命名
『うむ。苦しゅうない。よく、我に感謝し、敬うのだぞ』
「お父様、お母様、ちょっと早いけどペットを飼ってもいい?」
私はソファで寛いでいるお父様とお母様に尋ねた。
お父様は後ろは短く前髪は長めの白金の髪に、萌葱色の瞳の優しい顔立ちでお兄様とよく似ている。
お母様は淡いピンクの緩やかに波打つ髪を簪を使ってくるっとまとめ、私とお兄様と同じアクアマリンの瞳の華奢で儚げな美人だ。
顔立ちは私とよく似ているのだが、どうにも雰囲気が違いすぎるのが不思議だ。
「良いんじゃないか?前から欲しがっていた犬かな?」
「そうね……前から犬を飼いたいと言っていたものね。子犬が生まれたところがないか聞いてみましょうか?」
お父様とお母様の足元で白い大型犬のゴルとレトがゆったり寝そべっている。フサフサの毛がチャームポイントだ。
「えっと……子ブタを……」
私はそっと目を逸らして、子ブタを抱き上げて見せた。
子ブタが得意げにプヒッと鳴いた。
お父様とお母様の視線が痛い。
ゴルとレトは子ブタを見てブンブンしっぽを振り始めたので気に入ったようだ。
「……うん。まだ、キャロは幼いからしょうがないね。あのね、子ブタは食べ物であってペットに子ブタはいないのだよ」
知ってるよ……私も飼うならお父様達と同じ犬が良かった。
でも、この子ブタには世界がかかっているのだよ。
「この子ブタがいい。見て、可愛いよ」
「父上、母上、キャロは天使だから子ブタを飼っても良いと思います」
向かいのソファに座っているお兄様のよく分からない援護射撃だ。
「お願い!」
幼子のウルウル攻撃だ。
子ブタも珍しく空気を読んで一緒にウルウルした。
「あなた、良いのではありませんか?子ブタは駄目って法律はありませんし」
「うーん、そうだな。確かに可愛らしい子ブタだしな。ちゃんとお世話をするのだよ」
「お父様、お母様、ありがとう!ちゃんとお世話する。お兄様もありがとう!」
そうだ、あとどこか体を鍛えられるところを探さなくては。
自分で気絶するまで鍛錬なんて私は無理だ。
「お父様、私体を鍛えたい。どこかの騎士団で一緒に鍛えてくれないかな?」
うちは貧乏だから、先生に来てもらって鍛えてもらうなんて贅沢はできない。
私がどこかの騎士団の訓練に参加させてもらうのが良いね。
「キャロは女の子だし、まだ小さいのに何で体を鍛えたいのかな?」
それはこのままだと時が3秒しか巻き戻らないから……と、正直には言えない。
「キャロはお父様とお母様とお兄様とこの領地のみんなを守りたいの」
こんな理由はどうだろう?
守りたい気持ちも本当だから嘘ではない。
「まあ、キャロ。ありがとう」
お母様が私を膝にのせて抱きしめ、チュッとおでこにキスをする。
「お母様、大好き」
私もチュッとお母様のほっぺにキスをした。
「お父様には?」
「お父様も大好き」
お父様にもチュッとする。
嬉しそうにお父様も私のほっぺにキスをした。
「そうだな……、隣のロニドナラ侯爵領の騎士見習いの子供達の訓練に混ぜてもらえないか聞いてみよう。でも一人で大丈夫かな?」
確かロニドナラ侯爵領は武の一門だ。
「だったら、僕もキャロと一緒に参加します」
「お兄様、ありがとう!大好き」
私はお兄様のところに行って抱きつき、ほっぺにチュッとした。
お兄様はお父様と同じで、どうみても文官系だというのに本当にありがたい。
「キャロ、そういえば子ブタちゃんのお名前は決めているの?」
名前?
そういえば聞いてなかった。
「お名前ある?」
お膝の子ブタに聞いてみる。
『もちろんあるぞ。我は――だ』
我はの後がラジオで雑音が入ったようにザラザラして聞き取れない。
『天界の言葉はこちらの世界では使えぬようだの。其方が好きな名前を付けよ』
「えー、私が付けるの?うーん……」
やっぱりブタと言ったら……。
「ブーちゃん!」
『却下!!断固拒否!!』
子ブタがテシテシと私をたたく。
お父様達も残念な目で私を見ている。
ダメか。
うーん、ピンクが好きって言ってたから……。
「ピンクちゃん!」
『却下だ。ひねりがないの』
くぅ、ひねりって?
「じゃあ、モモちゃん」
『ピンと来ぬ』
ダメ出しばかりだ。
うーん、昨日の呪文の元の桜、桃ときたら……。
「梅?」
『おお、聞き慣れぬが良い響きだな。それが良い!」
え?いいの?
私の中だとどうも梅は梅干し婆さんのイメージが強く可愛い感じがしないのだか。
「あら、綺麗な響きね。ウメ……良い名前じゃない?」
お母様からも一票入った。
「うん。良い響きだね」
何とお父様からも一票入った。
「じゃあ、ウメに決めた」
いいのかなぁと思いつつも、まぁいっかと納得したのだった。
「キャロは天使だからウメと本当にお話しているみたいだったね」
最後にお兄様が言った。
あ、普通にしゃべってた。
お父様とお母様の目が可愛いね〜と私を見ていた。
まだ小さいから許されるけど、大きくなってこれをやったら不思議な人になってしまう。気をつけよう……。
「そうだ、キャロ。とうとう神殿から女神様の祝福の書簡が届いたよ」
「本当!?いつ?」
ついに来た!
「10日後だよ」
おお、とうとう魔法を使えるようになる!
私は何の魔法だろう?
楽しみだ!
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。