表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/94

その後の事を話そう

「キャロのじいじじゃからな」

「では、早速こちらの書類にサインを」

 ソル様が小指に付けている銀色のシンプルな指輪に触れ呪文を唱えると、指輪が光りその手に書類が現れた。

 さすが公爵家、便利な魔道具をお持ちだ。


「旦那様」

 キリルがソル様から書類を受け取り、お父様に渡す。

 お父様はざっと書類に目を通し、キリルが持ってきた羽ペンでサラサラと書類にサインをした。


「ヴィゼッタ伯爵、確かに書類は受け取った」

 キリルからお父様がサインした書類を受け取ると再度び指輪に触れ呪文を唱える。

 手に持っていたはずの書類が光るとすぐに消えた。


「ハウル、そろそろ帰らないと学園に着くのが遅くなる」

「分かった」

 寂しいが、お兄様とはまたしばらくお別れのようだ。


 私達は見送りに玄関前までみんなで出た。

 すでに公爵家のご立派な馬車が止まっている。

 もう、お兄様とお別れするようだと思うと涙が落ちそうで何度も瞬きした。


 みんながチラチラと私を見る。

 いや、泣かないよ!?

 確かに目はウルウルだけど、今回は大丈夫だよ!?


「キャロ」

 お兄様が両手を広げて私を呼んだ。

「お兄様、今日は会えて嬉しかったよ」

 私はお兄様の胸にピトッとくっついた。

 我慢、我慢。泣かないよ。


「キャロ、大好きだよ」

「私も大好きだよ」

 お兄様とおでこを合わせて……涙が一粒ポツンと落ちた――。

 あ。

 いや、大丈夫。この前みたいに怪獣のようには泣かないよ。


「いってらっしゃい。お兄様」

 ベソをかいた私は速やかにお父様に回収され抱っこされた。

「今日は普通に泣いていてえらいな。キャロ」

「キャロ、えらいわね」

 私が言うのも何だが、お父様とお母様のほめるハードルが低くないだろうか……。

 

「では、ヴィゼッタ伯爵。借り換えの詳細は後日ピチカト商会から届くだろう」

「はい。よろしくお願いします」

「キャロ、私に遠慮しないでもっと盛大に泣いて大丈夫だ」

 ソル様が真顔で私に言った。

 どうやらお兄様から前回の私の泣きっぷりを聞いているようだ。

 からかってとかではなく、親切に言っているのが分かるだけに居た堪れない。

「泣きません!」

 言ったそばから涙がポロポロ落ちるが、前回に比べれば泣いてない。


「そうか」

 ソル様が泣かないと泣きながら言う私を見てフッと笑った。

「キャロ。またな」

「はい。ソル様、今日はありがとうございました。ユーリカちゃんにお返事出したよと伝えてください」

「ああ、分かった。ユーリカが喜ぶ」

 ソル様が優しく私の頭を撫でた。

 

 こうして、2人は公爵家の立派な馬車に乗り帰って行った。



*****



 さて、その後の事を話そう。

 

 お兄様達が帰って数日後、ピチカト商会から借り換えの詳細についての書類とお手紙が届いた。

 手紙によるとミンドル商会は聞いてないとごねたらしいが、フィジマグ公爵も立会っているため最後は諦めて書類にサインしたそうだ。

 これで晴れてミンドル商会の借金が無くなり、ミンドル商会との縁も切れた。


 うちの領地での評判がすこぶる悪いミンドル商会だが、案の定、その後もいつもの調子で商品を売ったり、野菜を買おうとやって来た。

 その際、水増しした金額を言っていると指摘した私に暴力を振るおうとしたところを隠れていたお父様が現行犯逮捕。

 実はノットさん達にミンドル商会の横暴を聞いてお父様は隠れて様子を見ていたのだ。

 で、ミンドル商会は見事ヴィゼッタ領に立ち入り禁止、取り引き断固拒否となった。

 まさか、暴力を振るわれると思わなくて驚いたが結果オーライだ。

 


