私の魔法
力強くフワまもへの第一歩を踏み出した。
白いローブを着た神官のお兄さんの指示で私達は木の長椅子に10人ずつ前後に二列で座っていった。
振り向くと先程のイザベラちゃんがちょうど私の後ろだ。
何だかご縁があるね。
「それでは、ただ今より女神様の祝福の儀を始めます。神官長、よろしくお願いいたします」
始めのお兄さんに代わって、錫杖を持ったお髭の長い仙人みたいなおじいちゃんが出て来た。
「女神様の愛し子達よ。本日の良き日に……」
そこからが長かった。
朝礼の校長先生のお話くらい長かった。
きっとありがたいお話に違いない。
けど、長いうえに穏やかで抑揚がない。
よく周りの子達は真面目に聞いているなと感心してしまう。
この祝福の間はどんな魔法かは分からないが、適温だった。
春の陽気のようにポカポカだ。
そして、私はまだ日が昇る前から馬車に揺られて来た。
馬車の中で寝られれば良かったが、道は悪いし馬車もおんぼろでガタゴトひどく揺れた。
しかも初めて領地から出た私は大興奮だった。
そんな私が抑揚のない長い話、ポカポカ春の陽気の空間を前にどうなるだろうか?
そう、私はもう限界だ。
どうにも瞼がくっついて開かない。
頭が揺れるのを感じる。
隣の子が親切にも、たまに肘でぐいっと押して起こしてくれる。
いや、寄りかかる私を戻しているだけか。
本当にごめん!がんばれ、私!睡魔に負けるな!
霞の向こうで、おじいちゃんの祝福あれの声が聞こえた。
その時、揺れてた頭がガクンと後ろにいった。
イザベラちゃんがヒッと小さく悲鳴をあげた。
引き攣った顔のイザベラちゃんがうっすら見えたから、多分半目だったかもしれない。
同時に周りの子達のうわあと嬉しそうな声がした。
さすがに目が覚め、目を開くと壇上の女神像がオーロラを纏うように光り輝き、私達の周りをキラキラ光る虹色の粒子が舞ってる。
ふわぁ、ファンタジーの世界だ。
虹色の光は私達に降り注いでは体に吸い込まれていった。
*****
「これで祝福の儀は終わりです。この後は魔法を記録しますので、呼ばれたらこちらの扉から入って来てください」
先に呼ばれたのは子爵家の男の子だった。
どうやら下位の爵位の子から呼ばれるようだ。
私は居眠りして迷惑をかけてしまった隣の子にまず謝り、次に後ろを振り向いた。
イザベラちゃんがあの綺麗なキラキラと私の半目の寝顔をセットで思い出の1ページに刻んだのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「あの、イザベ…じゃなくてマルケット様……先程は驚かせてしまい申し訳ありませんでした」
危ない、危ない。危うくイザベラちゃんと呼ぶところだった。
「大丈夫ですわ。お気になさらず」
嫌味の一つも覚悟していたが、イザベラちゃんは優しかった。
そして、その顔は悟りを開いたような表情である。
この短い時間に彼女にどんな心境の変化があったのだろう?
私は調子に乗って話しかけた。
「どんな魔法か楽しみですね」
「そうですわね。マルケット伯爵家は風系の魔法が多いので私もそうなると思いますわ」
「風系の魔法は攻撃力も強いので良いですね」
なんて話しているうちに私とイザベラちゃんは段々仲良くなっていき、私の順番が来る頃にはお互いキャロちゃん、ベラちゃんと呼び合う仲になっていたのだった。
「次、キャロライン・ヴィゼッタ伯爵令嬢。どうぞ、こちらへ」
「キャロちゃん、呼ばれてますわ」
「じゃあ、ベラちゃん。絶対、また会おうね。お手紙書くよ」
「私も絶対書きますわ」
先に扉に入った子達は戻って来ていないので、多分別の出口から帰っているのだろう。
私はベラちゃんと文通の約束をして、名残惜しいが扉の中に入っていった。
中には3人のベテランぽい神官のおじさん達がいた。
「キャロライン・ヴィゼッタ伯爵令嬢ですね?」
「はい」
「では、早速魔法を見せてください」
え?いきなり?使い方の説明ないの?と思うだろう。
これが不思議な事に、どうやって歩くのか、どうやって腕を動かすのか誰が教えるでもなく分かるように、私の中では自然に魔法はそういった存在になっているのだ。
「はい」
さあ、私の魔法。私の中で器と魔法の種がしっかり繋がっている事を感じる。
そして、春になり種から芽吹くように魔法の芽がちょこんと出ている。
私は当たり前のように体の前に両手を揃えて出し、魔法を思い浮かべる。
それは庭に咲くロージアの紅い花。
前世の薔薇とよく似たお花。
お母様の大好きなお花。
仄かな光と共にフワリと思い浮かべたロージアの花が出て、両手に一輪ポトンと乗った。
これが私の魔法……お花を出す魔法だ!
これならお花を売って家計の足しにできる。
女神様、ありがとう!
私は嬉しくて目を輝かせた。
「植物系ですね。攻撃力ゼロ、防御力ゼロ。はい、大丈夫です。お疲れ様でした」
神官のおじさんが記録を取ると事務的に言い、扉を開けた。
何ともお役所仕事な感じに、ちょっぴり感動が減った気分を味わったのだった……。
でも、とにかく魔法を使えるようになったー!
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