元凶
「大丈夫です。ティアラ様なら何とかできます。一緒にがんばりましょう!」
「それで、ティアラちゃん。あ、」
心でいつもティアラちゃんと呼んでいたから間違って様をつけないで呼んでしまった。
「ティアラ、ちゃん?」
まだ赤い目をまん丸にしてティアラちゃんが私を見た。
「ごめんなさい!言い間違えました」
「いいえ!良かったら是非ティアラちゃんでお願いします!」
ティアラちゃんが思いがけず食い気味できたので、今度は私がびっくりした。
「うん。じゃあ、ティアラちゃん、私の事もキャロちゃんかそのまんまで呼んでほしいな」
私も嬉しくてニッコリ笑って言った。
「キャロ……キャロちゃん……ハゥン、天使!」
ティアラちゃんが口の中で何かモゴモゴと呟いた。
「では私もキャロちゃんで」
おお、なんか一気に距離が縮まったようで嬉しい。
「それで、ティアラちゃん。今困っている事はどんな事かな?」
「実は……お恥ずかしい話なのですが、私は騎士見習いの方々に舐められてしまってまとめられずにおります。平民の騎士見習いの方々は、私が侯爵令嬢という事である程度は指示に従おうとしてくれるのですが、貴族家の騎士見習いの方々は全く聞いてもらえない状況です」
女の子だし、年もまだ6歳だしたなぁ。
「お兄様は6歳の時からしっかりまとめる事が出来ていたのに不甲斐ないです」
男の子と女の子の差もあるし、イリアス様は嫡男である事も大きいだろう。
でも、それにしても侯爵家の御令嬢に従わないって貴族の子息としてやばいと思わないのかな?
こう言っちゃなんだが侯爵家にケンカ売っているようなものだよね。
「その……私の婚約者候補の方が煽動しているようで……」
ん!?
「ティアラちゃんの婚約者候補が煽動!?」
「はい。お父様の弟の御次男のルーベルト様が、自分と婚約するとお父様に言わなければみんなが私に従う事はないと……」
は!?なんて卑怯な!!
「ひどい!それはロニドナラ侯爵にお伝えした方が良いよ」
ティアラちゃんは力なく首を横に振った。
「私達侯爵家は、辺境伯家が隣国に睨みを効かせて自由に動けない分、国内で起こる魔獣や盗賊など様々な事に対応する武の一門です」
ロニドナラ侯爵家は辺境伯家と双璧の武の一門だ。
隣国は好戦的で思い出したようにちょいちょいちょっかいをかけてきて、辺境伯家は滅多に領地を離れないと聞いた事がある。
その分国内での荒事はロニドナラ侯爵家が担っている部分が大きいそうだ。
「それらをまとめるのは主家であるうちですが、有事の際はその当主夫妻とその兄弟が将として立ちます。ですので、今はお父様とお母様、お父様の弟である叔父様とその奥方様が、お兄様の代になりましたら、お兄様と奥方様、そして私と、私と婚姻した方が将となり討伐に向かいます。そして、引退した元当主と現当主の子供達が領地を守る先頭に立つのです」
なるほど。今の当主であるロニドナラ侯爵が有事で領地を出た時はお祖父様とイリアス君とティアラちゃんが、でも今はイリアス君は王都に行っていないからお祖父様とティアラちゃんが先頭に立って騎士を率いるようなのか。
重い責任だ。
「お父様とログナル伯爵家当主の叔父様はとても仲が良い兄弟です。しかし、叔父様の御子息のお二人は10歳と9歳の年子で年も近いためか競い合う事が多く、仲もあまり良くないのです。ルーベルト様は兄君であるリンベル様がログナル伯爵家の跡を継ぐので、兄君に負けたくない彼は私と婚姻を結んで有事の際に将として兄君の上に立ちたいようなのです」
そんな事でティアラちゃんと結婚したいなんて冗談じゃない。ティアラちゃんはルーベルト君の自己満足の道具ではない。
「ティアラちゃんはルーベルト様の事はどう思っているの?」
「昔から2人になると意地悪をしてくるような方で、とても苦手です。彼を前にすると怖くて何もできなくなってしまって……」
だったら何で未だに婚約者の筆頭のままなのだろう?
「でもこの事をお父様に言ったら間違いなく怒り狂うと思います。お父様は脳き、直情的な方なので、仲の良い叔父様との間に亀裂が入ってしまうかもと思うと言えないのです」
ん?今ロニドナラ侯爵を脳筋って言いかけた?
やっぱり脳筋だったか。
それにしても、優しいティアラちゃんは自分が我慢すれば、自分がどうにかしなければとがんばったのだろう。
まだ6歳で人見知りも激しいというティアラちゃんを思うとそのルーベルトという奴に腹が立った。
でも、分かった。
そのルーベルトって元凶をどうにかすれば良いのだ。
下にくっついている子息達は上のルーベルトをどうにかすればティアラちゃんに従うだろう。
ついでに婚約者候補からもどうにか外せないかな?
「ティアラちゃん、一緒にがんばろうね!」
「はい!」
具体的には訓練に参加しながら考えよう。
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