ユーリカとお出かけ 中編
引き続きユーリカちゃん視点です。
本編の最低レストランのザーマズを出て串焼き屋さんに並んでいるあたりのお話になります。
あのザーマズの対応は一体なんなのだろう!?
キャロラインとハウルを見る蔑んだ目、とても貴族に対するものとは思えない言葉の数々。
あまりの言動に腹が立って仕方がなかった。
初めてキャロライン達と行くお店だからこそ、王族も行くというレストランと聞いて選んだお店だったのに。
ハウルもキャロラインもお店を出てすぐに謝ったお兄様に全く気にしていない様子だったけど、がっかりした気持ちになったのではないだろうか。
何が、王族も来るレストランだ。
いや、違う。そもそも、ちゃんと自分で確かめなかった私のせいだ……。
串焼き屋さんの列に並びながら私の頭はぐちゃぐちゃしていた。
馬車の中でキャロラインに言われた事、せっかくのレストランがうまくいかなかった事……。
カリム様はコリムの他のペットを可愛いと思うのは可哀想とおっしゃった。
でもキャロラインは構わないと言う。
ずっとお父様のお兄様のユキとシロが可愛いと思うたびに悪い事をしている気持ちがしていた。
でも、コリムを好きな気持ちは変わらないし、キャロラインの言う通り好きの気持ちは減らない。
初めてフワフワのシロが手のひらに乗って、種をモグモグ食べる姿は身悶えするほど可愛らしかった。
でも、心の隅にやはり罪悪感を感じた。
だってカリム様は間違った事は言わないから。
レストランがうまくいかなかったのは、ちゃんと自分の目で確かめなかった私が悪い。
キャロラインにもハウルにも嫌な思いにさせてしまった。
あんな蔑んだ目で見られるなんて悲しい気持ちになったのではないか。
2人は嫌な顔をしなかったけど、私のせいだ。
私が案内したくて、自分でお店を選んだりするから2人に嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。
いつものように、カリム様に聞けば良かったのだ。
だって、カリム様の言う通りにしてれば間違わないもの。
ちゃんと聞いておけば、2人に嫌な思いをさせる事もなかったかもしれない。
「次はユーリカ様です」
急にハウルに明るく声をかけられて目をパチパチさせてしまった。
そういえば、なぜか動物の鳴き真似ゲーム?が始まっていた。
「わ、私も?私はいいわ。あなた達でやりなさい」
「ではユーリカ様は負けですね」
負けの言葉にムッとしてハウルを睨んだ。
「負け?それは嫌よ」
えっと、動物、動物?
もうコリムの鳴き声は出ているし、お兄様のシロは鳴かないし。
お母様のグアナはたまにすごい声で鳴くけどあれを真似するのは難しくて無理だ。
キョロキョロと見回してキャロラインのウメと目が合う。
「……わ、私も鶏肉を頼む……ブー」
「プッ」
ハウルが吹き出した。
「ユーリカ様の子ブタ可愛いですね。僕の負けです」
「ユーリカ様、すごい!残りあと3人ですね!」
私は嬉しくて俄然やる気を出す。
「負けないわ」
「よし。腹筋の成果を見せよう」
「私は豚肉を食べるっガオー!」
「え!?ウメがペットなのに!?」
「それはそれ、これはこれです」
キャロラインがニンマリ笑った。
え?大変!ウメが食べられてしまう!?
私はウメを抱いてキャロラインからススッと離れた。
「大丈夫です。ウメは食べないですよ!」
むぅ、本当だろうか……。
「ユーリカ、ウメはまだ小さいから大丈夫……キェー」
油断していたところに、まさかのお兄様がグアナそっくりに鳴いた。
しかも、これはご飯を食べてご機嫌なグアナの鳴き方だ。
グアナのあの満足そうな顔まで浮かんで思わず吹き出してしまった。
「ユーリカ様、負けですね」
「お兄様、ひどい」
「すまない、今はこれしか思いつかなかった」
「お兄様なんか知らない」
せっかくやる気を出したのに、お兄様のせいで早々に負けてしまったではないか。
「では、私とソル様の勝負ですね。ユーリカ様の仇は私が取ります」
私はキャロラインを応援しよう。
「残念でしたね」
「キャロラインが私の仇をうってくれるから大丈夫よ」
ハウルがそっと私に紙を差し出した。
私は首を傾げて紙を受け取ると、バッとハウルを見た。
「見た?」
「はい」
その紙は私が調べたお店の事を書いたメモだった。
いつの間にか落としてしまっていたようだ。
恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じた。
「ユーリカ様、ありがとうございます。キャロラインのために一生懸命お店を調べてくれたのですね」
「ち、違うわ。たまたま私がお店に行きたくて、たまたまメモに書いただけなの!いいからこの事は忘れなさい!」
ハウルは優しく笑ってはいと言ってくれた。
その笑顔があまりにも優しかったから……つい言葉がこぼれた。
「……さっきのお店は私が選んだの。私のせいで嫌な気持ちにさせてごめんなさい」
「ユーリカ様のせいではないですよ?」
「でも、私がちゃんと選ばなかったから……」
下を向くと涙がこぼれそうだ。
ハウルがポンポンと私の頭を撫でた。
お兄様と撫で方が似ていて、お兄様の師匠という言葉が思い出された。
「本当にユーリカ様のせいではないです。それより、ユーリカ様が一生懸命私達のためにお店を考えてくれたその気持ちが何よりも嬉しいと思います。もちろん、キャロもそう思いますよ」
本当にそうだろうか?結果が伴ってないのに?
私にはよく分からない。
コリムはどうだろう?
私が他のペットを可愛いと思っても本当に良いのだろうか?
可哀想じゃないのか?
カリム様とキャロラインのどちらが正しいのだろう……。
私はチラリとコリムを見て、やはり悪いような気がしたので抱いていたウメをそっと下ろした。
ふと顔を上がると、ハウルはじっと私の顔を見つめていた。
「もしかして、ユーリカ様はコリム以外の動物を可愛いと思う事にまだ罪悪感があったりしますか?」
私はずばり言い当てられて口をギュッと閉じた。
「カリム王子殿下が自分のペット以外の子を可愛いと思うのは可哀想と思う事も、キャロラインのように別に良いと思う事もどちらも間違ってないと思います」
「どちらも正しいの?」
「はい。もしかしたら、カリム王子殿下のペットはヤキモチ焼きなのかもしれない。それとも、誰か自分のペットを蔑ろにして他の人のペットを可愛がる姿を見たのかもしれない。だから彼にとっては、他の人のペットを可愛いと思う事は可哀想という言葉は正しい事です。でも、コリムは気にしないし、ユーリカ様は他の人のペットを可愛いがってもちゃんとコリムを大切にするでしょう?」
私はもちろんと頷く。
カリム様は正しい。でも、その正しいはカリム様にとっての正しいで私の正しいとは違う?
「だから、ユーリカ様は自分が嬉しいと思う方を選べば良いと思います」
私が嬉しいと思う方?
「私は……シロにまた種をあげたいわ」
「ではあげましょう。まだ種はこんなにあります」
ハウルが私にザラザラと種を渡してくれた。
「こんなにあげたらシロのお腹が痛くなってしまうでしょ!」
「じゃあ、余った分はまた明日の分で」
ハウルの笑った顔はキャロラインとよく似ている。
ヘラリと気が抜けた柔らかな笑顔だ。
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ユーリカちゃん視点のお話は明日で最後です。