表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/94

攻略対象カリム第二王子

もしや、無事乗り切れた?

 私は上半身を後ろに大きくそらし、間近にあるソル様のご尊顔を見つめた。

 ソル様も私を見つめる。


「ゴホン!」

 お兄様であろう咳払いにお互いハッとして、ソル様が私を立たせた。

 不自然なほど周りが静かだ。

 というか、周りに誰もいない?


 いつの間にかダンスフロアには私とソル様しかいなかった。

 え?いつから?

 ソル様に促されて、とりあえず一緒に礼をする。

 次の瞬間、ワッと大歓声が上がって私は驚いた。

 その歓声に驚いた鳥類がバサバサ飛び回り、動物達は遠吠えする。

 ヒィ!すごい事になっている。

 ペットシッターが大変そうだけど。


「すごい!何と見事なダンスだ!」

「あんなフィジマグ公爵令息は初めて見ましたわ」

「あの可憐な御令嬢は誰だ?」

 ワーワーと大騒ぎで何が何だか聞き取れない。


 私はソル様にエスコートされてそそくさとその場を後にしようとするが、人並みに囲まれてなかなか進めない。

 ソル様が絶対零度の眼差しで睨みながら、なんとかお兄様のところまで戻った。


「ソル、やり過ぎだよ」

 お兄様が呆れたように言った。

「キャロはダンスが得意なようだったからつい本気で踊ってしまった。すまないピョン」

 いやいや、逆なんだが。


「お兄様、キャロライン。素晴らしいダンスでしたわ」

 ソル様の声をそのままソプラノにしたような美しくも硬質な声がかけられた。

「ユーリカ。カリム殿下」

 ソル様が流れるように礼をとるので、私も慌ててカーテシーをとった。


「楽にして。僕は堅苦しいのは好まない」

 優しい声がかかり顔を上げると、ユーリカちゃんと目が合った。

 前世のスチルの記憶にある美貌にほんの少し幼なさを残し、それでも他を圧倒するような美人さんに育ったユーリカちゃんがいた。

 気分は親戚のおばちゃんだ。

 まあまあ、別嬪さんに育っちゃって〜だ。


「面と向かっては初めましてかな?僕はバラニカ国第二王子カリムだ。美しいレディ、名前を聞いても?」

 私は声をかけられて、初めてカリム王子を見て時が止まった。


 おう、これは製作者の精魂込めた並々ならぬこだわりを感じる。

 今まで見た攻略対象のソル様とパスカル君(顔は)もそれは美しく格好いいと思った。

 しかし、これは次元が違っている。


 アシンメトリーに左右で長さの違う黒髪はブラックダイヤの粒子を散りばめたように煌めき、長めの右側には金の髪が流星の如く一筋流れ、アーモンド型の目はオッドアイでその神秘的な金と銀の瞳に吸い込まれそうだ。

 通った鼻筋に薄い唇は何度も調整したのだろう絶妙なバランスで配置され、全体で見ても、パーツで見ても非の打ち所がない神がかった完璧な美貌だった。


「キャロ」

 あまりの美しさに呆けていた私をお兄様がつついた。

 ハッ、やばい。


「申し訳ございません。ヴィゼッタ伯爵が娘キャロラインにございます」

 私は大慌てでカーテシーをとった。


「楽にして。突然声をかけて驚かせてしまったね」

 カリムは美しいだけでなく、性格も良いみたいだ。

 いやあ、眼福だね。気分は滅多に見られない超豪華デラックスな宝石を見ている気分だ。

 これは、是非ユーリカちゃんとうまくいってほしい。


「ヴィゼッタ嬢、先程は見事なダンスだったね。良かったら、僕とも踊ってくれないか?」

「カリム様!?」

 は!?何言っちゃってるの!?

 周りでは無責任にもおお〜と良かったねとでも言うような歓声が広がる。

 ちっとも良くないからね!?

 

「いえ、それは」

 ああ、でもさすがに王族の誘いは断れない?

 でも、この美しい王子様が受け身を取る姿は見たくない。

 いや、そもそも王子様って受け身がとれる?

 倒しちゃったら投獄されちゃう?

 私は困ったようにユーリカちゃんを見た。


「カリム様、キャロラインは先程お兄様とあれほどのダンスを踊ったのです。お疲れになってますわ。ね?」

 ありがとう!ユーリカちゃん!


「はい!申し訳ございませんが、このような状態では殿下にご迷惑をかけてしまいます」

「そう?残念だな。僕は王族の席に戻っているよ。ユーリカはこのまま兄君にお願いしよう」

「そんな、もう少しご一緒に」

「久しぶりに友人と話すといいよ」


 そう言ってカリムはいっそそっけないほどあっさり行ってしまった。

 その後ろ姿をユーリカちゃんは寂しそうに見送った。


 コソコソとこちらを見て囁く嫌な空気が流れた。

「ユーリカ」

 ソル様がユーリカちゃんにエスコートの腕を差し出した。


「キャロライン」

 ユーリカちゃんがソル様の腕に手を添え、気まずげに私を見た。

「ユーリカ様、ありがとうございます!助かりました!」

 周りの嫌な視線とユーリカちゃんの気まずげな様子は謎だが、私は気にせず元気にお礼を言った。


「え?怒ってないの?」

「怒る?何でですか?」

「だって、私はカリム様と踊れなくしたのよ」

「はい!本当にありがとうございました!」


「え?」

「え?」

「カリム様を見たのよね?キャロラインは目が悪いの?」

「いえ、両目とも2.0です」

 大自然で育った私は小さな虫も離れたところから発見できる。

 顔の皺を巧妙に隠す夫人にとって、私は嫌な人物だろう。


 私とユーリカちゃんはお互いの顔を見合わせて首を傾げた。

 どうも、話が噛み合ってないような?


 そうか。ユーリカちゃんは私の実情を知らないのか。

「実は」

 私は大内刈り一本と丸投げダンス操法をコショコショと耳打ちした。


「はあ!?キャロライン、あんなに見事に踊っていたのに!?」

「あれは全てソル様のお力です」

 私はありがたくソル様に両手を合わせて拝んだ。


 そんな私にユーリカちゃんがプッ吹き出し扇子で口元を隠して笑った。


 




いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
html>   html>   好評発売中 ♪
― 新着の感想 ―
[良い点] キャロたんが王子に一本勝ちないし新入幕優勝キメたらまたヴィゼッタ家、王家からぼったくられまくりそうですもんねーー ユーリカちゃんのやきもちが超ポジ転換! ダンスマスターの誤解はお兄様が解く…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