「待たせたな」
あれ?でも3人目は誰と踊るの?
忘備録
⭐︎サントス→ベラちゃんの従兄弟。お茶会でキャロに一目惚れしたものの、鬼ごっこに負けてあっさり振られる。ハウルと同じ年。
お兄様は私と踊ってくれそうな友人に声をかけてくると言って、1曲目が終わるとすぐさまどこかに行ってしまった。
一体誰に頼むつもりなのだろう。
あ、そろそろ3曲目が始まりそうだ。
私はポツンと所在なさげに立っていた。
ルーベルト君は3曲目は親戚の女の子に頼まれているそうで申し訳なさそうに謝って行ってしまった。
果たしてお兄様のご友人は急なお願いを聞いてくれるだろうか。
というか聞いてくれなかったら私は1人で踊るよう?
いや、無理、踊れない。恥ずかしいとかではなく本当に踊れない意味での踊れない。
私は祈るような気持ちでお兄様のご友人を待った。
オーケストラの皆さんが楽器を構えた。
とうとう曲が始まりそうだ。
お兄様のご友人が見つからなかったのか、それとも断られたのか。
どうしよう!?ここはシレ〜ッと抜けるか!?
人混みに紛れてしまえばバレなくないか?
よし!そうだ!抜けよう!
「待たせたな」
私が覚悟を決めた時、誰かが声をかけた。
お兄様、ありがとう!
ご友人が来てくださった!?
私は大喜びで振り向いた。
そこには……オレンジの髪にそばかすを散らしたつきたてのような餅肌の、デンとした団子鼻のずんぐりした青年がニヤニヤと立っていた。
え?本当にこの方?
「キャロライン、踊るぞ」
名前を呼ばれたという事はお兄様がお願いしたのはこの方なのだろう。
「よろしくお願いします?」
私はとりあえずホールドを組んだ。
お腹がボヨンと当たり、むちむちの手はとても湿っている。
受け身は本当に大丈夫か?
真剣に不安になったところで曲が始まった。
確して不安は見事に的中した。
動いた直後に私は足を踏み抜き、足をひっかけ、開始3秒の脅威の速さで大内刈り1本!それまで!を決めた……。
曲が止まり、私と倒れている青年を中心に丸く円を作るようにみんなが集まった。
アバババ!やばい!どうしよう!?
白目を剥いて倒れている青年を前に私は焦る。
あれ?この人見覚えある?
あ!サントク君ではないか!?
って事はお兄様のご友人ではない?
人違いか!
私は人の隙間からペットの広場にいるウメと頷き合う。
なかったことにしよう!
そして、高らかに叫んだ。
「チェリーブロッサム!」
時間がクルクルと巻き戻る。
「待たせたな」
そうしてまたサントス君に声をかけられた。
「人違いです!」
私は振り返らないで速やかに撤収する。
これも人助けだ。
そうしてぼっちの私を置き去りに曲が流れた時、誰かが手を握りホールドを作った。
「すまない。待たせた」
私はパチクリと目の前に急に現れたとんでもない美貌の青年を見た。
急いで来てくれたのだろう、蒼みを帯びた銀の前髪は少し乱れて額に一房落ちており色っぽく、心まで射抜かれそうな鋭い三白眼の瞳は深みのあるワインレッドで不機嫌そうに刻まれた眉間の皺……って、この眉間の皺はソルフォード・フィジマグ様!?
「ソ、ソル様ですか!?」
「そうだ。いや、そうだピョンと言った方が分かるか?」
おおう、懐かしいピョン言葉だ。
声変わりして硬質なテナーの声に全くピョンが似合わない。
「お、お久しぶりだピョン?」
「ああ」
ソル様の眉間の皺が微かに緩んだ。
さすがは攻略対象だ。
もともと整ったお顔だったが、まさにイケメンにお育ちあそばしていた!
「ハウルから頼まれた」
お兄様が頼めそうだと言っていたご友人はソル様だったのか。
何というか牛丼を待っていたつもりが特A5等級のステーキが来たような心境だ。
「急なお願いですみません」
「いや、大丈夫だ。ハウルにはキャロに決して合わせようとするなと言われたがそれでいいのか?」
「はい!それでお願いします。万が一の確認ですが、受け身は得意ですか?」
「受け身はダンスに関係ないと思うが?」
そうだね。普通は関係ないが私には最重要だ。怪我をさせたら大変だ。
もう曲の前奏も終わってしまう。
「お願いですから、早く答えてください」
「分かった。私の受け身だがハウルより上手い」
はい!大丈夫!
「どうぞよろしくお願いします」
そうこうしているうちに周りが踊り出す。
そして、ソル様も大きく一歩を踏み出した。
全く私に合わせないリードだ。素晴らしい!
私はしっかりソル様に踊りを丸投げする。
大きく動くソル様のダンスは雄大だ。
「驚いた。キャロはダンスが得意だったんだな」
ソル様が何か私に話しかけたようだが、動きに合わせるのに必死な私の頭を素通りする。
よく分からないが微笑んでおく。
「そうか」
そうか?この短い言葉は聞き取れた。
次の瞬間からソル様の動きが変わった。
斜めに開いたスペースに一気にステップを踏みながらフロアを駆け出す。
ヒィ!速い!
私は必死に動きを合わせてついて行く。
そしてフロアの端まで来たら急停止!?
おいー!
私も合わせてピタリと止まる。
ソル様が楽しそうに笑った。
うぉ!イケメンの笑顔の破壊力!
ダメージを回復する間もなく今度は向きを変えてフロアの横を真っ直ぐにさらに複雑なステップを踏みながら駆け出した。しかも、クルクルと体の位置が入れ替わる。
マジか!?
駆けて止まってクルリと回されて、時にジャンプも加わり、足が床についている時間が短くないか!?
同じ場所あたりでゆったりダンスを踊る周りと明らかに私達のダンスは違う。
演奏も気づいたらアップテンポの曲調になっていて、さっきまでの2曲より長いような気がするのは気のせい!?
そして、とうとうやってしまった。足を引っかけたー!
でもソル様はびくともせず私はその形で静止した後、フワリと持ち上げられトンと下ろされると腰をグンとひかれて上半身を後ろに倒され間近にソル様の美貌が迫り、そして……その瞬間、ジャンと最後の一音が鳴った。
もしや、無事乗り切れた?
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