あ゛!?
パスカル!私と勝負です!
さすがのパスカル君も面食らった顔で目をパチクリさせて私を見た。
「キャ、キャロちゃん!?駄目ですわ、私は大丈夫ですからお止めになってくださいませ」
ベラちゃんはびっくりした拍子に涙が止まったようだ。
「女に二言はないわ!」
思い切り二言目だったりするが。
「イザベラ、面白そうな事になってるじゃないか」
オレンジ色の髪にソバカスに団子鼻のずんぐりとした体格の男の子が口をさはんできた。
足元でお腹が地面につきそうなぶさかわのかわがない猫?がナ゛〜と鳴いた。
気づいたら私の大声にお茶会に来ていた子達が集まっていた。
「サントスお兄様」
髪の色はベラちゃんと同じだが何ともニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた男の子だ。
お兄様?あれ?でもベラちゃんはひとりっ子じゃなかったっけ?
「俺はイザベラの従兄弟のサントス・ナカゲズ伯爵令息だ」
「私の母方の従兄弟で10歳、あと足元のペットはサントス2号、あれでも猫ですわ」
ベラちゃんが小さな声で補足する。
お兄様と同じ年か。
そしてそのネーミングセンス……、いや、合っているか。
「私はキャロライン・ヴィゼッタ伯爵令嬢です」
今度はお兄様直伝の方のご挨拶ができた。
サントス君の鼻の下が伸びる。
「勝負をするなら俺も加わろう。キャロライン、いいな?」
あれ?私の事名前呼び?
ああ、まだよく貴族のお約束を知らないのかも。
このまま学園に入学したら恥をかいてしまって大変だ。
「ナカゲズ様、まだご存知ないのかもしれませんが許しもなく名前を軽々しく呼んではいけませんよ」
大丈夫、無知は恥ではないよと私はニッコリ微笑んで教えた。
サントス君の顔が真っ赤になり怒った顔になる。
「女のくせに生意気な。末端貧乏田舎伯爵の娘のくせに」
あ゛!?
と、いけない、いけない。
これ以上喧嘩を売っては駄目よ、キャロ!
しかし、私の隣から「あ゛!?」と切れた声がした。
あれ?私、声に出てた?
「サントスお兄様、私も勝負に加わりますわ。負けたら土下座してキャロちゃんに謝ってくださいませ」
隣のベラちゃんの顔が夜叉になっていた。
「私は勝負を受けるとは」
「お前、女にここまで言われて逃げるのかよ」
お前って侯爵令息相手に大丈夫か?
集まった子達もハラハラとした顔をして成り行きを見ている。
「分かりました。勝負を受けましょう。私達が勝ったらマルケット嬢は私と婚約を結ぶ、負けたらナカゲズ伯爵令息は土下座して謝る、私はマルケット嬢との婚約を諦めるで良いですか?」
「いや、それだけじゃ駄目だ。俺達が勝ったらキャロラインは俺の婚約者になるんだ」
「は?」
と、私が言う前に周りから大きなブーイングが上がった。
おおう、びっくりした。
え?私と婚約したいと?
足にサントス2号が体を擦り寄せる。
私はサントス2号からそっと距離を取る。
おかしい、猫は好きなのだが体に拒否反応が。
ニヤニヤ笑いのサントス君とサントス2号を見て、申し訳ないがごめんなさいと思った。
「どうだ?この条件じゃなければ勝負はできないぞ」
「分かりました。その条件でいいです」
サントス君はグフグフ笑って私を上から下まで舐めるように見た。
ねえサントス君、本当に10歳かい?
「その代わり勝負の内容は私達が決めます。ナカゲズ様は年上なのでそれくらいのハンデはください」
「いいだろう」
「キャロちゃん、何の勝負にしますか?」
うーん、まず頭を使った勝負は間違いなくパスカル君には勝てない。
彼はとんでもなく頭が良い。
そして私達より体が大きなサントス君を考えると力勝負は避けるべきだろう。
「ベラちゃん、足は速い?」
「足?そうですわね、普通だと思いますが風魔法で速くできますわ」
「よし、では勝負は鬼ごっこでお願いします」
「「「オニ?」」」
みんな首を傾げる。
あ、この世界に鬼はいないのか。
「間違えました。追いかけっこでお願いします。片方が追いかけて片方は逃げる勝負です」
パスカル君がふむ、と頷いた。
「要するに追うチームは捕まえたら勝ち、逃げるチームは逃げきれたら勝ちと言う事ですね」
「そうです。追いかけるチームが逃げるチームの体にタッチしたら捕まえたことにします。私達が追いかけるチームでリッターソン様達は逃げるチームです。時間は無制限でどうでしょう?それとも女の体力より自信がないですか?」
「いや、時間制限を」
「何を!?女のくせに生意気な!もちろんそれでいい」
パスカル君を遮って、女のくせにと言うサントス君はまんまと策に乗ってくれた。
これで私達が負ける事は無くなった。
私達が2人を捕まえるまで勝負は続行なのだ。
ハッハッハッ!
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