素敵なプレゼント
ウメがポトンと小さな小さな何かを私の手に乗せた。
ん?これは何だろう?
私はつまんで見てみる。
うん。これは間違いない。
「ひまわりの種?」
何故にひまわりの種?
この世界は魔素が降り注いでいるから、前世の世界の種は育たないとウメが前に言っていた。
なのに何故に?
『ひまわりの種は美味であるからの。その種を植えよ』
ウメが機嫌良さげにプヒッと鳴いた。
実はウメ、ひまわりの種など食べぬとか言っていたのに一粒食べたらハマってしまった。
私がせっかく自分のおやつ用に取っておいたひまわりの種もあっと言う間に食べてしまったのだ。
大事にちょっとずつ食べてたのに〜。
私はひまわりは出せるけど、お兄様にお願いしないと種にできない。
でも、結構頻繁にソル様からひまわりの花を送って欲しいとお兄様のお手紙経由でくるので、お兄様がシロ用に種にしたらついでに私の分を送ってもらっていたのだ。
「でも、この世界では前世の種は育たないとか言ってませんでした?」
『我がこの世界に来て溜めていた神力を全て込めた。その種はこの世界でも育ち、さらにその種から花が咲き出来た種はこの世界でも育つであろう』
え!すごい!
あ、だったらスイカとかメロンとか桃とかも出来る!?
食べたい!そして、売りたい!
領地の特産品にしても良いね。
キリルに言ったら何ですか、それ!?とギラギラしそうだ。
「ウメ!他のお花の種も出来る!?」
『今は無理だの』
「何で!?」
『我の元々の神力は大きすぎるため、この世界では封じられておる。この世界の者と同様に魔素を溜めねば神力を使えぬ。その種に全ての神力を使って空っぽであるから、使えるのはまた来年だの』
私は手のひらの小さなひまわりの種を見つめた。
これに全ての神力使っちゃったのかぁ。
いや、せっかくのウメからの素敵なプレゼントだ。
例え、そこにウメの欲望が詰まっていようが前世のお花をこの世界でも見られるのは嬉しい。
大事に育てよう。
「ウメ、ありがとう。大切に育てますね」
『楽しみだの』
その時、ドアをノックする音がした。
「キャロ様、準備が整いました」
キリルが呼びに来てくれたようだ。
「はい!」
私は種は引き出しに大事にしまってウメを抱き上げた。
「キャロ!」
ドアを開けるとキリルと共にまさかのお兄様がいた。
「お兄様!?」
お兄様がすぐさまウメごと私を抱き上げた。
「キャロ、久しぶり。ああ、やっぱり可愛い。僕の天使」
お兄様が嬉しそうにほっぺを合わせてスリスリした。
ウメはお兄様と私の間に挟まってきつかったようで、足をバタバタさせて下に降りた。
「お兄様、いつ帰って来たの!?」
私も嬉しくてお兄様のほっぺにほっぺをグリグリしながら訊ねた。
「今だよ。キャロの誕生会に間に合って良かった」
「学園は?」
「今日はテスト前だからお休みなんだ」
家族の誕生日に参加するため、学園をお休みしますなんてできないからナイスタイミングだ。
久しぶりのお兄様に私はギューッと抱きついた。
お兄様が優しく背中をポンポンとあやす。
はあ、お兄様の匂い。安心する。
「お兄様、すごくすごくすごーく嬉しい」
「うん。僕も嬉しい」
私達はコツンとおでこを合わせてニッコリ笑い合った。
「ハウルとキャロは本当に仲が良いのだな」
感情のこもらない声に、お兄様の後ろを見た。
そこには蒼みを帯びた銀の短髪に切れ長の三白眼の麗しの貴公子、眉間に深い皺がトレードマークのソル様がいた。
え?ソル様?何で?
私がびっくりした顔でお兄様とソル様の顔をいったりきたり見ていると、お兄様がそっと私を下ろした。
キリルがすかさずドレスと髪をサッと直し、小さな声でご挨拶をと促した。
ハッ、そうだ。
私の中で、顔は怖いが気さくなお兄ちゃんのイメージが付きつつあるソル様だが、私よりずっとずっと高位の公爵御令息だった。
親しき中にも礼儀あり。
きちんと挨拶しなければいけない。
「ソル様、お久しぶりでございます。ようこそいらっしゃいました」
私はカーテシーをとった。
「ああ、久しぶりだな。キャロ、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。ソル様とユーリカ様から素敵なお花をありがとうございます。誕生会に飾らせていただきました。あと、魔法でも出せるようになりました」
そう、ロージア程ではないがばっちりだ。
効能もしっかり頭に入っている。
領地を見回りがてらすでに配り始めた。
「ユーリカがキャロの魔法に役立つものをと一生懸命調べて取り寄せていた。喜んでもらえて良かった」
添えられていたお手紙はたまたま手に入ったからって書いてあったけどやっぱりそうだったのか。
つんとそっぽを向いて耳を赤くするユーリカちゃんが頭に浮かんだ。
ユーリカちゃん、大好き!
「今日はヴィゼッタ伯爵に用があって父上の名代で伺った。誕生日の日にすまない」
ああ、なるほど。
公爵様がお父様にご用事があったのか。
何のご用事だろう?
「ソルと一緒に馬車で帰って来たんだよ。お陰でキャロの誕生会に間に合った」
「ソル様、お兄様も一緒に連れて来てくださりありがとうございます」
何よりのプレゼントだ。
ソル様が微かに微笑んだ。
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。