再びのサントス・ナカゲズ伯爵令息
闘牛令嬢が血に濡れた顔で清々しく笑った……。
忘備録
⭐︎パスカル・リッターソン侯爵令息→筋肉をこよなく愛する攻略対象。ベラちゃんと婚約。お茶会での追いかけっこ勝負ではキャロちゃんに瞬殺。勝負後は、サントス君の巻き込み事故にあわや巻き込まれかけましたが、さっさと負けを宣言して華麗な危機回避を見せました。
顔を真っ赤にしてへたりこんでいる御令嬢方は、やっと駆けつけた警備の騎士さんや追いついた侍女の方々が回収してくれた。
どうやら、護衛さん達が学園の警備に知らせに走ってくれたようだ。
お兄様達がこんな事で婚約者を決める事はありえないと宣言したので、御令嬢方の興奮も落ち着いて速やかに帰って行った。
やっと静かになり、ユーリカちゃんが護衛さんからウメ達を受け取り抱きしめる。
そして鼻から情熱の赤を吹き出した御令嬢だが、侍女の手によってササっと血の形跡は消され、今は鼻に綿を詰められている。
幸い勢い良く吹き出したおかげでドレスは無事だったようだ。
私達はいちおうソル様が原因でもあるので、鼻血の御令嬢が落ち着くまで側で見守っていた。
「グフフ。両手に花で幸せですわ〜」
もう、元気そうだし行っても良いかな?
「おい、遅いぞ。マリーはいたのか?」
その偉そうな声に振り返ると、御令嬢にそっくりな団子鼻にずんぐりした体格のオレンジの髪の御令息が立っていた。
私の足に体を擦り寄せたサントス2号がブニャーと鳴く。
って、パスカル君と組み追いかけっこ勝負でベラちゃんに踏んづけられて負けた、ベラちゃんの従兄弟のサントス君ではないか!?
並べてみれば、間違いなく鼻血の御令嬢とサントス君は兄妹と分かるそっくり具合だ。
「坊ちゃま、申し訳ございません。マリアンヌ様が鼻血を出してしまわれまして」
「何!?美しいマリーの鼻から血が出たのか!?何があった!?」
「お兄様、もう大丈夫ですわ。ちょっとお花畑が見えただけですわ」
それはあかんやつでは?
私はそっとサントス2号から離れる。
ごめんね、どうもサントス2号は苦手なのだよ。
「お前達のせいか!?」
ブンと怒りの表情を浮かべて私達見たサントス君は私と目が合うとポカンとした。
「何でキャロラインがここにいるんだ?」
許可なく名前を呼んだら駄目だよと教えてあげたのに、もう忘れてしまったようだ。
もうすぐ入学なのだから、再度教えてあげよう。
ベラちゃんの従兄弟だしね。
「ご機嫌よう。ナカゲズ様。許しもなく名前を呼ぶ事はいけませんよ?」
「自分の婚約者を名前で呼んで何が悪い?」
は?婚約者?
「キャロラインの婚約者なの?」
「いえいえ、違います」
びっくりした顔のユーリカちゃんに、私は即否定する。
「お初にお目にかかります。私はキャロラインの兄、ハウル・ヴィゼッタ伯爵令息です。あなたは?」
お兄様がスッと私の前に立つ。
「俺はサントス・ナカゲズ伯爵令息だ」
「ナカゲズ様、あの勝負で負けたのですから婚約は諦める約束ですよね?」
「勝負?キャロ、勝負ってどういう事かな?」
あ、しまった。
心配されると思って黙っていたのがばれてしまった。
お兄様が逃がさないよとばかりにポンと肩に手を置いた。
「お、お兄様?今それどころじゃ」
「キャロ?」
肩に置かれたお兄様の手に力がこもり、笑顔が深まる。
やばい、お兄様が怒ってる。
「ごめんなさい!ちゃんとお家に帰ったら説明するから!お兄様、怒らないで?ね?」
「分かった。ちゃんと説明してね?」
ヒィ!お兄様は普段滅多に怒らないから怒らせると怖いのだ。
「ひゃい!」
私はピッと気をつけの姿勢で返事をした。
そうだ、婚約者の件を問い詰めなくては。
私は現実逃避してサントス君を睨んだ。
そもそもこいつさえ約束を守ってくれれば、ばれなかったのだ。
「ナカゲズ様は約束を破ると言うことですか?」
「いや、ちゃんと守ってあの日は諦めただろう?だからこれから釣書きを送るんだ」
これから釣書き!?そんな屁理屈ふざけるなー!
