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悪役令嬢ユーリカ・フィジマグ

魔法を使えるようになったー!

「あなた、そのマルリラは私が買うから全部よこしなさい」


 赤々と燃える炎のような色の髪は悪役令嬢のトレードマークの縦ロール、ワインレッドの吊り上がったパチリとした瞳の少女が手を腰に当てふんぞり返って言った。

 肩に乗ったツンとした赤毛の子猫がニャーと鳴いた。

 

 あれ?悪役令嬢ユーリカ・フィジマグでない?




 女神の祝福の儀の後、私は早速お父様に私の魔法を見せた。

 お父様が素敵だね、すごいねとたくさん褒めるので、嬉しくて色々な色のロージアを出していたら、通りかかった神官見習いの方が良かったら売って欲しい言ってきた。

 神殿に飾る花の買い付けにちょうど出るところだったそうだ。

 もちろん、喜んで売った。


 本来なら真っ直ぐ領地に帰る予定だったが、思いがけない臨時収入が入ったのでお父様と王都の街に出た。

 お母様とお兄様にお土産を買うのだ。


 王都の街は人も多く賑わっている。

 大通りでは野菜や果物の露店や、ペット用の珍しい動物が売られていた。

「お父様、お父様、これは?これは何?」

 私はお父様と手を繋いであちこち見ては初めての物ばかりで大はしゃぎだ。


 そして、とうとうお目当てのお店に来た。

 露店と違って老舗のような店を構えた、王都で一番有名なお菓子屋さん"ドルモンド"だ。

 ここはマルリラという栗なような木の実を煮て砂糖を贅沢にまぶしたちょっとお高いお菓子が有名だ。


 昔お父様がお土産に買って来てくれて、とても美味しかったのだ。

 お土産は絶対これがいい。

 また、みんなで食べたい。


「キャロ、自分で稼いだお金なんだから自分の欲しい物を買っていいんだよ?」

「初めて私が稼いだお金だから、みんなにお土産買いたい」

 私はウキウキとカウンターにお金を出した。

「マルリラを4人分ください」


「はい、可愛いいお嬢様。ちょうどこれで最後ですよ」

 おお、さすが人気のお店。

 買えて良かった。

 私は草で編んだ袋を4つ受け取った。



 そう、まさにその瞬間だった。


「あなた、そのマルリラは私が買うから全部よこしなさい」

 まさかの悪役令嬢ユーリカ・フィジマグがすぐそばに立ち、私によこせと手を突き出していた。

 肩に乗った赤毛の子猫がニャーと鳴き、まるで子猫にも催促されているようだ。


「何をしているの?早くよこしなさい」

 ここで会うなど想像もしなかったので呆然としてしまった。

 て、あれ?一人?


「私は公爵令嬢ユーリカ・フィジマグよ!言うことを聞きなさい」

 ねえ、公爵令嬢が一人でお菓子よこせってやってるけど大丈夫なの?護衛は?侍女は?


「私は伯爵令嬢キャロライン・ヴィゼッタです。フィジマグ様、もしかしてお一人ではないですよね?」

 私が聞くとユーリカちゃんはフフンと鼻で笑った。

 肩の子猫も小馬鹿にしたように私を見る。


「私は屋敷を抜け出して一人で買いに来たのよ」

と、ユーリカちゃんは胸を張って答えた。

 お父様の顔が青くなる。

 大変だ!今頃、公爵邸は大騒ぎじゃない!?

 私はガシリとユーリカちゃんの腕を捕まえる。 

 子猫がシャーとなるがそれどころでない。

 何をやってるの?この子!?


「ちょっと!離しなさい」

 お父様はお店の偉い人を呼んで事情を話し、公爵邸に使いを送ってもらうよう伝えた。

 聞いたお店のお偉いさんも真っ青だ。

 お父様は一緒に公爵邸に行ってくれとお偉いさんに泣きつかれた。

 いきなり平民が訪ねてもまともに取り合ってもらえるかわからない。

 かと言ってお父様一人で行かせるのもお店の体裁が悪い。

 

 だんだん騒ぎが大きくなり、子猫が不安げにミーミー鳴く。

 

