ティアラを助けて欲しい
「ヴィゼッタ様、やはり旦那様と奥様は床に座らせましょう」
すったもんだの謝罪土下座もやっと落ち着き、出された紅茶を一口飲む。
訓練前にとてつもなく疲れた。
「それでだな……」
ロニドナラ侯爵が心底申し訳なさそうに大きな体を小さくして目を彷徨わせた。
「キャロライン嬢、頼み事ができる立場でない事は分かっているのだが……」
いや、侯爵の立場は余裕で頼み事ができる立場だと思うが?
ガバリとお二人が頭を下げた。
土下座でないだけマシだが、侯爵の立場でそんなに頭を下げまくらないで欲しい。
「どうか、ティアラを助けて欲しい」
は!?ティアラちゃん、どうしたの!?
「ティアラ様を助けてとは!?何があったのですか!?」
ロニドナラ侯爵がバッカスさんに目配せした。
「詳しい事は私からお話させていただきます。実はイリアス様がこの度バラニカ学園にご入学された事により、お嬢様が騎士見習い達をまとめるお立場となりました」
「ティアラ様も騎士見習いの訓練に参加されるようになったのですね」
「はい。ティアラ様は人見知りが激しくなかなか騎士見習いの訓練には参加できず、個人的に騎士から訓練を受けておりました」
あの控えめでおとなしいティアラちゃんでは男の子達に混ざって一人女の子では辛いだろう。
「しかし、イリアス様が学園にご入学されたので学園から帰られる長期休暇以外の訓練ではティアラ様がまとめていかなくてはなりません」
今まで訓練に参加できずにいた6歳のティアラちゃんに、年上の騎士見習い達をまとめろってきつくないだろうか?
ああ、でも武の一門の侯爵令嬢としてはそんな事は言ってられないのか……。
「芽吹きの2の月よりティアラ様は訓練に参加され、懸命にまとめようとなさりました。しかし……」
バッカスさんのその表情から見るに、うまくいっていないのだろう。
そうか、だからティアラちゃんから手紙が来なくなってしまったのか。
私は二週間に一度の訓練に参加させていただく事になっているが、ロニドナラ領の騎士見習い訓練は基本的に毎日だ。
すでに14日間経っている。
肉体的にも精神的にも辛いのだろう。
「どうしても軽く見られてしまっているのが現状でございます」
「私達が一喝すれば皆態度を改めるだろう。しかし、それでは表面上うまくいくだけで信は得られないのだ。ティアラは万が一の有事の際は采配を振るわなければならない立場だ。騎士見習いぐらい自分で従わせられなくては困るのだ」
ブルブルと震える拳から、本心では一喝したいであろう親心がひしひしと感じられた。
「ティアラ様は私の大事なお友達です。もちろん助けたいです」
私はしっかりロニドナラ侯爵の目を見て言った。
侯爵の目がウルウルと潤む。
お願い、泣かないで。私に涙を見せないで。
「ありがとうございます!キャロライン様」
レティライト様が感極まったように私の手を握った。
「私は何をすれば良いですか?」
私は身を乗り出して尋ねた。
そんな辛い状況から早くティアラちゃんを助けたい。
お二人がピシリと固まった。
ん?
「旦那様?奥様?」
バッカスに声をかけられて2人ともダラダラと汗をかく。
私の手を握ったレティライト様の手汗がひどい。
「まさか、頼む事から先は何もお考えになってなかったなんて事はありませんよね?」
え?誰かと同じ丸投げ?いやまさか!?
「ハハハ」
ロニドナラ侯爵がそんなまさかといった風に笑った。
良かった。そんな訳ないよね!
「すまん!頼む事に必死で考えてなかった」
お二人は流れるように土下座した。
マジかぁ。
「とりあえず、ティアラ様と話してみます……」
私の口から渇いた笑いが出たのだった。
*****
私はバッカスさんに案内してもらって、ティアラちゃんの部屋をノックした。
「……はい」
中から元気のないティアラちゃんの返事がした。
バッカスさんがそっとドアを開けてくれる。
2人で話したかったからキリルにもドアの外で待ってもらった。
「ティアラ様、お久しぶりです」
私はわざと元気な声で挨拶した。
「キャ、キャロ様!?」
どうやら今日私が訓練に参加する事は知らされていなかったようだ。
泣いていたのかティアラちゃんの目が赤い。
「今日は訓練に参加しに来ました。ティアラ様も参加するようになったんですよね?ご一緒できて嬉しいです」
びっくり顔のティアラちゃんの表情が翳った。
「もしかして、お父様達に私を助けて欲しいとお願いされたのではありませんか?申し訳ございません」
「うーうん、ティアラ様。最近お手紙が来ないから心配してました。私に何ができるか分かりませんが、私は絶対にティアラ様の味方ですよ!」
私はしっかりとティアラちゃんの手を握った。
「キャロ様……」
ティアラちゃんがポロポロと涙をこぼした。
私はティアラちゃんを抱きしめて背中をさする。
「大丈夫です。ティアラ様なら何とかできます。一緒にがんばりましょう!」
ティアラちゃんはコクコクと何度も頷いた。
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