好ましく思っているピョン
何よりのプレゼントだ。
誕生日の会場となったダイニングルームへお兄様にエスコートしてもらってソル様と3人で行くと、お父様達がすでにテーブルについていた。
バースデーケーキに猪肉のステーキ、ミルクのスープ、新鮮野菜のサラダなどなど、私が好きなメニューが並んでいた。
グキュルルル〜と私のお腹が盛大に鳴った。
私は聞こえちゃったよねとソル様を見た。
「今のは……シロの鳴き声だ」
ソル様がそっと目を逸らすと、胸ポケットのシロがひょっこり顔を出してチョンと顔を傾げた。
ごめんね、シロ。何の音?って思ったんだよね。
ソル様はそのままシロを下ろすと、シロはキョロキョロ部屋を見回してミドラ君のいるペットコーナーに走って行った。
ソル様、お気遣いすみません。
「キャロのお腹の音は天使の歌声みたいだから大丈夫だよ」
お兄様、謎の励ましありがとうございます。
でも、それは天使に失礼だよ……。
「お腹鳴っちゃった……」
私はお腹をさすって、ちゃんと自己申告をした。
お誕生席に私、右側にお父様とお母様とお兄様が、左側にソル様とお祖父様とお祖母様が座った。
ウメ達はペットコーナーにそれぞれの好物が用意されている。
普段は一日二食だが、今日は特別だ。
ウメはマルリラの木の実、ミドラ君はお花の蜜や柔らかめの葉っぱ、ゴルとレトは骨付き肉、シロはもちろんひまわりの種だ。
ウメがチラチラとシロの種を見ているのが気になる。
まさか取らないよね?
お祖父様とお祖母様のペットは牛なのでさすがにお留守番だ。
ウメ達はお利口さんなのでちゃんと待てをして待っていた。
この世界のペットは、社交にも連れて行くようだから、本当にしつけがしっかりされている。
社交でペットの動物達が自由奔放では大変な事になってしまうから、しつけの仕方がきちんと浸透されていて多分前世よりしっかりしていると思う。
「ではみんなが揃ったところで始めようか。ではキャロ」
「はい。今日は私のために素敵なお誕生会を開いてくださりありがとうございます。女神様とみなさまに見守られ、無事に7歳となりました事に感謝いたします」
私は誕生会の定型の言葉を言う。
そして、最後の一言は自由だ。
「キャロはみんなの事がとっても大好きだよ。こうやってみんなにお祝いしてもらえて嬉しい。本当にありがとう!」
「キャロ、愛しているよ」
「キャロ、大好きよ」
「僕の天使、愛してるよ」
「可愛いキャロや、愛しているぞー」
「キャロちゃん、とっても大好きよ〜」
いつもの誕生会の流れの順番に愛してる、大好きコールだ。
そして、みんながソル様を見る。
いやいや、ソル様は家族じゃないから。
この流れで一言待ちはきついでしょう。
「えっと、ソル様。特に何も言わないで大丈夫ですからね?」
「いや、せっかくこの場にいるのだから私も言おう。キャロ」
私はソル様の怜悧に整った顔にじっと見つめられジワジワと顔が熱くなる。
ワインレッドの三白眼から目を逸らせない。
「ユーリカの良き友人になってくれてありがとう。心から感謝する」
ですよね!
はぁ、無駄にドキドキした。
でも、そう言ってもらえて嬉しい。
私がニコニコ笑ってソル様にお礼を言おうとしたその瞬間、
「私も好ましく思っているピョン」
へ?ソル様がピョン?いやいや、好ましくって言った?
私は顔からプヒューと湯気が出そうなくらい真っ赤になった。
「ハウルも好きだ。そして、ヴィゼッタ伯爵家の温かさが好きだ。今日はこの場にいられて良かった。この温かさがフィジマグ公爵家を救ってくれた。本当に感謝する」
そう言うとソル様は席から立ち、深々と頭を下げた。
高位の貴族がこんなに深々と頭を下げる事はない。
と思いかけて、そう言えば土下座してもっと深々と頭を下げた某侯爵夫妻がいたなと思い出した。
そんなどうでも良い事を思い出している私は、結構パニックな気がする。
ピョン、好ましく、ハウルも好き、好きがグルグル回って360度回転してストンとやっと一つ落ち着いた。
あ、好ましくって友達としてか。
そして、ヴィゼッタ伯爵家の温かさが好き、感謝という言葉がジワジワと染み込む。
「ソル様、頭を上げてください。私の誕生日に素敵なお言葉をありがとうございます。私も、ソル様とユーリカ様が大好きです。そして、私の家族を褒めてくださってありがとうございます」
「ソル、ありがとう。僕もソルとユーリカ様が大好きだよ」
それから乾杯となった。
私達子供達はソル様がお土産に持って来てくれた果実のジュースだ。味は葡萄なのに色が琥珀色で不思議だ。
さらっとあっさりしていて甘味と酸味が絶妙で、香りが葡萄と桃の香りを混ぜ合わせたような匂いでとにかく美味しい。
大人達はこちらもソル様のお土産の琥珀色のワインだ。
間違いなくお高いやつだろう。
ミルクのスープはじっくりコトコト煮込んだお野菜から優しい甘味が出てミルクと柔らかく混ざってお腹に沁み渡る。
お肉はゴルとレトが狩ってきた猪のお肉だ。
ゴルとレトは昨年の修羅場の書類作成の時以来、狩りに目覚めたようで、よく鳥やらうさぎやら狩ってくる。
しかし、猪ほどの大物は初めてだ。
まさかのゴルとレトからのプレゼントだった。
猪のお肉は豚肉より深みがあって、脂身がカリっとしている。
はあ、美味しい……。
ゴルとレトに乾杯!ありがとう!
本当にどのお料理も美味しかった。
そして、締めのバースデーケーキ。
この世界のバースデーケーキも前世と同じようにある。
ただ、さすがに家庭で作るのは難しく、買うとなると高いし、何よりこの領地にケーキ屋さんなんて洒落た店はない。
うちのバースデーケーキはクレープにお祖父様のお土産のミルクから作った生クリームをたっぷり挟んで、森の木苺を載せたミルクレープケーキだ。
これがほっぺた落ちるくらい美味しい。
新鮮な生クリームは濃厚で酸味の強めの木苺とベストカップル賞だ。
いくらでも入ってしまう。
さすがに5回目のおかわりをしようとしたら、お母様からひんやりした視線を感じておかわりと言いかけた口を閉じた。
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そして、誤字脱字のご報告とてもありがたいです。
あんなに見直ししているのに見逃す私の目の節穴っぷりに首を傾げてしまいます泣
助てくださり、ありがとうございます。