プチッとされちゃう?
いや、本当びっくりしたよ……。
「キャロ、大丈夫?息してるかい?」
お兄様に声をかけられて、ハッとやっと息を吐いた。
まさかのキャロライン商会設立に魂がどっかに飛んでたよ。
「ごめんなさい。大丈夫」
うん。落ち着け、私。話を最後まで聞こう。
「キリル達から相談を受けて、キリルが商売するに当たって商会がないのは確かに商談するうえで不利だ。それにソロバンや花びらのアイデアを考えると商会の登録をした方が良いと思うんだ。せっかくだからキャロの誕生日プレゼントって事にしてキャロライン商会を設立する事にしたんだよ」
「お父様、商会の立ち上げってお金かかるでしょ?どこからそんなお金が出てきたの?」
そう、商会の設立は元々ある商会から暖簾分けのように設立するか貴族の推薦があれば設立できるが、登録料としてお金を国に収めるようなのだ。
それによって、新しく開発された商品やアイデアの特許がとれ、魔法の制約をかけてもらえるため、他の商会が勝手に真似る事ができなくなるのだ。その代わり税金を納めなければいけないが、商売するなら間違いなく商会として登録してあった方が有利だ。
登録してあるのとないのとでは信頼感も段違いだし、登録していない商会はまず貴族には相手にされない。
でも、その登録料が高い。
白金貨一枚かかるのだ。
貧乏伯爵家としては痛すぎる。
そんな高い誕生日プレゼントは申し訳なさすぎる。
「キャロ、それはヴィゼッタ伯爵にも父上から提案したがフィジマグ公爵家で出す」
「何でフィジマグ公爵家が出すのですか?」
親戚でもないのにそれはおかしな話だ。
「さっきも話に出たひまわりの種だが、ピチカト商会に独占して卸してもらう事を条件に登録料を出すし、花びらの方もピチカト商会で定期購入を約束する。ソロバンに関しては改めて双方で話し合った方が良いだろう」
ソル様が私達に良くない提案をするとは思えないけど、でも彼の一番はやはりフィジマグ公爵家だろう。
私はヴィゼッタ伯爵家にとって良いか分からずキリルを見た。
こういう時は間違いなくキリルだ。
キリルが損を取る事はまずないだろう。
「キャロ様、その条件を受けるべきだと判断します」
「ではソル様、その条件をお受けします。よろしくお願いします」
私はキリルの返答を聞いて、すぐさまソル様に頭を下げた。
「判断の理由を聞かないのか?」
「私はキリルを信頼しています」
残念ながら、私にはよく分からないからね。
分からない人が口を出しても碌な事がない。
「キャロ様」
キリルが両手を胸で組み、キラキラとした目で私を見つめた。
私もキリルの目を見つめ頷いた。
うん、キリルのお金儲けに懸ける情熱を信じているよ。
「キャロ、お願いするにしてもちゃんとキリルに理由を聞いた方がいいんじゃないかな?」
確かに私も知っておくべきか。
「はい、お父様。キリル、説明してくれる?」
「もちろんです。理由は四つです。まず第一に、公爵家がピチカト商会の設立の推薦者であるという事はピチカト商会は信頼できる商会だという事です」
貴族が推薦するという事は、この商会は信頼できると私が保証しますという事だ。
だから、万が一商会に不祥事なんかあったら推薦した貴族は体面を汚されてしまう。
だから、貴族は推薦するかは徹底的に調査するのだ。
そして逆に商会が大きくなっていけば、先見の明があったと他の貴族から一目置かれるし、もし流行の商品が商会から出れば推薦した貴族が優先され、敵対しているからどこそこの貴族には流行の商品を売らないでと命令することもできるのだ。
商会がうまくいけば政治的にも有用なわけである。
「第二に、もしキャロライン商会が王都に店を出すとしても貴族を相手にできる店員が育っていません。私達では、せっかく流行を作れる商品なのにうまく売り出す事ができないのです。ひまわりの種の流行は今です。今この波に乗らなければ損です」
確かにせっかく今ひまわりの種を欲しがっている貴族達がいるのに逃してしまうのは惜しい。
しかも、欲しがっているのは公爵家とその繋がりのある貴族家だ。
実際のところ、すぐに王都に店なんか出すお金はない。
「第三に、花びらの方もまだ貴族と信頼関係の結べていないキャロライン商会よりピチカト商会の方が売れます。儲かります。チャリ〜ン、チャリ〜ンが聞こえます」
キリルがうっとりと上を見た。
何が見えてるのかな。
やっぱりお金かな……。
私は咳払いしてキリルを現実世界に戻した。
「そして第四に、公爵家の後ろ盾が必要だからです。キャロ様、おっしゃってましたよね。影響の大きい商品をヴィゼッタ領から出したらプチッてされてしまうって」
私は頷く。だって、ヴィゼッタ伯爵家は末端貧乏田舎貴族だ。
「その通りだと思います。ソロバンは間違いなく文官、商人が食いついてきます。ソロバンは莫大な利益を生み、影響力も大きすぎます。きっと、悪どい罠に嵌めてでもソロバンの利権を奪おうとする貴族や商会が出てくるでしょう。私達ではまだ対抗できません。これがフィジマグ様の条件をのむ事をお勧めする一番の理由です」
なるほど、キリルの言う通りだ。
あっという間にプチッとされる未来が見えるようだ。
「だからこそ、フィジマグ公爵家の後ろ盾のあるピチカト商会を通して売るべきです。それにより、ヴィゼッタ伯爵家もキャロライン商会も守られます」
そうなの?私はソル様を見ると彼が頷いた。
キリルがいてくれて本当に良かった。
「キリル、よく分かったよ。ソル様、改めてよろしくお願いします」
私は椅子から立ち上がり、ソル様に頭を下げた。
お父様達もみんなも椅子から立ち、頭を下げた。
「フィジマグ公爵家の名に懸けて必ずヴィゼッタ伯爵家、ヴィゼッタ領、キャロライン商会を守ると誓おう」
良かった。これで一件落着だ。
「キャロ、キリルは自分の給料分を毎月稼げると判断した。正式にキリルをキャロの専属侍女にする」
お父様の言葉を聞いて、私は嬉しくてキリルに抱きついた。
「やったー!!キリル、おめでとう!ずっと一緒にいられるよ!これからもよろしくね」
「はい!これからも末永くよろしくお願いします」
キリルは今までのキリッとした顔をくしゃりと泣き笑いにして私を抱きしめ返したのだった。
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