ベラちゃんのお茶会
私はものすごい衝撃の中、キラキラした家族を見送ったのだった……。
家族のキラキラの姿にびっくりした王城の夜会の夜から数日後、とうとうベラちゃんのお茶会の日だ。
今度は私がおめかしだ。
お母様の準備もした美容担当の侍女のライラが私の髪を優しく撫でる。
ライラは侍女頭のミューレの娘だそうだ。
バツイチの30歳らしいが、どう見ても20歳にしか見えない。
黄緑色の髪はシンプルに結い上げ、長いまつ毛に覆われた榛色の瞳に口元のほくろが絶妙に色っぽい侍女だ。
「キャロライン様の天使っぷりを前面に押し出しましょうね」
ペロリと舌なめずりするのがちょっと怖い。
ライラが香油を髪につけとかしていくと、普段は猫っ毛のせいで絡まってダマがあったり、くすんでいた髪が艶々と輝き、薄いピンクが鮮やかになっていく。
サイドを編み込み後ろはフワフワとおろした。
すごい!髪の手触りが違う。指通り滑らかだ。
ドレスはお母様が小さい頃着ていたドレスをリメイクしてもらった、ラベンダー色で裾にフリフリが付いている可愛らしいドレスだ。
首元のネックレスはいつ何時何があるか分からないから、肌身離さずつけているウメにもらった豚の手形の魔法アイテムだ。
形は微妙だが、色合いが桜貝のようで可愛いから良しとしよう。
初めて薄っすらとお化粧もしてもらった。
ライラの鼻息が荒いのがちょっと気になる。
眉を整え目元にラインを引き、まぶたに薄っすらとパープル系の色をのせ、まつ毛にマスカラをつけると目がいつもよりパッチリしている。
まつ毛がくるんと上を向き、バサバサと音が出そうだ。
まつ毛はこんなに生えていたんだね。
口紅は自然なチェリーピンクでつけてもらうと顔の印象がパッと華やかになった。
お化粧しているのにお化粧が浮いていないナチュラルな仕上がりで、さすがプロの仕事だ。
「ライラ、ありがとう」
私はお兄様直伝のフンワリ微笑みを浮かべてライラにお礼を言った。
「グフッ。ちょっと失礼いたします」
ライラは鼻を押さえて部屋から出て行った。
何か急用を思い出したのかな?
「キャロ、すっごく可愛い!本物の天使だね!」
王城の夜会とは逆で、準備する私の脇でウメをブラッシングしていたお兄様が弾んだ声で言った。
うん、確かに可愛い。天使は褒めすぎだが普段の倍は可愛い気がする。
残念ながら、中身は私だがフワまもで頑張るぞー!オー!
と、思っていた時もありましたとさ……。
ベラちゃんのお茶会は思った以上に規模が大きかった。
男女合わせて20人ほどの煌びやかな子供達がいた。
ベラちゃんと同じ年くらいの子達が多いのでペット連れは半分より少ないくらいだろうか。
一応、ペットを飼う義務は10歳からだからね。
それでも、肩に小鳥を乗せたり、足元に犬や猫、あとウサギもいたりしてほっこりした。
私が案内されて茶会室に入るとみんなの視線がものすごい勢いで集まった。
やっぱり子ブタがペットは珍しいからね。
思えば、お茶会なんて初めて、家族から離れるのも初めて、ベラちゃんしか知り合いがいない。
私はほっこりしたのも束の間、思い切り緊張した。
フワまも?そんな余裕は全くない。
私はひたすら微笑みを浮かべるのが精一杯だ。
「キャロライン様、ようこそいらっしゃいましたわ」
私に気づいたベラちゃんが出迎えてくれた。
オレンジ色の髪のツインテールを赤いロージアの花で飾り、ドレスは黄色で胸元の小さいけど輝きの美しいエメラルドのネックレスがさりげなくも豪華だ。
「イザベラ様、今日はお招きありがとうございます」
挨拶と共に互いにカーテシーをとる。
お茶会の招待状が届いてからみっちりお母様に仕込まれた。
この緊張の中、噛まずに言えたのは奇跡だろう。
私の一挙一動を見つめる視線が痛い。
だからウメ、貴族に子ブタのペットはないって言ったじゃないか。
