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抜かりはございません

本編に戻って、キャロちゃん視点です。

「キリル、お兄様にお手紙と包みの物を送ってくれる?」

 私はウメを膝にのせて撫でながらキリルに手紙と包みを渡した。デローンと伸びたウメに癒される。

「はい、かしこまりました。この包みの中は何か聞いても良いですか?」

 もちろん構わない。

「中身はソロバンだよ」

「あ、では完成したのですね!」

 

 そうなのだ。ソロバンの勉強会の日ではないが、サリーさんが代表して、つい昨日完成したソロバンを私達の家族の分届けに来てくれたのだ。


 サリーさん達は本当に凝り性だった。

 ソロバンの勉強会の日の他にも頻繁に私を訪ねてはいろいろ改良点を聞いて、すぐに改良したソロバンを作ってまた訪ねて来るのを繰り返した。


 それは鬼気迫るものがあった。 

 だんだん目の下に隈ができ、顔色も悪く、顔もげっそり(やつ)れてくるほどだ。

 思わず心配になって止めたのだが、あと少しで完成するからと、何とか間に合わせたいと物凄い追い込みを見せた。

 

 何に間に合わせたいのかは分からなかったが、そうまでがんばる姿に私も応援しないわけにはいかない。

 私は前世のソロバンの細部まで思い出すよう頭を振り絞って伝えていった。

 木枠や珠の材質、形状など、どんどん前世のソロバンに近づき、とうとう昨日、ヨロヨロになったサリーさんが完成したと届けてくれたのだ。


 そしてこの完成したソロバン、前世のソロバンと並べても遜色ない素晴らしい出来だった。

 珠の滑り具合、指先に当たる感覚、大きさ全てがパーフェクトだ。


 実はこのソロバンは私の誕生日に間に合うように作ってくれていた物だった。


 すっかり忘れていたが、私の誕生日は一週間後の芽吹きの3の月の7日だ。


 この世界の誕生日は、プレゼントは一緒に住んでいる家族は当日に、親しい友達や親戚は誕生日前に贈るのだ。

 サリーさん達はヨロヨロになってまで、私の誕生日プレゼントに間に合うように作ってくれていたのだ。


 私は嬉しくて、思わず両手でソロバン弾きなんてものも披露してしまった。

 サリーさんが涙を流して喜んでくれた


 そして、バラニカ学園に入学したお兄様はお忙しいだろうに本当にまめに手紙をくれた。

 同室になった友人の事や授業、先生のお話とか事細かに小さな文字でびっしりと紙いっぱいに手紙を書いてくれた。

 おかげで私は離れているお兄様の事をそばで見ているように感じる事ができ寂しさが和らいだ。

 もちろん、私も同じように日々の事をびっしりと手紙に書いて送っている。

 

 その中にソロバンの事を書いたらお兄様がぜひ欲しいと返事が来たのだ。

 前々から数学の授業の宿題が多く、少しでも間違うとまた宿題を増やされて大変だと書いてあったのでソロバンを使いたいのだろう。


 もちろん大好きなお兄様のためだ。

 私は今回サリーが持って来てくれたソロバンを早速お兄様に送ることにしたのだ。


 少しでもお兄様のお役にたったら嬉しい。



「あの、キャロ様。お時間がある時にお花を出していただけますか?」

 キリルが遠慮がちに言った。

「もちろんいいよ。今出そうか?」

「はい!」

 いよいよ、キリルのお金儲けの妄想がまとまったようだ。


 私は寝てしまったウメを籠にそっと入れて布団をかけた。

 ウメはフゴフゴと鼻を鳴らした後、フスーと息を吐いてスピスピ寝息を立て始めた。時折、ピクッと右足が動いて可愛い。

 ここまでぐっすり寝ているとウメはどれだけうるさくしても起きない。


「何のお花を出せば良いかな?」

「出来るだけ色鮮やかなお花をお願いします。とりあえず6色くらい欲しいです」

「前に私とお兄様がしおりを作るのに出したような感じかな?」

「はい。それを元に考えました」

「分かったよ」


 私はとりあえず赤、青、黄色、緑色、ピンク、オレンジの6色の花を出した。コソッと前世の花も混ぜる。

「こんな感じでどうかな?他の色や同系色で薄い色や濃い色の花も出せるけど出す?」

「ありがとうございます!まずはこれで見本を作ります」

「何を作るの?」

 私は気になって聞いた。


「はい。リサーチした結果、今王都では手紙に自分でアレンジを加える事が流行っているそうなんです」

 リサーチなんかもしているのか。すごい。


「王都でキャロ様達が作ったしおりを手紙にアレンジできないかと思いまして」

「でも、あれは状態維持の魔法をかけないと花が萎れちゃうよ?」

「フッフッフッ、抜かりはございません。あの時から状態維持の魔道具を探してました。そして中古品で小さいですがロージアを売ったお金で買っておいたのです」

 え?そんな前から?

 準備が良すぎて少し怖いがキリルだからしょうがないか。


「この花びらに状態維持をかけるの?」

「はい。状態維持の魔法をかけて色別に売り出し、手紙に自分で貼っていくようにするのはどうかと」

 なるほど、しおりに花びらを貼って作ったように手紙でそれをやるのか。


「楽しそう!」

「はい。ご一緒に見本を作りますか?」

「うん!」








いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。


昨日投稿した短編「会っても無視か嫌味を言って馬鹿にして笑う婚約者と結婚して幸せになれるか考えよう」もたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。

お陰様で3/5 日間総合ランキングで2位になりました!

ありがとうございます(^^)

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html>   html>   好評発売中 ♪
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