はい、喜んでお受けいたします
ヒィ!やっぱり見た目通りの怖い人達だ。
「あの〜……」
恐る恐る声がかかった。
あ、お父様!それにゴルとミドラ君とウメ!
ダンスが終わったからペット広場からウメ達を連れてきてくれてようだ。
『大分前からいたぞ。待ちくたびれた』
この集団を前にどうしようオロオロとなっていたのだろう。
確かにこの集団を前に私達に声をかけるのは勇気がいるだろう。
「おい、ブタがいるぞ?」
「厨房から逃げたのか?」
「いや、首にリボンがついているからペットじゃないか?」
『ふむ。騒がしいの』
ウメはキラキラ神々しいオーラを出して私の足元に来た。
「え?まさかあの御令嬢の?」
「え?ブタがペット?」
デヒュタントの出だしは何だかんだで目立っていなかったが、今この注目度だ。
周りの貴族達のえ〜!?という視線が突き刺さる。
ああ、とうとうブタを飼っている奇特な令嬢のレッテルがついてしまった。
これでも私は結婚できるだろうか……。
『なに、気にするでない。我は気にせぬ』
私は気にする!
はぁとため息を吐きウメを抱き上げた。
まあ、しょうがない。
「おお、それがシマシマの女神のペットか」
「素晴らしい」
「神使の如き神々しさだ」
おや?ちょっと風向きが変わったか?
『よくわかっておる人間もおるな』
ウメがプヒッと満足げに鳴いた。
「確かに言われてみれば神々しい気もするか?ブタだけど」
「確かに美しいか?ブタだけど」
おじいちゃん達のナイスな褒め言葉で若干最後の一言は気になるが奇特令嬢のレッテルは免れたようだ。
よし!
「久しいな、ヴィゼッタ伯爵」
「はい、お久しぶりでございます。フィジマグ公爵。それで、あの、私の娘に何のご用でしょうか?」
お父様が勇気を振り絞って尋ねてくれた。
本当それ!
「ああ、我らのシマシマの女神に礼をしようと思ってな」
いや、あなた方の私ではない。
「シマシマの女神よ。これほどまでに我らの愛らしいハムスターに尽くした礼をしたい」
どうしよう。尽くしたこともないのに礼とか怖い。
「いえいえ、私は何もしておりませんのでお気になさらず」
「さすがはシマシマの女神だ。なんと謙虚なことか」
『キャロよ、我はそろそろ飽きたので帰りたいぞ?』
私も帰りたいが、お願い。ウメ、今はちょっと黙ってようか。
「そうだ、ヴィゼッタ嬢はまだ婚約者がいないな?良い縁談はどうだ?」
ん?それは良いかも!
前世で私の男を見る目のなさは証明されている。
「お待ちください。お気持ちはありがたいですが、苦労した娘には好いた男性と添わせたいと思っております」
しかし、お父様が慌てて止めた。
隣でお兄様もうんうんと頷いている。
「では、ヴィゼッタ嬢は今気になる男性がいるのだな?」
ずずいとおじいちゃん達が身を乗り出す。
「娘はまだ10歳ですので」
「甘い!ソロバンを売り出した商会長であり、ハムスター同盟の後見を持った美しい娘だ。さっさと決めんと高位の貴族に申し込まれたら断れないぞ」
「それは確かに……」
え?どうしよう?そう言われると怖いかもしれない。
悠長に恋愛相手を探そうとか言っている場合ではない?
私は見る目ないし自力は微妙だ。
もうこれはお願いした方がいい気がして来た。
「お父様、私はお願いしたいと思います」
ハムスター同盟のおじいちゃん達の眼力なら下手な相手は紹介されないだろう。
「我らのお勧めは、年は14歳。高等学園の1年生」
ふむふむ。お兄様と同じ年だから4つ上か。
「学園の成績は常に上位で剣の腕も確かだ」
おお!頭が良くて運動神経も良いと!
「背が高く見目も美しく整っているが、人を寄せ付けない雰囲気が玉に瑕だな」
素晴らしい!人を寄せ付けない雰囲気くらいなんのマイナスにもならない。
ソル様だってそんな雰囲気だしね。
「我らのお勧めはソルフォード・フィジマグ公爵令息だ!」
ババーンと効果音が幻聴が聞こえるくらい高らかに宣言した。
なんと!ソル様と同姓同名か!
「お兄様、ソル様と同じ名前の方ですね?」
私がコソリとお兄様に言うとお兄様が顎に手を当ててじっくり考え込んでいた。
「キャロ、同姓同名じゃなく本人だ。僕もソルならいいと思う」
「うん、ソルフォード様なら安心だ」
お父様も頷いた。
その一瞬の間、周りの令嬢から悲鳴が上がった。
「そんな!反対ですわ」
「本人の意思を無視してはなりませんわ!」
「フィジマグ公爵令息の意思を確認せずに駄目ですわ!」
中には気を失う御令嬢も何人かいて、速やかに運ばれて行った。
その騒ぎにとうとう王様一家も来てしまった。
金の髪にダンディな髭を生やした甘やかなマスクの王様に、濃い紫の髪に品良く宝石をちらばめた真面目そうな王妃メアリー様、メアリー様とよく似た容姿の第一王子シグラ様、二人の子持ちには全く見えないまだ10代に見える側妃エメリア様、さっき会った第二王子カリム様にその姉君のマチルダ姫と王様一家勢揃いだ。
王族のペットである白い蛇がみんなの腕に巻きついている。
なんで、こんな大事に!?
「話は聞いた。周りが勝手に決めてはいけないよ?まずは本人の意思を確認しなくては。ね?ソルフォード。もし他に好きな令嬢がいたら遠慮なくいっておくれ。私が縁を取り持とう」
王様はそう言うと側妃エメリア様が生んだ自身の娘マチルダ姫に意味ありげにチラリと視線を送った。
側妃とよく似た艶々の真っ直ぐの黒髪にパチリとした金の瞳のお人形さんのように可愛らしい姫がオドロオドロと恐ろしい形相で私を睨んでいた。
ヒィ、呪いの市松人形みたいだ。
またその腕の白蛇がシャーッとパッカリ口を開けているのが祟られそうでなお怖い。
これは間違いなくソル様がお好きなんだね。
で、王様としても可愛い娘の希望を叶えたいと。
それでソル様に姫の名前を言えと無言の圧力をかけているのか。
「私はキャロライン・ヴィゼッタ嬢を好ましく思っております」
そう言うと、ソル様が私に跪いた。
「キャロライン・ヴィゼッタ嬢。私の婚約者になってほしい」
私はすぐさま理解した。
なるほど。ハムスター同盟のおじいちゃん達があえてこの場で騒ぎを起こしてソル様を私の婚約者に推したのは王様に横槍を入れさせないためか。
第一王子の側近であるソル様とマチルダ姫の婚約が結ばれてしまうとさすがにそのまま側近は続けられない。
フィジマグ公爵家が側室腹の第二王子の派閥につくことになり第一王子の立場が弱くなってしまうと。
その点うちはついこの前までど貧乏だったから派閥も何もない。
ソル様のお相手にぴったりなのか。
うん。ソル様のことは嫌いではない。
恋かと問われると微妙だが、政略結婚としては最良なのかもしれない。
「はい。喜んでお受けいたします」
私はにこやかに微笑んで頷いた。
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みなさまお気づきでしょうか?
美貌のソルフォードが跪きキャロにプロポーズ……素敵な場面ですね。
しかし、キャロの腕にはウメがいたのです!
一気にキャロらしい場面に早変わりです笑