足元のウメはいつもに増して高貴なオーラを振りまいている。
私が座るテーブルには、もう3人の令嬢と2人の令息が席についていて、すでにお友達な雰囲気で談笑していた。
この席は私と同じくらいの年の子で、まだペットはいないようだ。
「ご機嫌よう。私はキャロライン・ヴィゼッタ伯爵令嬢です。この子はペットのウメです」
私はお兄様直伝の微笑みを浮かべ小首を傾げた。
今の私はこれが精一杯だ。
「ご、ご機嫌よう。私はワサラー・トイコット伯爵令嬢です……」
私の隣の席のご令嬢が挨拶をしてくれたが、気まずい沈黙が流れた後スッと目を逸らされた。
会話が続かない。入れない。ぼっちだ。
みんなチラチラとこちらは見るのだが、目を合わせてくれない。
私はひたすら微笑みを浮かべて、お母様に仕込まれた作法で紅茶を飲みお菓子を摘んだ。
緊張で全く味が分からない。
きっと高級な茶葉にお菓子だろうに何てもったいない。
ふと目を上げた瞬間、ケーキスタンドのマロリラのケーキに気づいた。
あ、絶対美味しいやつだ。
私はこのテーブルの担当のメイドさんにそっと目配せをしてマロリラのケーキを取ってもらった。
まだ年若いメイドさん、プルプルと震えているから大丈夫か?と思ったら、案の定お皿にケーキを倒した。
テーブルに座っているみんなが、あっという顔をしてケーキを見つめる。
「も、申し訳ございません。今、代わりのケーキをお持ちいたします」
いや、でもマロリラのケーキはそれしかない。
お願い、持って行かないで。
縦が横になっても味は変わらないではないか。
どうにか食べたい。
「大丈夫ですわ。私のペットがぶつかってしまったせいでケーキが倒れてしまったのですから、このままいただきますわ」
『我は何もしてはおらぬが。まあ、人助けは女神様も喜ばれる』
プヒッと鳴き、ウメがチロッと私を見てまたおとなしく丸くなった。
メイドさんが涙目で小さく私にお礼を言ってマロリラケーキを渡してくれた。
よし、ゲットだ。
私はお作法を守りつつペロリと食べた。
はぁ、やっぱり美味〜!思った通り、いや期待以上だ。
思わず素の笑みが溢れてしまった。
やっと自分より緊張していたメイドさんとマロリラのおかげで緊張もほぐれてきた。
これならフワまももいけそうだ。
ちょうど緊張もほぐれたところで、ベラちゃんが私達のテーブルに回って来た。
一人ひとりに話しかけ会話を回していく。
「キャロライン様、シャオラのお花はご覧になったことはございます?キャロライン様の髪と同じ淡いピンクの可愛らしいお花ですのよ」
「まあ、ぜひ見てみたいです」
見ると他のテーブルもペットを連れて広い芝生のペット広場に移動し、ペットを走らせたり見せ合ったりしている。
この世界のお茶会はある程度食べたら、ペット広場でペットを交えての社交タイムだ。
私はウメを抱き上げベラちゃんに続いた。
「ベラちゃん、緊張して誰ともしゃべれなかったよ」
「キャロちゃん、緊張してましたの?」
ベラちゃんが驚いた顔で言った。
「初めてのお茶会ですごい緊張してたよ。ベラちゃんは堂々としてすごいね」
「私も主催は初めてなのでちょっと緊張しましたわ」
『おお!これは何と愛らしいピンクの花であるか!』
たくさんのシャオラの花が一面に咲く一画に着きウメが私の腕から飛び降りた。
水仙の花の部分が八重桜のような淡いピンクのお花だ。
懐かしい前世の八重桜が地面に咲いているようだ。
「これがシャオラのお花?とても綺麗だね」
「キャロちゃんの髪の色とよく似てますわ」
ニッコリ笑ったベラちゃんだったが少し元気がないような気がした。
「ベラちゃん、ちょっと元気ない?疲れちゃった?」
「キャロちゃん……。実は私、今日のお茶会はお見合いも兼ねてますの」
お見合い!?
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