ウメのリボンはピンク
「キャロ、僕に全てを任せて」
キリルが丁寧に淡いピンクの髪を編み込み、状態維持の魔法をかけた前世の白い薔薇の飾りを付けていく。下はフワフワとおろし初々しく可愛らしく仕上げてある。
すでにライラによって化粧は終わっている。
ウメはすでにオイルを付けたブラッシングで艶々で、首にはお気に入りのピンクのリボンをお花の形に結んでもらい準備万端だ。
籠で丸んとなって待っている。
はうん、はうんと身悶えながらお化粧をするライラははっきり言って不気味だったけど、さすがのメイク術だ。
目は普段より倍増しでパッチリ大きく見え、アクアマリンの瞳はいつもより澄んで見える。
鼻筋もいつもよりちょっとスッと通っている。
メイクブラシでそこら辺を撫でていたが、あのブラシには魔法でも施されているのだろうか?
何色か混ぜ合わせていた口紅は柔らかなピンクで楚々として愛らしい。
メイクが終わってライラはしばらく私の顔を見つめてフルフルと震えていた。
「我が人生に悔いなし」
ひっそりと涙目で呟いて怖かったが、キリルがサッと部屋の外に出してくれて助かった。
「キャロ様、できました。いかがですか?」
「すごい!可愛い髪型だね」
「はい。キャロ様のデビュタントですのでいろいろ研究しました」
『ほう、これは可愛らしいの』
さすが、キリル。できる専属侍女だ。
ウメも素直に褒めてくれた。
「真っ白なドレス、美しいですね」
私は今日デビュタントだから真っ白なドレスを着なければいけない。
『汚したらおしまいだの』
ウメがニヤニヤと言った。
そうなのだ。こんな真っ白なドレスなんてチョンと汁を一滴垂らしただけでも目立つ。
私は前世も含めてこんな汚れの目立つ真っ白い服なんて着たことがない。
前世の私は汚れても気にならない濃い色の服が多くクローゼットを開けるとガツンと明るいかズドンと暗いか両極端だった。
一人暮らしのマンションの部屋では高校のジャージを擦り切れても着ていた私だ。
しかも、いつもはリメイクドレスなのにデビュタントだからと新しく作ったドレスなのだ。
キャロライン商会で大分儲かっているから、せっかくだからと周りが盛り上がってしまったのだ。
きっと、そういう場面は前世チートの出番だろう。
しかし、それは前世でおしゃれ女子だからこそできるみわざだ。私は服を買う時はマネキン指差してこれくださいの女だ。
試しにこんな感じはどうかな?と頭に真っ白くしたラフレシアの花飾りに、豪華に孔雀の開いた尾のような物を背中から上に顔周りに広げ、下はフリルとラフレシアの花をふんだんに盛り込んで光らせるデザインを言ってみたらみんながフリーズした。
ウメの頭にもお揃いのラフレシア飾りを提案したらウメが絶対零度の視線を向けたのだった。
お兄様だけは斬新だねと褒めて?くれたけど。
そう、人には向き不向きがあるのさ。
結局、みんなにお任せしたドレスはオーガンジーを重ねたスカート部分と肩口がふんわりとした可愛らしいドレスに仕上がった。
もちろん、ネックレスは3分時戻しのネックレスに手首にはお兄様にもらった身代わりのブレスレットだ。
「汚さないか怖いよ。今日は飲み食いは我慢するよ」
「気をつければ大丈夫じゃないですか?」
いやいや、このドレスにシミなんか作ったら怖い。
「うーうん、やっぱり我慢する」
「じゃあ、少し何かつまんでおきましょうか?」
「ドキドキして今は何も喉を通らないよ」
昨日の夜から心臓がバクバク言っている。
「ダンスですか?」
『ダンスだの』
「ダンスです……」
部屋に嫌な沈黙が落ちる。
「だ、大丈夫ですよ!昨日はハウル様に全て任せて上手くいったのでしょう?」
「うん。でも、夜会ではお兄様以外とも踊るようなんだよ?」
不安だ。また、相手に大内刈り一本とかならないかな?
お兄様は受け身が取れたけど、他の人は受け身が取れるだろうか?
「貴族のみなさんはダンスがお上手ですからキャロ様は安心して任せればいいんですよ」
『プフッ、キャロも貴族だがの』
ウメが吹き出す。
キリル、私が貴族と忘れてないだろうか?
「あれだけダンスの練習をなさったではありませんか。努力は必ず実を結びます」
キリルが力強く言った。
ただ、そのキリルは私のダンスの練習に付き合ってくれて完璧に踊れるようになってしまっていた。
『キャロの努力は見事にキリルに実を結んだの』
そう、私の努力はキリルに実を結んだのだ。
いや、私にも小さな実ぐらいはなってるかもしれない。
「うん、ありがとう。がんばってくるよ」
「キャロ、そろそろ行く時間だけど用意はできたかな?」
ドアの外でお兄様の声がした。
すっかりキリルと話し込んでしまったようだ。
「ハウル様、申し訳ございません。キャロ様のご準備できております」
「開けても大丈夫かな?」
「いいよ〜」
中に入って来たお兄様は麗しいの一言だった。
シックな黒いフロックコートに背中の中ほどの長さの艶々の白金の髪は後ろで水色のリボンで結び、前髪は真ん中で分け、顔の脇に少し垂らす後ろ髪がそこはかとなく色っぽい。頬のラインがシャープになり青年になりかけの初々しい感じがまたいい!
「お兄様、素敵!」
「キャロこそ、すごく可愛い!お花の妖精みたいだね」
肩に乗ったミドラ君も今日はしっぽにお揃いの薄い水色のリボンを付けている。
「ミドラ君も素敵だよ」
私が褒めると嬉しそうにミドラ君が舌をピロピロと伸ばした。
私とお兄様はキャッキャとお互いを褒め合った。
「ハウル、キャロ。もう行かないと」
呆れた顔をしたお父様が私達を迎えに来た。
足元には真っ白フサフサのゴルがしっぽをユサユサと振っている。
お父様も黒いフロックコートだ。
前髪をすっきり上げて額を出し、柔らかな萌葱色の瞳に優しく微笑みを浮かべた口元、借金もなくなり気持ちに余裕が出たからかゆったりとした大人の魅力たっぷりだ。
「キャロ、すごく可愛いよ」
「お父様も格好いい!」
「ありがとう」
「旦那様、そろそろ向かわれないと遅れてしまいます」
遅い私達を家礼のシードルが呼びに来た。
モノクルを付けロマンスグレーのシュッとした家令だ。
「大変だ。行こうか」
「は〜い」
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