新しい仲間(仮)
「嫌です!帰りません!お嬢様のお側を離れたくありません!」
次の日の朝早く、ライラとミューレがキリルを迎えに来た。
知らせを聞いてすぐに王都からこちらに向かったのだろう。
2人共、目の下の隈はひどいし、髪もほつれてボサボサだ。
「キリル!良かった!」
ライラがキリルの無事を確かめるように抱きしめた。
「おばあちゃん、お母さん、心配かけてごめんなさい」
「旦那様、奥様、この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございません」
ミューレとライラが深々と頭を下げ謝罪した。
「いや、大丈夫だ。それより、2人共疲れているだろう。とにかく座らないかい?」
「はい。ありがとうございます」
応接室のテーブルにミューレ達家族は3人並んで座り、その向かいにお父様とお母様が座った。
私はお茶を淹れ始める。
「キャロライン様!私がやります。座ってください」
ミューレとライラが慌てて立ち上がった。
「2人共王都から急いでここまで来たのでしょう?気にしないで座ってて。今日の2人はお客様なんだからゆっくり休んでね」
「キャロライン様、私がやります」
キリルがスッと私の隣に立つ。
「ありがとう。じゃあ、このお菓子を出すのを手伝ってくれる?」
「かしこまりました」
昨日の興奮したキリルは怖!と引いたが、さすがはミューレの孫だけあってキリルはメイドの仕事も侍女の仕事もそつがなかった。
昨日は飲まず食わずで領地に着いて行き倒れてしまったようだが、ご飯を食べるとすっかり元気になり、まるで昔からうちにいるメイドか侍女のように働き始めた。
もちろん、止めたのだがキリルも置いてもらうために必死で全く止まらない。
何よりも、うちは万年人手不足だからやっぱり手伝ってもらうと助かるわけで、結局一緒におうちのお仕事をやっていくうちにすっかり馴染んでしまった。
私達はお茶出しを終えると、キリルはライラの隣に、私はお母様の隣に座った。
「この度はキリルが本当に申し訳ありませんでした」
ミューレとライラが改めて謝る。
「いや、キリルが無事に辿り着いて良かった」
本当にキリルに何事もなくて良かった。
女の子が1人で寄り合い馬車で来るなんて危険極まりない行為だ。
そこら辺はキリルも考えたようで髪を思い切りばっさり切って男の子の格好で来たようだ。
切った髪は売ってお金に換えたらしい。
一石二鳥ですとニマ〜と笑って言っていた。
「キリル、何故こんなことをしたの?」
「おばあちゃんにもお母さんにも言ったでしょ?私はお嬢様のお側にいたいの。そう、キャロラインお嬢様は私の運命の相手なの。こんなにもお金の良い香りのする方はいません。側にいるだけで幸せを感じるのです。もう、お嬢様に出会う前の生活には戻れません」
相変わらず言ってる意味が分からない。
「それは分かるわ」
え?分かるの?
「私もアンナリア様に出会った時に運命を感じたもの。私は美しい人、可愛らしい人がたまらなく大好きよ。アンナリア様にそっくりなキャロライン様のお側でそのお可愛いらしいお姿からお美しいお姿に移りゆく様を愛でたい、さらに磨きたい気持ちでいっぱいよ!できることなら私もここにいたい!ここは桃源郷なのよ!見て、ほら、女神と天使がいるわ!」
紛うことなくライラとキリルは親子だね……。
ミューレがポンポンとライラの肩を叩く。
ライラがハッと我に返る。
「失礼いたしました」
「ライラの事は慣れているから大丈夫よ」
お母様が遠い目をして言った。
「旦那様、奥様、キャロラインお嬢様、どうか私をここに置いてください。一生懸命働きます。メイドの仕事も侍女の仕事もできます。お給金はいりません。おばあちゃん、お母さん、ごめんなさい。多分連れ帰られても私またすぐ来ちゃうと思う」
キリルがガバリと頭を下げた。
「そうは言っても働いてもらってお給金を出さないなんて事はできないわ」
そう、貴族の体面がないような末端貧乏田舎貴族のうちでもさすがに無給はまずい。
この国は何代か前の生類憐れみの令を出した王様によってまあまあ法律が整備されている。
無給で貴族が働かせたりしたら法律に引っかかってしまうし、万が一、無給で働かせていると広まったら信頼は地に落ちてしまう。
何より、いくら本人が望んでも無給なんて申し訳ない事はしたくない。
でも、分かる。
キリルは間違いなく連れ帰られてもネバーギブアップで何度でも来る。
今回はたまたま無事だったが、次も無事とは限らない。
かと言ってうちに人を雇う余裕はない。
だったら、どうするか?
キリルはロージアを使って儲かる方法がたくさんあると言っていた。
だったら、お給金をうちが払えるように自分でどうにかしてもらえば良い。
「お父様、お母様。もし、キリルにお給金を払えれば雇っても良い?ミューレ、ライラはどう?」
私の突然の問いにお父様達は顔を見合わせた。
「それは良いけれど、人1人雇うという事は大変だよ?」
「もちろん、私共も構いません。ぜひお願いしたいです」
キリルが顔を輝かせた。
「雇っていただけるのですか!?」
「とりあえず、ひと月だけお試しでって事でどうかな?」
どういう事?とみんなが首を傾げる。
「キリル、私の魔法で出すロージアでお金を稼ぐ方法がたくさんあると言ったでしょう?私の魔法で出すお花を自由に使って良いから、自分に払う分のお給金を稼いでみない?」
「稼ぐ?……」
小さく呟いたキリルがブルリと震えた。
「はい!ぜひやらせてください!ああ、ゾクゾクが止まらない〜」
キリルはニヤニヤと笑いながら身悶えるのだった。
あ、ちょっと早まったかも?
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。