「ナカゲズ様、約束を破られるのですね?なるほど、分かりました。では、リッターソン様に苦情を入れます」
「は!?リッターソン様は関係ないだろう!?」
「チームではありませんか。連帯責任ですよ?」
「よし、ではこうしよう。お前の大好きな勝負で決めよう」
大好きな勝負って私が勝負好きみたいじゃないか。心外だ。
あの時の勝負はベラちゃんがいたから勝てた鬼ごっこだ。
私だけでは、良くて引き分けがやっとだ。
お兄様も風魔法を使ったサントス君には対抗できないだろう。
だからと言って、他の勝負と言っても、剣の試合も無理だし。
どうしたものか……。
「その勝負、私が受けよう」
そんな私を庇うように、ソル様がスッと一歩前に出た。
「誰だ?お前は?」
「ソルフォード・フィジマグ公爵令息だ」
「こ、公爵!?」
「私が相手では不服か?」
ソル様がひんやりとサントス君を睨む。
「お兄様!受けてくださいませ!間近で勇姿が見たいですわ!グフフ」
鼻息も荒くマリーちゃんがグイグイ前に出る。
鼻に詰めた綿がフンと飛んだが、どうやら鼻血は止まっているようだ。
「マリー、そんなに俺の勇姿が見たいのか?よし、いいだろう。公爵令息が相手とて勝負は勝負!全力でいくぞ」
マリーちゃんがお兄様の勇姿?と小さく呟いて、コテンと首を傾げた。
彼女が見たいのはソル様の勇姿だろうね。
「君を倒せばいいのか?」
サントス君は必死にブンブンと首を横に振る。
「勝負は追いかけっこだ」
「追いかけっこ?」
「そうだ。俺がお前を捕まえられたら俺の勝ち、お前が俺に捕まらなければ俺の勝ちだ。時間は無制限だ。どうだ?」
どうやらサントス君は前回は逃げる方で負けたから、今回は捕まえる方を選んだようだ。
しかも時間無制限、パクリだ。
でもそれは私が相手だったら有効だったけど、ソル様が相手だとね〜。
「いくぞ、よーいドン。ギャー!」
はい。見事な瞬殺でした。
卑怯にも自ら始めの合図をソル様の至近距離で言ったサントス君は、首から下が氷漬けだ。
風魔法を使う余裕もなかった。
もう一度言おう、瞬殺だ。
ソル様がその不機嫌な顔に威圧感を増して近づく。
「ヒィー!」
「で?降参か?」
「は、はい!降参する!降参するから氷を消してくれー!」
「キャロと婚約する事は未来永劫諦めると誓うか?」
「誓う!誓うから!早く!冷たい!痛いー!」
サントス君を拘束していた氷がソル様が手をかざすと消えた。
「お、覚えとけー!」
サントス君はマリーちゃんの手を引いて去っていった。
「お待ちをー」
その後をサントス2号を抱いた侍女さんが追いかける。
相変わらずの速やかな撤収だった。
「ソル様、ありがとうございました。助かりました」
よし、これで一件落着だ。
「キャロ?家に帰ったら、ね?」
お兄様がキラキラした笑顔で言った。
ヒィー!
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お家に帰ってハウル君にこんこんとお説教をされたキャロちゃんでした……。