
「「はい。喜んで!」」
こうして、ユーリカちゃんの友達の輪が広がったのだった。