ウサギのミミー
ごめんよ。ウメ。後で迎えに行くからね!
忘備録
⭐︎ロニドナラ侯爵→ヴィゼッタ領の隣の侯爵家。騎士見習い訓練にキャロ達を快く受け入れてくれたが、始めはキャロがお見合い目当てと勘違い。
⭐︎ロニドナラ侯爵夫人→キャロに嫌がらせをしたが、娘のティアラの怒りに消沈。反省。
⭐︎ティアラミス→キャロの親友。キャロが大好き。
しばらくしてゴルに咥えられてウメが戻ってきた。
賢いゴルが迎えに行ってくれたようだ。
「全く酷い目にあったではないか」
戻ってきたウメはプリプリと怒っていたが、お詫びにペット用のブュッフェのマルリラのケーキを渡すとコロッと機嫌が直った。
良かった。
ベラちゃん達は他の人達にも挨拶回りに行くので、少し前に別れた。
久しぶりにおしゃべりできて楽しかった。
さて、ティアラちゃんとユーリカちゃんはいないかな?
「あ、お父様、お兄様。ティアラちゃん達がいたよ」
「本当だね。挨拶に行こう」
近づくと、ロニドナラ侯爵達は何やら揉めているようだ。
「あなた、ジョンにお肉をあげ過ぎです」
ロニドナラ侯爵のペット、ジャーマンシェパードのジョンは前見た時はシュッとしていたのに今はちょっとぽっちゃりになっていた。
『プフッ、ジョンは太ったようだの』
笑うウメだが、自分が子ブタである事を忘れてはいないだろうか。
私はウメのまん丸フォルムを見て思った。
「明日からジョンと走るから大丈夫だ」
それはぽっちゃりさんがよくいう言葉だ。
絶対来ない明日……。
「走ると言っても結局あなたが背負って走ってしまうでしょう?」
「そんな事は……多分しない」
多分の時点で怪しい。
「あなた!」
「お父様、お母様。お止めになって」
ティアラちゃんがオロオロと止める頭上では、ロニドナラ侯爵夫人のペットの文鳥のキシドーがパタパタと飛び回っている。
「デブー、デブー、デブー、ハハハハ、デブー、デブー、ノウキン、デブー、ハハハハ」
「キシドーが今私を脳筋と言わなかったか?」
「お父様、気のせいです」
ティアラちゃんがスンとした顔になって否定したが、いや、確かに言ってた。
と言うより、とうとうロニドナラ侯爵は脳筋と気づいてしまったかぁ。
「ワフ、ワフ」
「あ、こら、ジョン!キシドーをペッしなさい」
なんともカオスな様相なのだが、挨拶しても大丈夫だろうか?
そして、キシドーがジョンにパックンされているが平気か!?
「お父様、お母様。もう、いい加減になさって〜」
ティアラちゃんが困ったように眉を下げると、足元の栗色の愛らしいウサギが後ろ足をタシッ、タシッとさせ始めた。
こんなに見た目可愛らしくも愛らしいウサギなのに、背後に虎の幻影が見えるのは気のせいだろうか?
ジョンはタシッでピョンと跳び上がり、すぐさまキシドーをペッとした。
ヨダレまみれのキシドーは小首を傾げてからまた飛び回ろうとしたが、タシッとしたウサギを見るとシュッとロニドナラ侯爵夫人の肩に乗って置き物のように静かになった。
今、歴然とした序列が分かった。
「ロニドナラ侯爵、お久しぶりです」
一区切りついたようなのでお父様がやっと侯爵に挨拶をした。
「おお、ヴィゼッタ伯爵。久しいな」
ロニドナラ侯爵と夫人は高位の貴族の顔をして澄まして挨拶を返すが、先程のやり取りを見た後だといろいろと台無しだ。
「ティアラミス様、ご機嫌よう」
お父様達が話を始めた隣で私もティアラちゃんに挨拶した。
「キャロライン様、ご機嫌よう。お会いできて嬉しいです」
ティアラちゃんもはにかみ笑顔で私に挨拶を返してくれた。
「ティアラちゃん、ペットを飼い始めたんだよね」
「そうなのです。この子です。ミミーと言います」
ティアラちゃんが栗色のウサギを抱き上げて見せてくれた。
長い耳は垂れていて時折ピルピルさせて、クリクリしたまん丸の黒いお目めで抜群に可愛らしい。
ティアラちゃんに顔をスリスリとさせていて、ティアラちゃんのことがとても大好きなようだ。
さっき見た虎の幻影は気のせいだったようだ。
「すごく可愛いね!抱っこしても大丈夫?」
「もちろんです」
私はミミーを抱っこさせてもらうと、フワフワ柔らかい。
「フワフワだね〜。可愛い!」
「本当可愛いですね……!」
見るとティアラちゃんがミミーを目を潤ませながらフルフルと震えて見ていた。
ん?なんかミミーを見ているというよりは私を見ている?
いや、気のせいか。
自分のペットって可愛いよね!
あのウメですら可愛いと思うのだから不思議だ。
「うん。抜群に可愛い」
お兄様は私を見てニコニコ言った。
安定のお兄様だね。
ティアラちゃんはミミーの事を言われたと思ったようでコクコクと頷いた。
あれ?やっぱりティアラちゃんの視線がミミーではなく私に向いているような?
ミミーは急にジタジタと暴れ出したので、私は慌てて下におろした。
すると、ミミーは虎の幻影を背負ってタシッ、タシッ、と私を睨んで後ろ足を鳴らし始めた。
目に嫉妬の炎がメラメラと見えるんだけど!?
え?何で怒ってるの?
「ミミー、まさかそれキャロちゃんにやってませんよね?」
ティアラちゃんがミミーを抱き上げるとひんやりとした声で言った。
ティアラちゃんの後ろにミミーの虎より大きな虎が見える。
ミミーの垂れていた耳がピンと立ってまたすぐ垂れた。
私は先程のミミーにすっかりびびり、恐る恐るミミーを見た。
ミミーは小首を可愛らしく傾げてキュルンとつぶらな瞳で私を見ていた。
あれ?やっぱり、抜群に可愛いウサギだ。
どうやらさっきの虎を背負ったミミーは気のせいだったようだ。
「やあ、キャロ。久しぶりだね」
その時ポンと誰かが私の肩を気やすげに叩いた。
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