ユーリカとお出かけ 後編
ユーリカちゃん視点最後のお話です。
学園見学の後あたりのお話になります。
学園見学はとんだ事になってしまった。
お兄様達が追いかけられている時は怖かったけど、ブッモーはすごく面白かった。
でもその後出て来た自称キャロラインの婚約者には本当に腹が立った。お兄様がさっさとやっつけてくれて本当に良かった。
さ、次はお店巡りだ。
いっぱい紹介したいお店があるのだ。
それなのに――。
「駄目よ!まだお店を案内していないわ」
「申し訳ありませんが、時間ですし……」
「い!や!」
もう帰らなくてはならない時間になってしまったと言われた。
だって、いっぱいお店を回って調べたのに。
キャロラインにもハウルにも教えてあげたいお店がいっぱいなのに。
困らせてる。
護衛もお兄様もハウルもキャロラインもみんなの事を困らせてる。
分かってるけど今はどうしても頭がワーッとなって止められない。
だって楽しみにしていたのに……。
「ユーリカ、もう伯爵邸に送らなければならない」
「お兄様……でも」
「ユーリカ」
お兄様が静かに私の名前を呼ぶ。
分かってる。
もう帰らなくてはいけないのだ。
キャロラインとお店に行けないのだ。
私は涙が落ちる前にコリムを抱きしめ顔を隠した。
泣いたらもっと困らせてしまう。
きっとみんな私を迷惑そうに見ているだろう。
私のわがままに怒っているかもしれない。
「ソル様、護衛さん、私もユーリカ様とお店に行きたいです。一軒だけでも駄目ですか?」
え?キャロライン?
「ソル、僕からもお願いします」
ハウルも?
2人の声が思いのほか優しくてびっくりして顔を上げた。
みんな心配そうに私を見ていて、困った顔も怒った顔もしていなかった。
「……分かった。ユーリカ、一軒だけ行ってもいい」
「本当?」
心の中では嫌だなって思わせてしまっていないだろうか?
「私、わがままを言って困らせてしまった?」
「いいえ、嬉しいですよ。私もユーリカ様とお店に行きたいです。今日の記念にお揃いの物を買いましょう」
「お揃い?」
「はい、仲良しのお友達の証です」
「な、仲良しのお友達!?」
お友達!?キャロラインと私は仲良しのお友達!?お揃いの物!?お友達の証!?
嬉しくて心臓がドキドキした。
「しょ、しょうがないからお揃いの物を買ってもいいわ。キャロライン、だったらピチカト商会のお店に行きましょう!あそこは何でも揃っているのよ」
「はい」
ピチカト商会は私が調べたお店の中で一番お勧めのお店だった。
店員はみんな丁寧だし、いろいろな商品を扱っている。
学園からも近いから、ハウルが寮に入った後、何か足りない物があってもここならすぐ買いに来られるお店だ。
「ここがピチカト商会よ!ハウルも学園から近いから覚えておくといいわ!」
「はい。ありがとうございます」
「ここの商会の本店は公爵家に出入りしている」
「品揃えも良い、安心していられるお店ですね。ユーリカ様、素敵なお店を教えてくださってありがとうございます」
良かった。キャロラインもハウルも嬉しそうに笑っている。すごく嬉しい!
「別に。たまたま知っていたお店よ」
とても胸がムズムズポカポカするから恥ずかしくて横を向いた。
お友達の証のお揃いは小物入れを買う事にした。
キャロラインもひとつずつ手に取って選んでいる。
あ、この小物入れ!
「私はこれにするわ」
私はキャロラインの瞳とよく似た春の澄んだ青空のような魔石がついた小物入れを手にした。
キャロラインもいつの間にか決めていたようでひとつの小物入れを持っていた。
紅い魔石の付いた小物入れ。
私の瞳と同じ色。
お互いの瞳の色だ!
「はい!じゃあ、一緒に買いに行きましょう」
「あ、お金!」
私は白金貨が使えない事を思い出す。
「大丈夫だ。ここは公爵家の懇意にしている店だからサインで買える」
お兄様がスッとサインをしていた。
店員が私とキャロラインに盗難防止の魔石を外して小物入れを渡してくれた。
嬉しい!私は大事に胸に抱きしめた。
「あ、私の方はまだ支払ってないです」
キャロラインが焦ってお財布を出していた。
多分お兄様が一緒に払っているだろう。
「フィジマグ様からすでにサインをいただいております」
ほら、やっぱり。
「先ほどお昼は奢ってもらったからな。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
でも……。
「次回のお出かけの約束がなくなってしまったのね」
約束がなくなってしまって、思わず呟いてしまった。
「ユーリカ様、今度は私が奢る番ですね。またお出かけのお約束をしてくれますか?」
キャロラインがそっと私の手を繋いで言った。
約束?
新しい約束!
「キャロラインがそこまで言うなら約束してあげてもいいわ!まだ案内していないお店がたくさんあるのよ」
「はい。楽しみにしています」
また一緒にお出かけできる!
今度こそ本当にお出かけはおしまいだ。
馬車の中でみんなでくっついて丸くなって寝ているコリム達をぼんやり見つめる。
今日は嬉しいがたくさんだった。
キャロラインが仲良しのお友達って言ってくれたし、シロに種をあげたし、串焼き美味しかったし、キャロラインの口は魔法みたいにガブってお肉が消えてってすごかったし、ブッモーも面白かったし、お揃い買ったし……すごく、すごく楽しかった。嬉しかった。
「ソル様、ユーリカ様、今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです。これはささやかですが、私達からのお礼のプレゼントです」
キャロラインがゴソゴソとポシェットから何かを取り出して、ハウルはお兄様に、キャロラインは私に差し出した。
何だろう?
「これは……しおり?すごいな、花びらか?」
「はい。私が出した花の花びらを貼り状態維持の魔法をかけてあります」
どうやら、お兄様のしおりはウメとミドラ君の芸術的なしおりらしい。
私のは……赤い花びらで形を作った猫?
「コリム?」
「はい。赤いお花でコリムを描きました」
手作りのしおりは、私が持っているしおりに比べると拙い。
でも、こんなに細かい花びらを一つ一つ貼っていくのはどんなに大変だっただろう。
「私のために作ってくれたの?」
「はい」
ふと、ハウルが串焼きの露店で言った言葉を思い出した。
その気持ちが何より嬉しいと。
そうか。こういう事なんだ。
私のために一生懸命に作ってくれたしおりを指先で撫でる。
「……ありがとう。すごく、すごく、嬉しい」
何て……何て嬉しいのだろう。
フワフワとした気持ちのまま、心からするりと言葉が出たのだった。
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