「チェリーブロッサム!」
嘔吐する場面があります。
大分オブラートに包んだ表現にしたつもりですが、苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
準備して騎士見習いの訓練に参加だ。
私はお兄様の着なくなったシャツとズボンを着て髪をポニーテールに縛った。
お兄様もよそ行きの良い服からいつも着ている動きやすい服に着替え髪を一つに縛る。
『我も暇だから見に行くかの』
頭にミドラ君を乗せたウメが言った。
「ウロウロして食べられないようにしてくださいね」
訓練場に着くと、もうすでに50人くらいの騎士習いの男の子達がいた。
その服装から貴族令息に平民も混じっているようだ。
彼らは苛立つ目、馬鹿にしている目をしていて明らかに歓迎されていない雰囲気だ。
真剣に騎士を目指している彼らにとって、明らかに騎士に向かない私達は目障りなのかもしれない。
まあ、そんなのは関係ないが。
私はとにかく魔力の器さえ大きくしていければ良いのだ。
「ごめんね?みんな真剣だから空気が悪いよね」
チャラいイリアス様が声をかけてきた。
新入りの私達に気遣ってくれるようだ。
「いえ、さすが騎士を目指している方々ですね。きっと素晴らしい騎士になるでしょう」
お兄様が答えると、なぜかイリアス様が顔を引き攣らせた。
ああ、チャラいから素晴らしい騎士は無理とか思ったのかな?
「イリアス様も素晴らしい騎士にきっとなれますわ」
私が一応フォローを入れると、イリアス様は一層顔を引き攣らせた。
「あ、あのヴィゼッタ様、頑張ってください」
ティアラミスちゃんがおずおずと言った。
その控えめさが何とも可愛い。
ティアラミスちゃんは木陰のベンチでウメ達と見学だ。
「ありがとうございます。私の事はキャロとお呼びください」
ぜひ、仲良くしたい。
「はい。キャロ様。で、では私の事もティアラと」
「はい、ティアラ様」
「じゃあ私の事はイリアスと。ね?キャロ」
さすがのチャラさだ。
「はい。イリアス様」
「イリアスで良いよ」
えー、そんな親しげな呼び方はちょっと……。
「イリアス、では私の事もハウルとお呼びください」
代わりにお兄様が答えた。
あ、お兄様と仲良くしたかったのか。
いや、チャラいくせに直接本人にイリアスって呼んでって言えないなんて意外だ。
ちゃんと気づくなんてさすがお兄様。
「整列!」
いよいよ、始まるようだ。
ティアラちゃんは木陰のベンチに座り、私達は急いで列の最後に並んだ。
「今日は騎士見習いの訓練は私が担当いたします」
騎士の格好をしたレティライト様は、ますます宝塚だ。
「まずは訓練場を10周」
ざわりとしたのをレティライト様が睨んで黙らせた。
私達がいるからいつもと練習内容が違うのかな?
きっと今日は私達に合わせて体力強化にしてくれたのだろう。
優しいレティライト様に感謝だ。
それにしても、この広い訓練場を10周。
頑張れば気絶できそうだ。
私はホクホクとした。
イリアス様が集団の先頭を走り出す。
お兄様と私は後ろについて走る。
4周ほど走った時、ハッと思い出した。
そうだ、こういう時フワまもは無理とかできないとか言うんだ。
「もう、無理……走れない」
「え?」
お兄様が不思議そうに首を傾げた。
馬なんて贅沢な生き物など一頭しか飼うことができない我が家は広い領地を自らの足で走って見回っている。
こう見えてお兄様も私も体力は有り余っていたりする。
まだ、4周くらいなら余裕なのだ。
私が言ったと同時にバラバラと立派な訓練着を着た御令息が行き倒れのように倒れていった。
あ、私がリタイアしやすいように先に倒れてくれたみたいだ。
ごめん、私のは口先だけだ。
気絶するまで走るよ。
その後も私は無理と言いつつ走り続けた。
周りで気にしないでリタイアしなよと言うように騎士見習いの少年達が倒れていく。
いつも訓練している彼らがこれくらいで倒れるのはおかしいから、私を気遣ってくれているのだろう。
ごめんね、無理無理詐欺だね。
しかし、8周あたりから本当に辛くなってきた。
「キャロ、大丈夫?」
お兄様が心配そうに背中を支える。
「キャロ、本当に無理しないで」
イリアス君も心配そうに私の背中を支えてくれる。
「キャロライン、ズルしないで自分で走りなさい。イリアス、ハウルはスピードを上げて」
レティライト様の叱責が飛ぶ。
「はい!……お兄様、イリアス様ありがとうございます。自分で最後までがんばります。私の事は気にせず先に行ってください」
そう、私は気絶さえ出来れば良いのだ。
あと少しな気がする。
飛びそうになる意識が早く遠くに飛んでいけば良いのに。
私はフフフと笑う。
お兄様達は心配そうに振り向きながらスピードアップしていった。
私は自分のペースで走ろう。
そして事件は最後の周を走り終えた時に起こった。
私は無事に走り切った。
そして、意識が飛ぶ、よし!と思った瞬間、酸っぱいものが込み上げた。
あ、と思った時にはエレエレとみんなの前で口から自主規制のキラキラが。
ダメだ、貴族令嬢の命が終わってしまう。
私はすぐさま叫んだ。
「チェリーブロッサム!」
エレエレが巻き戻る。
記念すべき時を戻す魔法をこんな事に使うとは……。
いや、気にするな!私の令嬢生命がかかっている。
私は何事もなかったように、根性で込み上げてくるものを押し留めた。
よし!と安心した時、今度こそ本当に意識が飛んだのだった。
「これはどういう事だ!?」
「……ん?」
ロニドナラ侯爵の怒りを含んだ声に目が覚めた。
かかっているお兄様のシャツを退けると、上半身裸のお兄様に私は抱き上げられている?
え?これはどういう状況?
「キャロ、気づいた?」
ロニドナラ侯爵は赤鬼みたいな形相だし、何か雰囲気がやばい?
「お兄様、下ろして」
私は慌てお兄様に下ろしてもらい、かかっていたシャツをお兄様の肩にかけた。
気絶して練習の邪魔をしたことを怒ってる?
いや、気絶する事が目的だけど確かに迷惑だよね。
ごめんね!やばい、やばい!
「申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりにご心配をかけてしまいました。このままいてもお邪魔になってしまうので、今日はこのまま帰ります。騎士見習いのみなさま、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」
今日のところは無事気絶もできたし、速やかに撤収しよう。
本当、申し訳ない。
でも、世界がかかっているのだよ……。
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