しおり
「お、覚えとけー!」
サントス君はマリーちゃんの手を引いて去っていった。
そんなこんなでとんだ学園見学になってしまったが、間近で本物のバラニカ魔法学園を見られて良かったとしよう。
ただ残念ながら、思ったよりも時間を食ってそろそろ家に帰らなければいけない時間になってしまった。
名残惜しいが、馬車に戻ろうとなったのだが――。
「駄目よ!まだお店を案内していないわ」
「申し訳ありませんが、時間ですし……」
「い!や!」
ユーリカちゃんが腕組みして護衛さんに怒っていた。
「ユーリカ、もう伯爵邸に送らなければならない」
「お兄様……でも」
「ユーリカ」
ソル様が不機嫌な表情で睨む。
聞き分けのない妹に怒っているように見えて、ユーリカちゃんをどう宥めようかと思っているのだろうなぁ。
ユーリカちゃんはコリムを抱きしめ顔を伏せてしまった。
「ソル様、護衛さん、私もユーリカ様とお店に行きたいです。一軒だけでも駄目ですか?」
1つだけでも一緒に行ければユーリカちゃんも納得するだろうし、何より私もせっかくなのでユーリカちゃんとお店に行きたい。
「ソル、僕からもお願いします」
「……分かった。ユーリカ、一軒だけ行ってもいい」
「本当?」
ユーリカちゃんがコリムから顔を上げると目が赤い。
泣くのを頑張ってこらえていたのだろう。
「私、わがままを言って困らせてしまった?」
ユーリカちゃんがポツリと言った。
「いいえ、嬉しいですよ。私もユーリカ様とお店に行きたいです。今日の記念にお揃いの物を買いましょう」
「お揃い?」
「はい、仲良しのお友達の証です」
「な、仲良しのお友達!?」
ユーリカちゃんの顔がブワッと赤くなった。
「しょ、しょうがないからお揃いの物を買ってもいいわ。キャロライン、だったらピチカト商会のお店に行きましょう!あそこは何でも揃っているのよ」
「はい」
私はユーリカちゃんと手を繋いでお店まで歩いて行った。
「ここがピチカト商会よ!ハウルも学園から近いから覚えておくといいわ!」
「はい。ありがとうございます」
すごく大きい訳ではないが、掃除も丁寧に行き渡り、店員さんもあのレストランと違って親切そうで、お店の雰囲気も温かみがあった。
アクセサリーや文房具、ちょっとしたクッキーやアメなどのお菓子もある。
このお店は学園の生徒が何か足りない物を買えるように商品を揃えているようだ。
「ここの商会の本店は公爵家に出入りしている」
「品揃えも良い、安心していられるお店ですね。ユーリカ様、素敵なお店を教えてくださってありがとうございます」
「別に。たまたま知っていたお店よ」
プンと横を向くユーリカちゃんだが、口元がムズムズと嬉しそうだ。
「あ、ユーリカ様。あの指輪可愛いですよ」
本物の宝石ではない魔法が込められた魔石の指輪だ。
「駄目よ!指輪のお揃いはカリム様とだけよ」
私は顔を真っ赤にして慌てるユーリカちゃんにニヨニヨした。
「ではあの小物入れはどうですか?」
小さな魔石がついた小物入れだ。
「それならいいわ」
私はユーリカちゃんの目と同じ赤い魔石の箱を開いてみた。
中から音楽が流れる。
すごい!オルゴール付きだ。
「私はこれにするわ」
そう言って手にした小物入れの魔石は私の目と同じ水色だった。
お互いの瞳の色だ!嬉しい。
「はい!じゃあ、一緒に買いに行きましょう」
「あ、お金!」
「大丈夫だ。ここは公爵家の懇意にしている店だからサインで買える」
店員に目をやり紙を受け取ると、ソル様はさらさらとサインをした。
店員さんが盗難防止の魔石を外して私とユーリカちゃんに小物入れを渡してくれた。
「あ、私の方はまだ支払ってないです」
私が急いでポシェットからお財布を出すと、店員さんはにこやかに首を横に振った。
「フィジマグ様からすでにサインをいただいております」
「先ほどお昼は奢ってもらったからな。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「でも、次回のお出かけの約束がなくなってしまったのね」
ユーリカちゃんが残念そうに呟いた。
「ユーリカ様、今度は私が奢る番ですね。またお出かけのお約束をしてくれますか?」
「キャロラインがそこまで言うなら約束してあげてもいいわ!まだ案内していないお店がたくさんあるのよ」
「はい。楽しみにしています」
今度こそ楽しかったお出かけもお終いだ。
私達は馬車に乗り込んだ。
ウメ達はくっついてぐっすり寝ている。
帰りは私の隣にユーリカちゃん、お兄様の隣にソル様だ。
「キャロ」
お兄様が私のポシェットをトントンとした。
私は頷いてしおりを出し、お兄様に渡した。
「ソル様、ユーリカ様、今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです。これはささやかですが、私達からのお礼のプレゼントです」
お兄様はソル様に、私はユーリカちゃんにしおりを渡した。
「これは……しおり?すごいな、花びらか?」
「はい。私が出した花の花びらを貼り状態維持の魔法をかけてあります」
ソル様はお兄様からしおりを受け取って、私がしたように横にしたり、上下を逆にしたり、目をすがめてしおりを見つめた。
残念ながら、何も浮かばないのだよ。
「ウメとミドラ君です」
お兄様の言葉に、いよいよしおりをぐるぐる回し始めた。
そして、一つ頷いた。
「芸術的なしおりだ。ありがとう。大切に使わせてもらう」
やっぱりそのしおりはそこに落ち着くようだ。
でも、喜んでもらえて良かった。
「コリム?」
一方ユーリカちゃんは一発で当てた。
「はい。赤いお花でコリムを描きました」
ユーリカ様はじっとそのしおりを見つめながら、ゆっくりとしおりを撫でた。
「私のために作ってくれたの?」
「はい」
どうだろう?気に入ってもらえたかな?
私はドキドキとユーリカちゃんを見た。
「……ありがとう。すごく、すごく、嬉しい」
ユーリカちゃんは噛み締めるように小さく呟いた。
ツンなユーリカちゃんの素直な心からの言葉だった。
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