無駄に綺麗で高貴な子ブタ
ここは乙女ゲームの世界じゃない?
多分ここは乙女ゲーム "瑠璃色ファンタジア〜モフモフに囲まれて〜" の世界だ!
"瑠璃色ファンタジア〜モフモフに囲まれて〜"は、スタッフがちょっと冒険してみた?って感じの乙女ゲームだった。
舞台はバラニカ魔法学園の高等部。
攻略対象は品行方正で優しい王子カリム、宰相の息子の脳筋パスカル、悪役令嬢の兄、絶対零度の氷の騎士ソルフォード、お色気満載な留学中の年下王子ピグリス、純真無垢な保健医シアンだったか?
そう、カリム以外のキャラ設定がちょっとずれているのだ。
物語はバラニカ学園に聖女に選ばれた平民のルリが入学するところからスタートする。
そこで、ペットのモフモフ達を絡めながら様々なイベントをこなし愛を育んでいくのだ。
私もネタでやってみたが、やっぱり王道が一番と納得して押入れの奥にしまった微妙な乙女ゲームだった。
唯一モフモフ達が癒しだったかな……。
ここはその乙女ゲームの舞台となる国の名と同じ、バラニカ王国なのだ。
しかも、この国の特徴である生類憐みの令。
この国では、10歳以上の貴族はペットを飼う事が義務付けられている。
命の尊さを知りましょうって何代か前の王様が言ったらしい。
それも同じなのだ!
間違いない!
ここは乙女ゲームの世界だ!
そして私、キャロライン・ヴィゼッタは間違いなくヒロインでも悪役令嬢でもない。
モブだ。
ああ、良かった。
この先も関わらないでモブに徹していれば安心だ。
「キャロ、ボーッとしてるけど本当に大丈夫かい?」
「大丈夫、まだちょっと眠いだけ」
「あれ?その子ブタは?」
え?子ブタ?
私のすぐ隣にまん丸フォルムの小型犬くらいの子ブタがいた。
艶々の薄ピンクの肌に蒼いクリクリお目々で可愛らしい。
というか無駄に高貴な感じ?
「可愛い!」
私は思わずその子ブタを抱きしめた。
ふんわり温かく、薄っすら生えてる白い産毛が柔らかい。
「夕飯のおかずにどうかな?」
「えー!こんなに可愛いのに食べちゃうの?」
「でも、丸焼きにしてもスープにしても美味しいよ?」
確かに……。甲乙付け難く美味しそうだ。
貴重なお肉。
しかも、この子ブタさんのお肉は柔らかそうで美味しそう。
それとも、もう少し大きく育ててから?
『無礼者!食べるな!』
うん?何か声が聞こえた?
「お兄様、何か言った?」
「その子ブタがピギピギ鳴いてる声しか聞こえないよ」
『いつまで我に抱きついているのだ!この無礼者め!』
へ?
私は子ブタを目の高さまで持ち上げる。
『聞こえぬのか!?この無礼者め!』
え?この世界の子ブタってしゃべるの?
「お兄様、子ブタってしゃべる?」
お兄様が私を目でニコニコと愛でる。
「キャロは天使みたいに可愛いから子ブタさんともお話しできるかもしれないね」
うん。やっぱり子ブタはしゃべらないね。
この無礼者ー、無礼者ー、言ってるのは幻聴だね。
私はそっとその子ブタを地面に下ろした。
「子ブタは可哀想だから逃がしてあげるね。お兄様、もう疲れた。お家帰りたい」
「うん、抱っこしようか?」
「大丈夫。歩ける」
何となく嫌な予感のする子ブタは森にお帰り〜。
私はお兄様と手を繋いで帰ることにした。
さ、私は子ブタの声なんか聞こえない。
気のせい、気のせい。
さっさと帰ろう。
『待て、待て、置いていくでない。この無礼者め!』
「キャロ、子ブタがついてくるよ。キャロが好きなのかもしれないね」
「キャロは犬の方が好きー。ペットはお父さま達と同じ犬にするの」
「トカゲも可愛いよ?」
お兄様のペットは森で見つけトカゲのミドラ君だ。
お兄様曰く、チロチロと長い舌と鮮やかな緑色の美男子トカゲらしい。
手乗りサイズで可愛いミドラ君だ。
貴族の義務のペットだが、爬虫類はほんの一部の貴族に人気みたいだ。
『我を置いて行ったら後悔するぞ!この世界が滅んでも知らぬぞー!』
ん?今何か聞き捨てならない事を聞いたような?
「お兄様、やっぱり子ブタさん連れて帰る」
「もしかしてペットにするのかい?」
私はブンブンと首を横に振った。
いや、貴族のペットで子ブタって聞いた事ない。
なるべく目立たないモブでいきたい。
そんな事で注目されたくない。
「ちょっと気になるから連れて帰るの」
「そうか、キャロは天使だから子ブタさんとおしゃべりするんだね」
お兄様の言葉がいまいちよく分からなかったが、私はとりあえず頷いておいた。
もう一話投稿します。