見本を作ろう
「はい。ご一緒に見本を作りますか?」
早速見本作りだ。
私とキリルは色別に花びらをちぎっていく。
「これちぎるのも楽しいよね」
「はい。お花の状態バージョンもあると良さそうですね。ウフフ、楽しい……」
あ、今妄想中だね。
「花占いとかも楽しいよね」
「何ですかそれ!?」
「こんな感じに花を、好き、嫌いって交互にちぎって最後の一枚が好きなら両想いになれるとか?」
「それは貴族令嬢が食いつきそうですね!その花びらを使って意中の人に手紙を出すと想いが叶うとか?」
「いいね!お友達と一緒にこうワイワイ作るのも楽しそう」
「それ!お茶会のお共にって売り出したら売れます!キャロ様〜!一生ついていきます!」
「そのためにがんばって稼ごうね!」
「はい」
キリルがうちに来てもう少しでひと月だ。
始めはキリルのテンションが怖!って思ったけど、慣れれば平気だし、一緒にいると楽しい。
このままキリルに専属侍女になってもらいたい気持ちになっている。
「では、状態維持の魔法をかけましょう」
「状態維持の魔道具を初めて見るよ」
どんなのだろう?
「フッフッフッ、これです」
ジャーンと効果音がつきそうに出されたのは30センチほどの角が少し欠けた年季の入ってそうな木箱だった。
「木箱?」
「よく見てください。ほら、蓋に魔法陣が描かれているんですよ」
暗い木の色と同化しているが、確かに魔法陣だ。
「どうやって使うの?」
「えっと、今説明書を読みますね。中に状態維持をかけたい物を入れましょう」
私は木箱の蓋をギシギシ鳴らしながら開け、花びらを入れた。
「とりあえず半分入れたよ〜」
入れようと思えば花びらを全部入れられそうだが、失敗したら怖いからね。
「ありがとうございます。えっと?次に魔法陣に充分魔力を込めます。って、これは魔力がないと使えない魔道具じゃないですか!あ、だがらあんな格安」
「私が魔力を込めるよ」
「キャロ様、すみません。最新のですと魔法陣に魔力が組み込まれていて半永久的に使えるのですが、これはひと昔前の中古品で自分で魔力を込めるようでした」
その分安かったのだからしょうがない。
「魔力はどうやって込めるの?」
「えっと、魔法陣に手を載せて、魔法陣が輝き出したら完了のようです」
ただ、手を載せれば良いのかな?
私は木箱の魔法陣に手を載せる。
載せた手に微弱の電気が流れるようにほんの少しだけピリピリした。
木箱がジジジジと微かに音がしてカタカタと揺れた。
待つこと3分、やっと魔法陣が白く輝きくっきりと浮かび上がった。
「おお、すごい」
「キャロ様、ありがとうございました」
「次は?」
私はワクワクと聞いた。
「はい。後は呪文を唱えれば状態維持の魔法がかけられます。呪文は……この2枚目の紙ですね。トュットュラス」
キリルが呪文を唱えるとガガガガと木箱から音がしてガタゴト揺れた。まるで、壊れかけの洗濯機みたいだ。
待つこと5分。
シュウ〜ンと音がしてガタゴトした揺れが止まった。
「開けてみましょう」
「どう?」
「ちょっと花びらをちぎってみますね」
キリルが大きめの花びらをつまみ、ちぎろうとした。
「ちぎれません。しっかり、状態維持の魔法がかかってます」
「私もやってみていい?」
「もちろんです」
私も箱から少し大きめの花びらを取り出し、手のひらで揉み込んでみた。
クシャクシャになった花びらが形状記憶の物のようにまた元の花びらに戻っていく。
「すご〜い!」
「これなら大丈夫ですね。あ、蓋の魔法陣もまだ白く輝いているので魔力がまだ残ってます」
「残りの花びらもやっちゃおうか」
「はい」
残りの花びらと木箱に入れて呪文を唱えて待つこと5分。
今度は蓋の魔法陣の色が魔力を込める前の状態に戻っていた。
どうやら2回状態維持の魔法をかけると込めた魔力は無くなるようだ。
私は次にキリルが使えるように魔力を込めておいた。
もっと魔力を込めておけると楽なのだが、格安商品だから多少の不便さはしょうがないか。
「では手紙に花びらを貼り付けていきましょう」
「オー!」
私はユーリカちゃんに出すお手紙を作ることにした。
そろそろ、ユーリカちゃんからお返事が来る頃だからね。
何がいいかな?
私はふと机の上のユーリカちゃんとお揃いの小物入れが目に入り、王都の楽しかったお出かけを思い出した。
あの時、ウメの上にコリム、その上にミドラ君、さらに上にシロが乗ってまるでブレー◯ンの音楽隊みたいで可愛かったんだよね。
ウメーレン隊、ププッ。
私はウメーレン隊の4匹を花びらで作ることにした。
ウメはピンクの花びら、コリムは赤い花びら、ミドラ君は緑色の花びら、シロは周りを縁取って作る事にした。
手紙の色が白だから白い花びらでは目立たないから仕方がない。
手紙の紙は白が主流だけど、いろいろな色があると白い花びらも映えそうだ。
と、キリルに言ったら無言で握手された。
その握手からはキリルの滾る思いが伝わったよ。
「キリルはどんなデザインにするの?」
「私は貴族のご夫人方に受けそうなデザインにします。一番金を落としてくれます。ククク」
キリルが悪い顔で笑った。
うん。安定のキリルだね。
「できた〜」
おしゃべりしながら一時間、私は完成した花びらで作ったウメーレン隊を見た。
うん。可愛い!
目や鼻はペンで描いた。
「私もできました」
「見てもいい?」
「もちろんです」
私はキリルから渡された手紙に花びらで描かれた絵を見てギョッとした。
え?これ、花びら?あの短時間で?
そこには花びらで描かれた絵画の世界が手紙の下部分に広がっている。
瑞々しく咲き誇る彩り豊かなロージアの花園が描かれていた。このまま額縁に入れて飾っておきたいくらい美しい。
キリル、すごすぎない?思わず尊敬の目で見た。
「振ったらチャリ〜ン、チャリ〜ンとお金の音が聞こえるようです。ウフフフ……」
安定のキリルだった。
その後、キリルは王都の商会に売り込みに行くために、3日ほどお休みを取った。
キリルが王都まで一人で行くのは心配だったのだが、ちょうど王都に用事があったノットさんとチャパさん達と一緒に行く事になってひと安心だ。
向こうではキリルのお家にみんなでお泊まりするそうだ。
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