ユーリカとお兄様
ユーリカちゃん視点のお話です。
王城の夜会の少し後くらいのお話になります。
私はキャロラインから来た手紙を握りしめ、お兄様の部屋に飛び込んだ。
「お兄様!キャロラインが王都に来ているわ!」
ノックもなく部屋に入った私にお兄様はピクリと眉を動かした。
「ああ、ハウルからの手紙にも書いてあった」
「ハウル?誰?」
私は見知らぬ名前に首を傾げた。
「キャロライン嬢の兄だ」
「キャロラインのお兄様?何故お兄様にお手紙?」
「文通をしている」
お兄様が文通!?
「どうしてキャロラインのお兄様と文通をしているの?」
一体どういった繋がりなのだろう?
「私の師匠だな」
いよいよ、訳がわからない。
お父様もお兄様もいつも眉間に深い皺を寄せ、私を不機嫌そうに見るのでとても怖かった。
たまに目が合うと無言で睨まれる。
どの言動がそんなに不快なのか不安だった。
カリム様に相談すると、家族だからと言って皆が皆愛せるわけではないと言われた。
確かにその通りかもしれない。
私はわがままだし、意地悪だ。
いつも口から嫌な言葉が出てからしまったと思うのだが、出てしまった言葉は戻らない。
結局、どうして良いかわからなくてそっぽを向いて逃げてしまう。
きっと、そんなところが嫌われるのかもしれない。
私はそう思っていた。
お母様はそんな事ないといつも優しく抱きしめてくださったけど、お腹に赤ちゃんができてからはそれも無くなった。
カリム様は、お母様がお腹の赤ちゃんを一番好きになってしまうのはしょうがない事だとおっしゃって優しく手を握ってくれた。
カリム様は私が可愛いと、大切だといつも言ってくれるから大好きだ。
王城にいる時はカリム様がそばにいて優しくしてくださる。
でも、家ではどうしても気持ちがぐちゃぐちゃしてしまうのだ。
気づいたらメイドに物を投げたり、意地悪を言ってしまう。
自分の思い通りに行かないとワーッとなってしまって止められないのだ。
その度にお父様から呼び出され、怒られる。
ため息を吐かれると、私の手がどんどん冷たくなる。
それは王城に遊びに来たいつものある日。
カリム様がドルモンドのマルリラを食べてみたいなと呟かれたのだ。
ドルモンドは平民がよく行くお店で貴族はあまり行かないけど、何かでお知りになって食べてみたいと思ったのだろう。
もちろん、カリム様は私に買って来て欲しいなんて言っていない。
でも、もし私がドルモンドのマルリラを買ってきてカリム様に差し上げたら?
きっと、もっと私を好きになってくれるに違いない。
それはとてもよい考えだと思った。
家のメイドに買って来てもらう?
それでは、私が買ってきたことにはならない。
一緒に買いに行ってもらう?
みんな忙しそうなのに頼めない。
私はいつも意地悪をしているから、嫌な顔をされるかもしれない。
お母様のお腹に赤ちゃんなんかいなければ一緒に行けるのに。
あ、また意地悪なことを思ってしまった。
カリム様にも私は意地悪なところがあるから気をつけようねと言われているのに、どうしても意地悪な気持ちになってしまう。
赤ちゃんが産まれるのはとても楽しみなのに……。
私がため息を吐くとコリムが肩に乗ってペロペロとほっぺを舐めてくれた。
そうだ!コリムと一緒に買いに行けばいいんだ!
もう私は6歳だし、いざとなったら魔法も使えるではないか!
「コリム、一緒に行ってくれる?」
コリムはもちろんと言うようにニャーと返事をしてくれた。
そして、私はドルモンドでキャロラインと出会った。
あの子は……変だ。
せっかく買ったマルリラを取り上げたというのにヘラヘラ笑って嫌な顔をしない。
嫌な言い方をしてしまったと思っても、あの子は全く気にしていない。
私に媚びを売る他の御令嬢とも違う。
気づいたら私はたくさんおしゃべりして、笑っていた。
そう、変な子だ。
あの怖い顔のお兄様相手に急に変な顔して、動物の鳴き真似をしたりして。
お兄様が笑っているところを私は初めて見た。
胸がホコホコして私も一緒に笑っていた。
そして、お兄様にギュッと抱きしめられて、お父様にもギュッと抱きしめられて、私を嫌っていなかった事を知ったのだった。
「ヴィゼッタ嬢と兄君は仲が良いだろう?ユーリカともっと仲良くなれるよう相談をしている」
「お兄様は私が本当に大好きね」
私は呆れたように言った。
でも、顔が緩んでしまう。
お兄様は私を抱っこして、おでこをコツンと合わせた。
「ああ、ユーリカが大好きだよ。私に何かしてほしい事はあるか?」
「お兄様、私、キャロラインと一緒にお出かけ行きたい。一緒に行ってくれる?」
「もちろん」
あ、これは……。
「キャロラインのお兄様に教わったの?」
「当たりだ」
相変わらず、眉間に皺の不機嫌な顔だが不思議ともう怖くない。
「お兄様、まずは案内するお店を調べましょう!」
「その前に一緒に出かけようと手紙を書かなくてはな」
「そうね!」
キャロラインは一緒にお出かけに行ってくれるかしら?
私はドキドキしながらお手紙を書いたのだった。
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