遅いよ!!
ああ、虎が、虎が見える……。
容赦ないティアラちゃんに周りがドン引く中、ルーベルトは素直に額を地面につけようとする。
私はハッとしてルーベルトを止めた。
「土下座なんていいです!お願いだから止めてー!」
そもそも嘘泣きだし、脅されそうにはなったが実際のところフワまもで回避したので実質被害はゼロなのだ。
それがここまで大事になってしまって胸が痛いし、ルーベルトの姿が痛ましすぎる。
いや、もちろんルーベルトが発端で悪いんだけどね。
なんかごめんよぉ……。
私が土下座を止めたのでルーベルトがうっうっと嗚咽を漏らしながらティアラちゃんを見た。
「ちゃんと謝罪しましょうね?」
優しい微笑みなのに目が笑ってない。
「も、申し訳、うっ、うぇっ、ありま、せ、んでした。うっ、うっ、うぇ〜ん」
ルーベルトはそのまま突っ伏して号泣した。
ヒィー!居た堪れない!
「はい!謝罪を受け入れます。ティアラちゃん、私は大丈夫です!もう、この辺で許してあげてー!」
お願い!これ以上は私のメンタルが保たないよ?
私もフワまもしてごめんね!って土下座したくなっちゃうよ!?
私の必死な姿に今までイエス!はい!な平民の騎士見習い君達もティアラちゃんにルーベルトを勘弁してあげてと懇願し始めた。
本当にありがとう!
「うっ、うっ、ごべんなざい。み、みんな、あ、ありがどう、ウッゲェホッ」
ルーベルトが号泣と嗚咽をしすぎて、とうとう吐きそうになってきた。
明らかに泣きすぎだ。
「キャロちゃんがそこまでおっしゃるなら、私もここで引きますね。本当はもう一押し二押し念押ししておきたかったのですが……」
やっとティアラちゃんのお許しが出た。
良かった。一押し二押し念押しまでしたら、きっとルーベルトは天に召されてしまっていただろう。
「ハッ!きょ、今日の鍛錬はこれまで!皆、整備をして解散するように!――ルーベルト様!」
あまりの状況に魂を飛ばしていたラダン様がやっとハッとして指示を出した。
そしてラダン様は羽織っていたマントをルーベルトにかけてお漏らし泣き姿を隠し、肩に抱えて速やかにロニドナラのお屋敷に向かったのだった。
これほどまでに貴族子息としてありえない姿を晒したルーベルトだったが、お取り巻きの子息はもちろん平民の騎士見習い君達も誰一人笑う者はいなかった。
それは彼がまさに生きたまま地獄を見た事を誰もが分かっているからだろう。
それは、誰だって漏らすよね!泣くよね!
そしてラダン様、言ってもいいかな?
きっとティアラちゃん以外のみんなの気持ちは同じだったと思う。
遅いよ!!
「えっと、そ、それではみなさん、地面の整備をいたしましょう」
「イエス!はい!」
ティアラちゃんがいつもの口調に戻ったが、もちろん誰も以前のようにはならなかった。
ルーベルトのお取り巻きだった貴族子息達も痺れが取れたようで、平民騎士見習い君達と共にキビキビと整備始めた。
あれほど平民騎士見習い君達に整備を押し付けて何もしなかったのに、今は率先して肉体強化の魔法まで使ってやっている。
人って変わるもんなんだね。
みんな一糸乱れずキビキビと働き、あれほど地形が変わった訓練場は瞬く間に元の状態に戻ったのだった。
*****
「その、だな。頼んでおいてなんだが……」
応接室にて、私はウメを抱き、後ろにキリルを従え、ご挨拶に対面したロニドナラ侯爵は歯切れ悪く言葉を切った。
大丈夫。言いたい事は分かっているよ。
やりすぎだって言いたいんだよね!
ウメとキリルの何をやらかしたの?って視線が物凄く痛い。
でも待って。私のせいなの?違うよね?いや、フワまもの泣き真似のせいとも言える?でも、発端はルーベルトだし、実行はティアラちゃんだよね!?それでも、私が悪いの?あ、原因が私?
「えっと、その、申し訳ございません?」
「いや、その、大変な思いをキャロライン嬢にもさせてしまってすまぬ。ラダンから詳しい事は聞いている。ルーベルトが煽動していたのだな」
「ティアラミス様がロニドナラ侯爵とログナル伯爵の仲を思い黙っていた事です。私の口からは何も言えません」
って、言ったようなものだけど。
「そうか……」
気まずい沈黙が流れる。
「と、とりあえず、ティアラミス様はもう立派に騎士見習い達をまとめられております。そう、それは見事に」
私の脳裏にイエス!はい!の彼らが浮かぶ。
結果オーライだよね!ね?
「キャロライン様、心から感謝いたします。あんなのとティアラが婚姻を結ぶ事など断固ありえません」
レティライト様の目が据わっている。
「えっと、それは良かったです?」
それにしてもやっぱりやりすぎだったような気がしないでもないような……いや、でも発端はルーベルトだ。
そう、私は悪くない……と思う。
私は曖昧に微笑みを浮かべたまま、ご挨拶して領地に帰って行ったのだった。
お願い!ウメもキリルもそんな目で私を見ないでー!
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