 お父様が公爵邸に向かう間、私はユーリカちゃんと子猫とお店の奥の来賓用のお部屋で待つことになった。

 二人でソファに並んで座る。


「フィジマグ様、あなた何してるんですか!?」

「ちょっとマルリラを買いに来ただけよ。買ったらすぐ帰るからさっさとそれをよこしなさい」

「あげます!全部あげますから、お迎えをここで一緒に待ちましょう!」

「嫌よ!バレたら叱られてしまうでしょ!」

「じゃあ、あげません!」

 

 子猫はユーリカちゃんのお膝に丸まっている。


 ユーリカちゃんは眉を顰め、可愛らしい唇をムーッと突き出す。

「分かったわ。だからよこしなさい」

「分かりました。でも何でそんなにマルリラが欲しいのですか?」


 ユーリカちゃんの顔がポポッと赤くなる。

「だって、カリム様かマロリラを食べてみたいなって。だから、私が買って来て差し上げるのよ……て、何でキャロラインは泣いてるのよ!?」

 いや、だってこんな小さいうちから一途だなんて泣けるでしょう。

 そのために一人で屋敷抜けてって。

 きっと公爵令嬢だもん、一人歩きも買い物も初めてなんじゃないか?

 不安だから子猫も連れて来たのかな……あ、また涙が……。


「はい。全部あげます。二人で食べてください」

「ありがとう。じゃあ、これお金」

 ユーリカちゃんは満面の笑みでマロリラを受け取った。

 顔立ちはきつい美人さんだけど、その笑った顔はあどけなくて可愛い。私は思わずほっこりした。


 しかし、はいと渡されたお金を見てヒッとなった。

 白金貨だった。

 白金貨一枚で平民が10年は遊んで暮らせる!


「こんなにもらえません」

 私は慌てて返す。

「これしかないわ」

「ここは私がおごります」

「駄目よ。公爵家として借りは作れないわ」

「だったら、後払いで良いです」

「嫌よ。それならこのお金を受け取って」

「だから、もらいすぎですってば!」

 うーん、困った。


「じゃあ、こうしましょう。私がフィジ」

「ユーリカで良いわ」

「あ、はい。私がユーリカ様が欲しいマロリラを買ってあげます。代わりにユーリカ様も私の欲しい物を買ってください」

「ええ、それならいいわ。欲しい物を言いなさい」


 えーと、欲しい物。

 王都のお菓子はマロリラ以外はよく分からない。

 適当に他のお菓子とか言ったらすごいの送って来そうだな……あ!


「お花の図鑑が欲しいです」

 うん。これなら値段も同じくらいだし大丈夫だろう。


「いいわ。後でキャロラインのおうちに送ってあげる」

「ありがとうございます」


 これで何とか丸く収まった。

 家族のお土産はまた今度来ることがあった時に買おう。

 よし、お花を売ってお金を稼ぐぞ。


 うまく話がまとまった後は迎えが来るまで、のんびりガールズトークだ。

 赤毛の子猫はコリムというお名前だそうだ。

 彼のお人の名前に似ているねとニヨニヨした。

 コリムはだいぶ慣れたようで私の膝にも乗ってくれるようになった。

 私もウメの話をするとユーリカちゃんがなぜに子ブタ?と首を傾げていたが、コリムとウメを会わせよう計画に盛り上がった。


 ソルフォード様の話も聞いた。

 お兄様は頭が良くて強いくてかっこいいのだと、目をキラキラさせて話すユーリカちゃんはとても可愛らしかった。

 ゲームのソルフォード様は怖い、無愛想なイメージがあったがやはり妹には違うのだろう。

 どこの兄も妹には甘そうだね。

「きっとユーリカ様とお兄様は仲良しなのでしょうね」

私がそう言うとユーリカちゃんの顔が曇った。


あれ?

 


「ユーリカ」

 その時、部屋にひんやりとした声が響いた。

 ユーリカちゃんの体がピョンッとソファで跳ねた。

 コリムもユーリカちゃんのお膝でビクッとした。

 

「お、お兄様……」


 ユーリカの兄であり、絶対零度の氷の騎士ソルフォード・フィジマグ……攻略対象様だぁ!!










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html>   html>   好評発売中 ♪
― 新着の感想 ―
[良い点] おんなのこたち皆なかよしになれそうで良き良きです! ユーリカ様健気だけどあぶないよぉお!(おばさんなので子供の危険には一番ハラハラします)キャロたんたちが居てよかった。
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