ルーベルト・ログナル伯爵令息
具体的には訓練に参加しながら考えよう。
まずは敵場視察だ。
私とティアラちゃんは訓練着に着替えて訓練場に向かった。
キリルは待機室で待っていてもらう。
さて訓練場だが明らかに雰囲気が悪い。
前回は私とお兄様がのほほんと参加したためにピリピリした嫌な雰囲気だったけど、今回はニヤニヤと馬鹿にしたような顔でティアラちゃんを見ていて、ぬめりとした陰湿な雰囲気だ。
「ティアラちゃん、どいつがルーベルト様?」
私はみんなに挨拶して、こそっと小声で尋ねると、ティアラちゃんが小さく指差した。
「あの体の大きな焦茶色の髪の人です」
奴か。
体つきは今いる騎士見習いの中で一番目立って大きい。
9歳と聞いたが、お兄様よりもずっと大きくてごつい。160センチはありそうだ。
太い眉に、ロニドナラ侯爵と同じ翠の瞳、鼻は高く唇が分厚い、多分格好いい顔立ちなのだろうがくどい印象を受けた。口元には薄っすらと嫌な笑いを浮かべ、好感度はマイナスだ。
周りには同じように薄ら笑いを浮かべた10人ほどの貴族の子息達がこちらを見てヒソヒソと囁いては馬鹿にした目で見てくる。
少し離れた所には居心地悪そうな表情の平民の騎士見習い君達が10人ほどで固まっていた。
「キャロちゃん、指導していただく騎士様が来る前に訓練場の整備の指示を出してきます」
ティアラちゃんが壇上に上がる。
前回も思ったが本当に広い訓練場だ。
今回は地面が騎士達の訓練の跡なのかでこぼこしていた。
その周りをぐるりと囲んでいる塀には焦げたような跡がいくつもある。
多分魔法を弾く魔法がかけられていそうだ。
ティアラちゃんが登った壇上は1メートルほど高くなった体育館のステージくらいの広さの所だ。
「み、皆さん、整列してください」
細く高いティアラちゃんの指示に平民の騎士見習い達が動こうとするが、ルーベルトはわざとらしく咳払いをする。
平民の騎士見習い君達はビクリとしてティアラちゃんとルーベルトを交互に見て動けなくなった。
「ティアラミス様、もっと大きな声で指示を出さねば動きようがありませんよ〜」
ルーベルトがニヤニヤと馬鹿にしたように言う。
ティアラちゃんが泣きそうな顔になるが、もう一度先程より大きな声で指示を繰り返した。
「聞こえませ〜ん」
何これ!?いじめのようだ。
「私にはしっかりティアラ様のお声が聞こえますが、ここにいる騎士見習いの方々はお耳に何か詰まっているのではないですか?」
私は小さな声で言ったが、ルーベルト様達はジロリと私を睨んだ。
「部外者は黙っていろ」
「何でこんなに小さい声が聞こえてティアラ様の声が聞こえないのか不思議です。あ、小さな独り言です」
ルーベルトがグッと詰まる。
「あ、あの、整備をしましょう。指導騎士様が来てしまいます」
ティアラちゃんは整列させる事は諦めて、整備の指示を出した。
「ルーベルト様、どうします?」
取り巻きの子息が媚びるように聞くと、ルーベルトはチッと舌打ちした。整備が間に合わないのはまずいのだろう。
「おい、平民!さっさと整備しろ!」
「は、はいっ」
平民の騎士見習い君達がバタバタと動き出す。
は?平民の子達だけにやらせるの?
ふざけるな!と口から出そうになって慌てて口を閉じた。
いけない、ケンカを売っては駄目だ。
私はロニドナラ侯爵領の騎士見習いの訓練に参加させてもらっている立場なんだ。
揉めたらいけない。
ティアラちゃんも困らせてしまう。
私はグッと我慢して平民の騎士見習い君達と一緒にトンボを使って地面を平に均していった。
「キャロちゃん、ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまって……」
「大丈夫だよ。あんなの気にしないから。私の方こそあんまり役に立たなくてごめんね」
「うーうん、そんな事ないです。キャロちゃんがいたから心強かったです」
ティアラちゃんが小さく微笑んだ。
良かった、少しはティアラちゃんの支えになれていたようだ。
「指導騎士様が来る前に早く地面を均しちゃおうね」
「はい」
ニッコリ笑ったティアラちゃんを見て、ルーベルトが忌々しげに舌打ちして近づいてきた。
「ティアラ様、あの話はいつお受けいただけますか?」
ティアラちゃんはルーベルトに声をかけられ、ビクリとした。
本当に苦手なのだろう。
「あなた様は人の先頭に立つ器でないと分かっているでしょう?今までだって、逃げて1人で訓練されていたじゃないですか?誰がそんな人についていくと?」
ティアラちゃんは俯いて小さく震えた。
「そ、そんな事は分かっています。ですから、これからがんばろうと」
震えながらも懸命に答えるティアラちゃんに、ダンと威圧するようにルーベルトが足を踏み鳴らした。
「キャッ」
ティアラちゃんは小さく体を縮こまらせてブルブルと震えた。
「さっさと諦めろよ。お前はあの話を受け入れればいいんだよ。お前は無能なんだから。そうしたら……今すぐにでもみんなをまとめるお手伝いをして差し上げますよ?」
言いたいだけ言って、ヒラヒラと手を振ってルーベルトは取り巻き達の所に戻って行った。
周りでは何も言い返せないティアラちゃんを平民の騎士見習い君達があきれたように見つめた。
ティアラちゃんは涙だけは落とさないよう懸命に瞬きをして堪えていた。
私はティアラちゃんの冷たい手をギュッと握る事しかできなくて悔しかった……。
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。
誤字脱字のご報告助かってます。ありがとうございます。