たまたま天使のお隣に座った私の独白
お茶会でキャロラインの隣の席に座った、チラッと出ただけの御令嬢視点のお話です。
私はワサラー・トイコット伯爵令嬢。
伯爵の中では、まあまあ真ん中辺な伯爵家のお家の子だ。
今日はイザベラ・マルケット伯爵令嬢主催のお茶会にお呼ばれだ。
正直、あまり気乗りしない……。
マルケット伯爵家は領地に海もあり他国と貿易も盛んな、伯爵の中でも一番上の伯爵家だ。
一人娘のイザベラ様とは年も近く、母親同士がまあまあ仲が良いため何度か一緒に遊んだことがあるのだがあまり好きではなかった。
彼女は常にマウントを取ってくるのだ。
今日のお茶会でも何を言われるのか、他の人が言われる姿を見るのもいい気持ちはしない。
私はお茶会の席に座って、分からないようにため息をついた。
その時、お茶会の場がザワリとした。
見ると、天使がいた。
あれ?間違って下界に降りてきちゃった天使かな?
シャオラの花の色のフワフワ柔らかそうな艶やかな髪、長いまつ毛に澄んだ湖のような大きな瞳、優しげに微笑みを浮かべる唇……。
「キャロライン様、ようこそいらっしゃいましたわ」
イザベラ様がにこやかに天使を迎えた。
いやいや、天使って私しっかり!お茶会に招待された貴族令嬢でしょうが!ああ、でも天使……。
いつものイザベラ様ならこんな可愛い御令嬢を前にしたら早々にマウントを取って沈めてくる。
大丈夫だろうか……。
「イザベラ様、今日はお招きありがとうございます」
挨拶と共に天使がカーテシーをとる。
お手本のように綺麗なカーテシーに周りからため息が漏れる。
そして、足元には何故か子ブタが?
いや、よく見るとただブタではないすんごい高貴なオーラを感じる。
きっと天使の神使だね。
なぜかすんなり納得した。
「フィリン様、天使と神使が降臨ですね」
「うんうん、ワサラー様。眼福ですね。あ!」
仲良くなった隣の席のフィリン様とこそこそ話していると、突然フィリン様があ!で固まった。
わ、わ、わ、私の隣の席に天使が降臨なさった!?
「ご機嫌よう。私はキャロライン・ヴィゼッタ伯爵令嬢です。この子はペットのウメです」
天使がフンワリと微笑みを浮かべ小首を傾げて私を見つめた。可愛い!(お兄様直伝)
すごい、肌が内側から輝くように白い。(ライラの腕)
天上の鈴の音のように清らかな声。(ただ声が緊張で震えただけ)
いい匂い。(気のせい)
やばい!鼻血吹きそう。
「ご、ご機嫌よう。私はワサラー・トイコット伯爵令嬢です……」
くぅ、この至近距離で天使と目を合わせるのはもう限界だ。
輝きで目が眩む!
私はサッと目を逸らした。
でも、こんな天使な女の子滅多に見られない。
私はチラチラとバレないように見た。
はぁ、眼福〜!
見ると、みんな私と同じようにチラ見していた。
みんな気持ちは同じだ。
見たいよね!
天使はそんな周りの視線も気にせず、美しい所作で紅茶を飲みお菓子を摘む。
私は紅茶のカップになりたい……。
その時、事件が起きた。
このテーブルの担当のメイドさんもうっとり天使を見つめていた一人だ。
ふと、天使がそのメイドさんに目をやったのだ。
流し目だ!そこはかとなく色っぽい!
あ、違う。マロリラのケーキを取っての目配せか。
でもメイドさん、思い切りその流し目に撃ち抜かれたようだ。
プルプルと手が震えている。
大丈夫か?いや、分かる!駄目だよね?
案の定お皿にケーキを倒した……。
うわぁ、これはありえない失態だ。
テーブルのみんなが思わず倒れたマロリラのケーキを見つめた。
「も、申し訳ございません。今、代わりのケーキをお持ちいたします」
もはや、海より青い顔色のメイドさんが涙目で言った。
ケーキを手にしてなかったら、きっと土下座していそうだ。
「大丈夫ですわ。私のペットがぶつかってしまったせいでケーキが倒れてしまったのですから、このままいただきますわ」
明らかにメイドさんの失態なのに、ご自分の神使のせいにして庇うなんて。
尊い!
天使は倒れたケーキを気にしていないと見せるようにきれいに食べ、周りを安心させるように愛らしい笑みを浮かべた。
……拝んでも良いでしょうか?
みんながその尊さに打ちひしがれている時、イザベラ様が私達のテーブル回ってきた。
「キャロライン様、シャオラのお花はご覧になったことはございます?キャロライン様の髪と同じ淡いピンクの可愛らしいお花ですのよ」
気のせいか、イザベラ様の雰囲気が変わられた?
お二人は親しいご友人同士に見えた。
みなさまもご一緒にと視線を向けられたが、私達はブンブンと首を横に振った。
美しいシャオラと天使をセットで見たら、神々しさに倒れてしまうでしょう。
天使のように清らかで美しいキャロライン・ヴィゼッタ伯爵令嬢……きっとこのお茶会の後は縁談の申し込みで大変なことになるでしょう。
――――と、思ったがその数十分後に天使は崩れ去る。
あれ?ガッハッハッと笑った?え?語尾にピョン?最後ウサ耳を手で作ってジャンプ?あれれれ?
みんなの視線が残念なものに変わるのだった……。
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