シマシマの女神
「だって、私はカリム様と踊れなくしたのよ」
前回に続きソル様視点のお話です。
次回からキャロちゃん視点に戻ります。
「はい!本当にありがとうございました!」
「え?」
「え?」
キャロとユーリカが驚いたように顔を見合わせる二人のそばで私も首を傾げた。
「カリム様を見たのよね?キャロラインは目が悪いの?」
ああ、なるほど。キャロは視力が悪いのか。
私は納得する。
「いえ、両目とも2.0です」
は?それは素晴らしい視力だ。
いよいよキャロとユーリカが首を傾げる。
私も訳がわからない。
ついつい助けを求めるようにハウルを見てしまった。
ハウルが訳知り顔で私に耳打ちする。
「実はキャロはダンスがちょっと個性豊かで独特の感性を持っていて、出す足全てを華麗に踏み抜いて最後は見事な足さばきでひっかけるんだ。だから、万が一を考えてキャロと踊る人には受け身が必須なんだよね」
私は個性豊かで独特の感性?ハウルの絵のような感じか?
「苦肉の策でキャロは曲は丸無視、相手に動きは丸投げしてくっついていっているだけなんだ」
は?一体何の冗談だ?
あんなに美しいダンスを披露したキャロが?
しかし、ハウルはいたって真実を述べた表情をしている。
「はあ!?キャロライン、あんなに見事に踊っていたのに!?」
狐につままれたような気持ちの私のそばでユーリカも同じ内容を聞いたのか驚いた声を上げた。
「あれは全てソル様のお力です」
キャロが私に深い感謝を視線にこめて両手を合わせて拝んできた。
これは本気で大層なレベルのダンスのようだ。
それではカリム殿下にダンスを誘われてさぞかし焦っただろう。
そんなキャロにユーリカはプッ吹き出し扇子で口元を隠してケラケラ笑った。
キャロも一緒にケラケラと笑う。
それはどう見ても仲良しな2人の姿だった。
周りが怪訝そうに私達を遠巻きに様子をうかがい始めた。
「あの御令嬢は本当に感謝しているようだぞ」
「お二人は仲が良いご様子だ」
「もしや本当にフィジマグ公爵令嬢は助けて差し上げたのかもしれない?」
半信半疑ながらいつもと違う視線がユーリカに向けられ始めた。
「ソルフォード、ユーリカ」
その時、ソル様をそっくりそのまま大人にしたような眉間に深い皺の男性が声をかけてきた。
「父上」
「お父様」
あ、この人はソル様達のお父様だ。
私とお兄様は急いで礼をとった。
「楽にしてくれ」
低く迫力のある声で言われ顔をあげると、ドドーンと重低音なテーマソングが似合いそうなマフィアな雰囲気のおじ様、おじい様達がわらわらといた。
え!?何の集団!?カチコミ!?
みんな一様にいかめつい堅気には見えない雰囲気の人達ばかりだ。しかも、幹部クラスと首領だ。
お兄様が庇うように私の前に立った。
「お前がシマシマの女神か?」
え?何それ?
「違います」
私はそんなけったいな者になった覚えはない。
マフィアのおじ様達がザワザワと顔を見合わせる。
周りの貴族達の視線も痛い。
「もう一度問おう。お前がシマシマの女神だな」
なぜか疑問系から確認系になっている。
「いえ、違います。人違いです」
私はもう一度否定する。
「キャロ。君はハムスター同盟の間ではシマシマの女神と言われている」
ソル様がその氷のような美貌で訳の分からないことをおっしゃった。はい?
私はコテリと首を傾げた。
その時気づいた。
マフィアのようなおじ様、おじい様達の胸ポケットに愛らしいハムスターがチョコンと顔を出して私と同じように顔を傾げていた。
その小さな小さな手にはひまわりのシマシマの種が!
ああ、シマシマってひまわりの種の事か!
「ヴィゼッタ嬢、あなたの商会がこのシマシマを売っているとソルフォードから聞いたが違うのか?」
明らかに不機嫌そうに見えるフィジマグ公爵に尋ねられる。
「えっと、はい。シマシマは私の商会で売っています。でも女神とは?」
マフィアの皆様がおお〜と喜びの声をあげた。
いやいや、待って。だから何で女神なの?
「シマシマの女神様のお陰でルンルンの毛並みが艶々と美しくなった。感謝する」
「このハム子の歯の輝きを見て欲しい。シマシマの女神よ」
「チャチャ丸のこの栗色の毛の鮮やかさはまるで黄金のようだとは思わないか?さすがはシマシマの女神だ」
ごつくて強面の顔で手のひらにチョコンとハムスターをのせると、不思議な事に怖さがほんのり中和されているような気がする。
確かにみんな毛並みが艶々でお目々クリクリで前歯2本も真っ白で色も鮮やかだ。
だがしかし、それと私の女神呼びが繋がらないのだが!?
私は助けを求めるようにソル様を見た。
「うん。私のシロも変わらず美しい」
違う!そこじゃない。
「あの、ソル様。なぜ皆様は私の事をシマシマの女神と呼ぶんですか?」
「ああ、キャロの売り出したひまわりの種のお陰で私達のハムスターがこの通り美しくなったからだ。感謝を込めてハムスター同盟の者は君をシマシマの女神と呼ぶ事になった」
それは是非止めて欲しかった……。
「あれは三大公爵の侯爵家のご隠居様達ではないか」
「あの、爵位を譲ったあとも絶大な影響力を持っているあの?」
「人嫌いで有名なあの?」
「王家ですら気を遣うあの?」
ザワザワと次々とやばい情報が耳に入る。
ヒィ!やっぱり見た目通りの怖い人達だ。
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