お茶会をしよう
「あれは邪魔だ。始末しろ」
「え〜、あんなに可愛いらしいのにもったいな〜い」
いろいろあったデビュタントも落ち着いて、私はとうとう乙女ゲームの舞台であるバラニカ魔法学園の寮に入った。
乙女ゲーム開始は3年後。
それまでにしっかりユーリカちゃんとカリム王子が相思相愛になっているよう、私もがんばらなくては!
バラニカ学園の寮は、学園の敷地内に高等部と初等部の女子寮と男子寮の4棟建っている。
その真ん中に食堂があり4棟は渡り廊下で繋がっていた。
朝晩はこの食堂でみんなで食べることになる。
お昼は注文するとお弁当を作ってもらえるし、家の料理人に届けてもらっても良いし、購買で買っても自由だ。
部屋は1人部屋でペットも一緒だ。
侍女は、基本的には学園に一緒に連れて来られないのでキリルには商会の方をお願いした。
きっと、生き生きと働いているだろう。
どうしても侍女の手が必要な時は申請して呼ぶことができるし、朝の身支度などは寮に勤める侍女の手を借りられるそうだ。
私はだいたい自分でできるから必要ない。
部屋には簡易キッチンと浴室がついていて、寝室とリビングもある。
作りもちょっとお高いホテルのような感じだ。
さすが貴族のための寮だ。
ウメは籠で丸くなっている。
秘かに、このまるんとした背中が私のお気に入りだ。
入寮して3日経ち、部屋は大分整った。
そして、今日は待ちに待ったユーリカちゃん、ベラちゃん、ティアラちゃんを誘ったお茶会の日だ!
デビュタントの一件で、優しいベラちゃんとティアラちゃんはとにかく私を心配してくれた。
ユーリカちゃんの噂を鵜呑みにするわけではないが、大丈夫なのか手紙を送ってきてくれたのだ。
私はだったらユーリカちゃんと直に会ってもらえば手っ取り早いと思った。
会ってみればユーリカちゃんの可愛らしいツンデレさんに安心するに違いない。
そして、ユーリカちゃんのお友達の輪が広がってくれたら嬉しい。
気軽に美味しいお菓子を食べておしゃべりすればお互いのことがよくわかるに違いない。
私はウキウキとこたつの上に摘めるお菓子のお皿と山に積んだミカンによく似た果物のミルカンの籠をデンと載せる。
そう、気づいただろうか!?
こたつ!!
もちろん私はこたつの原理も作り方も知らない。
でもお兄様に話したら魔石を組み合わせてそれっぽい物を作って去年の誕生日プレゼントにくれたのだ。
さすがはお兄様!大好きだ!
私は一通り準備を終えるとこたつに入ってグデリとした。
まだまだ、芽吹きの月の始めは肌寒いからね〜。
はぁ、やっぱりこたつは魔性だね。
『キャロ、もうドアの前に来ている者がおるぞ。さっきからずっとウロウロしておる』
私は時計を見ると、まだ約束の30分前だ。
間違えてしまったのだろうか?
私はこたつからどっこいしょと出るとドアを開けてみた。
そこにはビクッとしたユーリカちゃんとその腕に抱かれたコリムがいた。
私と目が合うとユーリカちゃんはカカカ〜と真っ赤になった。
「こ、こんなところでキャロラインと会うなんて偶然ね!」
いや、ここは私の部屋の前だよ?
「ち、違うのよ!?私はここを、そう、たまたま通りかかっただけよ」
たまたまって……、だってユーリカちゃんのお部屋は高位貴族だから一階だよ?
ちなみに私は3階。エレベーターなんて物はないから地道に自分の足で上り下りだ。
「楽しみすぎて朝早く目が覚めて、待ちきれなくてついつい来ちゃった訳ではないからね!?勘違いしないでね!?」
アワアワと言い訳する安定のツンデレさんに私はほっこりした。
ごちそうさまです。合掌。
「まあまあ。せっかくたまたま偶然会ったのですから良かったら中に入ってください」
「そ、そうね!たまたま偶然会っただけだけど、お邪魔するわ」
ユーリカちゃんは嬉しそうに口をムズムズさせて私の部屋に入った。
ユーリカちゃんがキョロキョロと珍しそうに私の部屋を見回した。
「お友達のお部屋なんて初めて来たわ。可愛らしい部屋ね」
「お兄様チョイスです。私も部屋にお友達が来たのはユーリカ様が初めてです」
「そう、そうなのね。光栄に思いなさい」
ドヤァな顔で胸を張ったユーリカちゃんはすこぶる嬉しそうだ。
「そうだわ。たまたまたくさん部屋にあったからマルリラを持って来てあげたわ」
おお、私の大好物だ。
ユーリカちゃん、覚えていてくれたんだ!
多分、これはわざわざ買ってくれたのだろう。
好き!
「ありがとうございます!嬉しいです」
「どういたしまして」
ユーリカちゃんはホッとしたようにニコリと笑った。
コリムがニャアンと鳴いてユーリカちゃんの腕から床に下りた。
私の足に体を擦り寄せる。
前に会った時はまだ小さな子猫だったのにもう大人の猫になっていた。
体がシュッとしてしなやかで品があって赤毛が艶々で綺麗なのだ。
間違いなく美猫だ。
「コリムは大きくなりましたね〜。美人さん!」
私がコリムを撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。
可愛い!
「そうね。キャロラインと初めて会った時はまだ小さな子猫だったものね」
「はい」
「ウメは……あんまり変わってないわね」
「……はい」
まあ、ウメは一応神使らしいしね。
「ところでですね、今日のお茶会の一番の目的なんですが、それはずばり!ユーリカ様の友達の輪を広げよう!なんです」
「は!?私はキャロラインが友達でいるだけで充分よ!?それに変な噂も広がっているし……」
ユーリカちゃんが悲しげに眉を八の字にした。
すかさずコリムがナ〜ンとユーリカちゃんの肩に飛び乗り顔を舐める。
「はい。でも、本当のユーリカ様を知ってもらえれば絶対大丈夫ですよ!まずは私のお友達からいってみましょう。みんな優しくていい子達なので絶対にお友達になれます!」
ユーリカちゃんはしばらくコリムに顔を舐められながら考え込んでいたが、グッと顔を上げた。
「わかったわ!私のお友達の輪を広げるわ!」
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