 そして私、キャロライン商会だがノットさん達を正式に雇い商会を任せる事になった。

 元々ミンドル商会で働いていたし、ソロバンを見事に前世並みに完成させてくれた彼らだ。

 お願いしたら涙を流して喜んで引き受けてくれた。

 キリルは侍女兼商会の副商会長を頼み、実質商会をお任せした。

 やっぱり餅は餅屋と言うしね。

 私はご意見番とはいうものの、名ばかりのポジションに収まらせてもらった。


 キャロライン商会はミンドル商会に代わって王都から必要な商品を買い付けて売るようになった。

 こちらはノットさんが責任者となった。

 怖面のノットさんは商品の往復にはうってつけだった。

 その都度、村の腕自慢の人を臨時で雇って商品を運んでもらっている。


 そんなノットさんがまさかの結婚をした。

 びっくりな事に彼はまだ20代だったのた。

 そして、もっと驚いたのはそのお相手だ。

 なんと、ライラだ。

 そう、キリルのママで美容の達人のあのライラだ。


 王都に行くたびにライラにキリルの近況を伝えていくうちにお互い好意をよせ結婚の流れになったとか。

 世の中分からないものだ。


 そして、結婚を機にライラとミューレもヴィゼッタ領に越してきた。

 ミューレはキリルが専属侍女を賭けて契約した時にすでに引っ越しを考え始めていたようで速やかに越してきた。


 商品開発の責任者はチャスさんだ。 

 彼は手先が器用でコツコツ作ってくれる。

 私がポロッと言った事をキリルが金儲けに繋げ、チャスさんが商品を作り上げる流れだ。


 チャスさんは領地で農作業が難しくなった年寄りや体の弱い人、子供達に内職のように仕事を振って商品作りをお願いしているそうだ。

 今まで収入がなかったり少なかった領民達も前よりお金を手にできるようになったみたいで良かった。


 お手紙の花びらの貼り絵商品も改良を重ね、種類も増やしジワジワと売り上げを伸ばし、一年すぎる頃にはかなりの売り上げ商品となった。


 花占いキットは、状態維持の魔法の特性上、一回花びらをばらさないと花びらが取れないことに後で気づいた。しょうがないので、花びらをばらしてから状態維持の魔法をかけてまた花びらをくっつけるしかなく手間暇がかかるため入荷は不定期にして数も前世のお花で5つにした。


 そうしたら物凄い希少価値がついてしまい、結構高額で売り出しているのだが幻の商品として御令嬢達の大人気商品になってしまった。

 毎日メイドにピチカト商会に通わせて入荷を待つ熱量の高い御令嬢も出ているほどだ。

 そんな状態に無理を通そうとする御令嬢も出るかと懸念したが、ピチカト商会は密かに無理を通そうとするとご利益が消えるらしいと噂を流したのでみんな大人しく入荷を待ってくれている。


 サリーさん夫婦は2人で王都に住みピチカト商会とのやり取りを任せている。

 ピチカト商会の会長の息子夫婦と意気投合したようだ。

 王都に住んで2年目にサリーさんは女の子を出産し、同じ頃に男の子が生まれた息子夫婦と家族ぐるみのお付き合いをしているそうだ。

 おかげでピチカト商会とキャロライン商会の仲は良好だ。


 経理はチャドさんだ。

 勉強家のチャドさんは貯めたお金で法律関係の本を買って勉強して、今では弁護士になれるくらいの知識量だ。

 しかも、今では私よりソロバンが速い。


 そうだ、その後のソロバンだが……これがとんでもない商品となってしまった。

いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。

明日でキャロの幼少期時代はおしまいの予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
html>   html>   好評発売中 ♪
― 新着の感想 ―
[良い点] ヴィゼッタ領が健全に発展し始めてよきよきです☆ [一言] ライラさんとノットさんも幸せになれそう♡ライラさんがキャロたんママとキャロたんにハァハァするのもミューレさんが適宜鎮めてくれそうで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