あれ?おかしいな?
私はティアラちゃんの冷たい手をギュッと握る事しかできなくて悔しかった……。
平民の騎士見習い達のあきれたような視線、ルーベルトを始めとした貴族子息達の見下すような視線の中やっと地面の整備が終わった。
さすがに指導騎士が来る時間だからか、ティアラちゃんが指示を出す前にみんなが壇上に向かって整列した。
「本日は私、ラダン・スギヤグが指導する」
どこからどう見ても騎士といったごつい筋肉の30歳くらいの騎士が今日の指導騎士のようだ。
紺色の髪をスキンヘッドに近いくらい短く刈り上げ、厳つい顔にピカッと真っ白な歯が特徴的である。
「まずは軽く訓練場を一周!」
え?一周なの?少なくない?
しかし、周りは特にそれに対して反応がない。
前回はやっぱり私達に合わせてくれて体力強化の訓練にしてくれたのかもしれない。
一周くらいなら楽だね。
ティアラちゃんと一緒に余裕で走り切った。
「キャロちゃんは肉体強化の魔法がないのにすごいですね」
「肉体強化?」
「はい。ここに来ている騎士見習いの貴族子息の殆どが肉体強化の魔法が使えます。平民の騎士見習い達は身体能力の高い者が選ばれてこの訓練に参加しているのですよ」
「そうだったんだね!ティアラちゃんも肉体強化の魔法を授かっているの?」
「はい。でもまだなかなかうまく使いこなせないです」
「まだ、魔法は去年の女神様の祝福からだものね〜」
私もまだロージアに比べると他の花はまだまだ練習中だ。
「次、型の訓練!まずは基本の型!」
すごい!型の訓練とか格好いい。
初めての訓練にワクワクした。
が、あっと言う間にワクワクは消え去った。
「キャロラインー!何をふざけている!?」
何度ラダン様の怒号が飛んだ事か……。
みんなで揃って同じ動きをするこの訓練、ちゃんとラダン様の動きも隣のティアラちゃんも周りの騎士見習いの子達の動きも見ている。
しかし、目から頭、頭から神経伝達されると何故か微妙に?というより大幅に改新されて体が動いてしまうのだ。
あれ?おかしいな?
みんなが右を向く中私は左を向いてティアラちゃんと見合って優しく微笑まれ、次にみんなが左を向くと私は右を向いて隣の子息にプッと笑われ、後ろを向いたら誰も向きを変えていなくて目が合った後ろの平民の男の子が苦笑いをした。
そして最後の型、みんなが体を横に倒しかっこよく片足をピンと上げ蹴りの形で止まる中、何がどうしてどうなったのか分からないが私だけ何故かシェーのポーズをしていた。
共通なのは片足で立っているところぐらいだ。
ポーズは全然違うけど。
本当訳わからない。
シェーのポーズのまま首を傾げるとラダン様と目が合った。
とうとうラダン様もブフッと吹き出して咳払いで笑いを誤魔化した。
ひどいよぅ、私のライフはもうゼロだ。
やっとこ休憩時間。
「ティアラちゃん、もう私はもう立ち直れない……」
「キャロちゃんは初めてなんですからしょうがないですよ。少しずつできるようになりますよ?」
「本当に?」
私が真っ直ぐティアラちゃんの目を見つめると正直者のティアラちゃんはソッと目を逸らした。
「あ、私、飲み物を取ってきますね」
「私も一緒に行くよ」
「キャロちゃんは疲れているのですから、休んでいてください」
主に精神的な疲れだけどね……。
「ありがとう、ティアラちゃん。お言葉に甘えるね」
「はい」
はあ、疲れた。何であんな変な動きになっちゃうんだろう?
こうして、こうで、あれ?
「あ、あの」
私がああでもない、こうでもないと動きを確かめていると誰かに声をかけられた。
「はい?」
振り向くと平民の騎士見習いの子達だ。
「あの、10周最後まで走り切られたお姿に感動しました!」
ビシッと10人ほどの男の子達に頭を下げられた。
「ありがとうございます。でも、気絶してしまってご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「いえ、私達もがんばろうと励みになりました」
うんうんとみんなが頷きいい雰囲気だ。
「私はキャロライン・ヴィゼッタと申します。どうぞ気楽にキャロとお呼びください」
私は嬉しくなってニッコリ微笑んだ。
途端にみんなの顔が真っ赤になりわたわたとなる。
「お貴族様を名前でだなんて」
「同じ騎士見習いです。気になさらないでください。というより普通に話す方が私も楽だから、みんなもいつもの話し方で大丈夫だよ?」
平民の騎士見習いの子達はみんなで顔を見合わせておずおずと頷いた。
「ところで、何でみんなはティアラちゃんの指示にすぐ従わないの?」
「それはログナル様が従うなって。言う事聞かないと痛い目に合わせるとか脅されて、だから、その」
なるほど、やっぱりルーベルトの奴のせいか。
「それにいくら侯爵家の娘だからって弱い奴には従いたくないっていうかさ」
「うん。毎回泣きそうな顔で言われっぱなしの姿見ちゃうとなぁ」
ああ、なるほど。ティアラちゃん自身にも問題ありなのか。
うーん、これは難しい問題だ。
もし、ルーベルトをどうにかしても彼らは表面上従うだけになってしまう。それでは、ティアラちゃんが万が一の有事で指揮を取らなきゃいけない場合に支障が出そうだ。
「あ、ログナル様だ」
「やばい」
みんながそそくさと私から距離を取った。
「おい」
「あ、ねえ、そういえばこの動きを教えてほしいな」
私はなるべく揉め事から距離を置くべく、聞こえないふりしてささっと平民の騎士見習いの子達の方に行った。
その表情は来ないでと言っているが、ごめんね。
平民の子達がさらに距離を取る。
「おい」
ルーベルトがしつこく私に近づく。
「あれ〜、動きが分からないなぁ」
私は平民の子達を追うふりしてルーベルトを避ける。
私は揉めたくないのだよ。
これを何回か繰り返した。
もういい加減諦めてほしいのにルーベルトは追って来る。
ティアラちゃんを追い詰めて婚約者におさまりたい奴にとって彼女の味方になる私は邪魔で排除したい存在だ。
私も平民の騎士見習い達と同じく脅して言う事を聞かせるか、揉めて来られなくさせたいのだろう。
本当にしつこい。
しょうがないので私はルーベルトに向き合った。
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。