子猫ちゃん達、シ〜。
「キャロ、久しぶりだね」
忘備録
⭐︎イリアス→ロニドナラ侯爵家の長男。ティアラちゃんのお兄様。こよなく女性を愛する男の子。ハウルと同じ学年。
⭐︎ルーベルト→元ティアラちゃんの婚約者候補。やらかしてティアラちゃんにプチッとされて改心。
私は声をかけられて振り向こうとした。
その瞬間、ティアラちゃんがパチンと指を鳴らすとどこからともなくルーベルト君が現れて私と誰かの間に滑り込んだ。
ルーベルト君は今やティアラちゃんの立派な下僕……ではなくて立派な従者だ。
「先日の模擬戦についてなのですが、うんたらかんたら……」
私が振り向くとどうやら私に声をかけた方を風のように連れ去った後だった。
声をかけられたみたいだがどうしよう?
「キャロちゃん、あちらに美味しそうなスイーツがありましたよ。ご一緒にいかがですか?」
え!?美味しそうなスイーツ!?
いや、でも今日は白いドレスだから我慢しようと思ったじゃないか。
「いいね、キャロ。一緒にスイーツを食べに行こう」
お兄様も美味しいスイーツに興味があるようだ。
もちろん、私も美味しいスイーツが気になる!
でも、ドレスが!
その時お腹がキュルキュルと切なげに鳴いた。
ひもじいよ〜と……。
私はフッと笑った。私の負けだ。私は空腹に負けたよ。
「はい!ティアラちゃん、お兄様!是非行きましょう!食べましょう!」
私達はお父様達に声をかけてウキウキとスイーツコーナーに移動した。
ウメ達はお父様達と待っていてもらう。
「あ、待って!キャロ〜……」
「イリアス様、話がまだ途中です。それでですね、模擬戦のうんたらかんたら」
遠くで呼ばれた気がしたが美味しいスイーツを前にすっかり頭から消えたのだった。
「はぁ……美味しかったぁ。家では緊張してあんまり食べられなかったから満たされた気がするよ」
「良かったね。キャロ」
「緊張?王族とのご挨拶ですか?」
「う〜うん。ダンスの方。型の訓練と同じ感じなんだよ」
「それは……」
ティアラちゃんも私の型の訓練の酷さをよく知っているので心配そうな顔になった。
「あ、でも対策はあるから大丈夫だよ」
「良かったです」
「それで、ティアラちゃんにお願いがあるんだけど、デビュタントの私達は3人と踊らなくてはダメでしょ?お兄様とお父様と踊るとしてあと1人足りないからルーベルト君を借りたいんだけどいいかな?」
「それはもちろんいいですが、確かデビュタントのダンスの相手は暗黙の了解で身内は1人までですよ?」
「え!?」
私はびっくりしてお兄様を見たがお兄様もびっくりした表情していた。
「昔は確かに身内の方々がデビュタントの相手を務めても大丈夫だったのですが、ここ数年は身内以外と踊るような流れになってきています。踊ったとしても身内の方は1人までかと」
何と!
そうか、ここ数年の事だからお父様達は知らなかったのか。
情報も思いもしない事は収集もできない。
「お兄様、どうしましょう?」
お兄様とルーベルト君は決定としてあと1人!
あ、訓練に参加している貴族令息はどうだろう?
誰かいないか!?
「ティアラちゃん、訓練に参加している方の中にお願いできる方はいるかな?」
ティアラちゃんは申し訳なさそうな顔になった。
「多分、難しいかと。訓練に参加されているご子息方は近年人気で、ダンスを事前にもう頼まれているかと……」
これは困った!どうしよう!?
「キャロ、話は聞かせてもらったよ。それなら、私がお相手を務めよう」
おお!何てありがたいお申し出!誰?
私はキラキラした目で振り返り、そのまま見ないフリで一回転した。
「お兄様、ご友人でお願いできる方はいるかな?」
「大丈夫。僕が何とかするよ。1人確実にお願いできると思う」
さすがお兄様!頼りになる!
「えっと、キャロ?お〜い」
いや、お願い。声かけないで。怖いから。
「ちょっと、あなた!イリアス様がせっかくお声をかけてくださっているでしょう!?」
「そうよ!失礼ですわ!」
キャンキャンと甲高い声で非難される。
うわ〜、関わりたくない。
「子猫ちゃん達、シ〜。キャロは恥ずかしがっているだけだよ。ね?キャロ?」
しかし、さすがにこれでは知らんぷりを続けられない。
「わー、気づきませんでしたわー、ご機嫌よー、イリアス様ー……」
私は仕方なく後ろにいるイリアス様に向き合った。
彼の周りには8人ほどの私より年上の貴族令嬢方がくっついていた。
一様に縄張りを主張する野生動物のようにギラギラと私を睨んでいる。
うわ、ドン引く。怖!
「チッ、ルーベルト失敗しましたね。後でお仕置きです」
ティアラちゃんが小さく舌打ちして何か呟いた。
「お兄様、素敵な花々に囲まれてお幸せですこと。こんな綺麗なお姉様方を待たせては失礼ですわ」
ティアラちゃんがニッコリ微笑んだ。
要約すると〝あっち行け〟かな?
「ティアラ、困っているレディを私がほっておく訳ないだろ?」
イリアス君が伸びた前髪をファサッとやった。
後ろでキャ〜、素敵〜!と黄色い悲鳴が上がる。
私も心の中でヒィ〜と悲鳴を上げた。
ここ数年の彼は私とは相容れない何かに磨きをかけている。
「お気持ちだけいただきます」
「ごめんね、キャロ。私の気持ちはみんなの物だからあげられないんだ」
「そうよ!そうよ!図々しい!」
そういう意味じゃない!
「イリアス、そう。あなたはみんなの物だ。キャロだけと特別にダンスを踊るのは良くないでしょう」
お兄様がフンワリと天使の微笑みを浮かべた。
私もすぐさま続く。
「はい。私だけ特別は皆様に申し訳ないです」
困ったような表情を作ってフンワリ微笑む。
大丈夫だよ〜。縄張りに踏み込まないよ〜。イリアスガールズには入らないよ〜。
ティアラちゃんの目がキラリと光った。
「お兄様、そうですわ。ここは平等に皆様と踊れば良いのですわ!」
今ここにいるのは8人。
でも、後ろの数人が走り出したから他のイリアスガールズにも声をかけるのだろう。
「いや、全員とはさすがに。あ、じゃあ、キャロはデビュタントだから1番に」
「いえいえ、お姉様方を差し置いて畏れ多いですわ。私は1番最後でお願いします」
お姉様方の目が途端に優しくなった。
良かった。分かってもらえたようだ。
そうです。私は縄張りを荒らしたりしませんよ〜。
「素晴らしいですわ!ね?皆様!」
「ええ!素敵!」
「さすがイリアス様!」
イリアス君の顔が思い切り引き攣ったその後ろにイリアスガールズがわらわらと増えていく。
よし!これなら私の順番は来ないだろう!
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