社交シーズン
あたし達はお嬢の信頼に応えて、ヴィゼッタ領にソロバンで商会を立ち上げてみせる!
忘備録
⭐︎ベラちゃん→イザベラ・マルケッタ伯爵令嬢(女神様の祝福の儀でキャロにマウントを取ろうとして、フワまもに巻き込まれた気の毒なお嬢様)
5人には社交シーズン明けの芽吹きの2の月から、2週間に1回のペースで伯爵家に来てもらう事にした。
それまでは、各自おうちでソロバンの練習をするように、私が作ったソロバン検定3級程度の足し算引き算の練習問題を宿題として渡しておいた。
そのうち掛け算と割り算も教えたい。
そしてソロバンだが、残念ながら子供の手では一つ作るのが精一杯だったので見本として渡して、申し訳ないが、ソロバンは任せるよ〜と丸投げさせてもらうことにした。
「お嬢の信頼に応えられるよう頑張るでさぁ!」
みんな力強く頷いてくれてありがたい。
そして王家と何があったのかだが……結局、お父様からは10歳になったらねと教えてもらえなかった。
まあ、王家絡みの事を6歳の子供においそれと言えないだろう。
気になって仕方がないが10歳までおあずけだ。
芽吹きの1の月は社交シーズンだ。
王城の夜会から始まり、貴族家の開く夜会やお茶会などの社交が芽吹きの1の月の間中続く。
王城の夜会は当主夫妻はもちろん、学園に通い出す10歳以上の子供達も出席する事になる。
なので、お兄様は今年から参加だ。
夜会は10歳以上、お茶会は年齢制限なしだが暗黙の了解でマナーが身に付いた6歳位からオッケーな感じだ。
今まではお父様達が社交でいない間は、お祖父様とお祖母様がうちに来てくれてお兄様と4人で過ごしていたが、今年はお兄様も王都に行かなくてはならない。
私だけお祖父様達とお留守番かと思っていたら、何と!私にもお茶会の招待状が届いたのだ。
ベラちゃんちだ。
お手紙で会いたいね〜とお互い書いていたら、お茶会で会える事になったのだ。
こちらはベラちゃんが主催のお茶会で、私だけ参加するのでドキドキだ。
とっても楽しみだ!
*****
そして、やって来ました!王都!
女神様の祝福の儀の時は日帰りだったが、今回は社交シーズンひと月王都にいるようなのでヴィゼッタ家の王都の屋敷に滞在する。
さすがにこのひと月は執事と侍女とメイドと料理人、あと下働きを雇う。
王都の屋敷は大きいし、お化粧やドレスを着るのに侍女がいないと無理だからね。
そして、このお屋敷。
貧乏田舎伯爵家のお屋敷にしては、なかなか立派だったりする。
元々うちは一大農家だから貧乏になる前はお金持ちだったらしい。
貧乏になった後も、手狭なお屋敷に引っ越すより昔からあるお屋敷をそのまま使った方が安く済むようで、貧乏伯爵家にはもったいないくらい立派なお屋敷を残していた。
普段は状態維持の魔法で無人の屋敷だ。
この状態維持の魔法は登録した者しか扉を開けられず、そして扉を開けると消えてしまうので、芽吹きの社交シーズンしか中に入れなかったりする。
便利だけどちょっと不便だ。
状態維持の魔道具を発動させる魔石は高いからね。
お屋敷の一階には夜会が開ける広いホールや社交室などなど、2階にはゲストルームがあり、3階に広々としたプライベートルームが並ぶ。
お父様とお母様は夫婦のお部屋、私とお兄様はそれぞれ一部屋ずつ入った。
私の部屋は、壁紙がお花柄の可愛らしいお部屋だ。
部屋も広いがベッドもキングサイズで大きくて、なかなか落ち着かない。
ベッドの真ん中で寝れば良いのに、ついついはじっこで寝てしまった。
日中は誰かしらの部屋にみんなで集まっている。
いつも家族で分担している家事もここではない。
これが、本当の貴族の生活なんだね……。
今夜は、お父様達は王城の夜会だ。
朝から忙しそうに準備するお兄様の脇で私はレトとゴルとミドラ君のおめかしのお手伝いをしている。
レトとゴルを丁寧にブラッシングするとモフモフの白い毛が艶々だ。
この世界、夜会やお茶会にペットを連れて行くのは常識で会話のきっかけや話題にもしやすい。
「よし、ゴルとレトできた。ミューレ、どう?」
「キャロライン様、素晴らしいですね。ミドラ様もお願いできますか?」
「はーい」
ミューレは侍女頭でお祖父様の代から勤めてくれていたピンシャンしているおばあちゃまだ。
今はもう引退しているが、毎年社交シーズンのひと月はヴィゼッタ家に戻ってくれるのだ。
他の執事や侍女、メイドや料理人、下働き達も引退したりお祖父様のお友達の貴族家で勤めたりしているが、同じようにこの時だけ戻って来てくれている。
お屋敷に初めて来た私とお兄様を見て、みんなそれはそれは喜んでくれた。
私はミドラ君の首に赤いリボンを結ぶ。
『我はピンクのリボンが良いぞ』
「ウメはお留守番でしょ。もう、しょうがないなぁ」
私はウメにもリボンを結んで産毛だけどブラッシングをした。
うん、ウメも可愛い。
「お兄様、見て。ミドラ君もウメも素敵になったよ」
髪をセットしているお兄様が振り向く。
「うん、ミドラ君もウメも素敵だね。キャロ、リボンをありがとう」
満足そうに微笑むお兄様……天使だ。ここに天使がいる。
いつもは無造作に束ねたり、おろしている髪をセットしてお肌も磨きをかけたお兄様は宗教画に出て来そうなキラキラ天使になっていた。
「お兄様、天使みたい。とっても綺麗」
「ありがとう。でも、天使はキャロの方だよ」
「お二人とも天使みたいですよ。本当にお可愛らしいです」
ミューレがニコニコ言った。
「ミューレ様、旦那様と奥様のお支度が整いました」
侍女と共に現れたお父様とお母様に目がまん丸になった。
お父様はいつもは下ろしている長めの前髪を後ろに流し、柔らかな萌葱色の瞳の甘やかなイケメンになっていた。お母様の瞳の色の薄い水色のフロックコートをすっと着こなし、そのスタイルの良さが際立っている。
そして、お母様……泉から出てきた女神様?
淡いピンクの髪は複雑に編み込み結い上げられ、アクアマリンの大きな瞳、すっと通った鼻筋に優しく微笑みを浮かべる紅い唇。ドレスはお父様の瞳の色の萌葱色のシンプルなデザインだけど、ほっそい腰に品よく開いた胸元の魅惑の真白い谷間……。
すっごい美人がいた!
え?ちゃんとすると、うちの家族ってこんなに美しかったの!?
私はものすごい衝撃の中、キラキラした家族を見送ったのだった……。
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。