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7ページ目「冒険者ってなんや。荒くれ者け」

 僕の生まれ育ったカレル・チャピという村は大陸西南の山間にあり、雨の降る日は多いものの夏はカラッとしていて冬は冷涼な、過ごしやすい気候の地域であった。


 中央都は、中央という名称こそあれどそれは開拓された土地で見た場合の中央という意味であり大陸全土で見れば北部側に位置する。


 この地の冬はどうやら暖かな土地で育った者からすれば過酷な冬になるらしい。

 まだ夏ではあるがその終わりに差し掛かっている事もあって風は冷たく、眠りから冷めた時には手足の先が凍える程の日が続く。


 僕はここで無事に冬を越せるだろうか。現状、少ない依頼金で安宿を借り継いでいる日々が続いておりそろそろ安宿の薄い石造りの壁では辛い寝覚めになってきた。そろそろちゃんと冒険者として十分な金を稼ぎ生活費に充てたい所である。


 ……あれ? でもなんか今日はあまり寒さを感じないな? 毛布から出ている足の先は冷えているものの、胴体部分は全然寒さを感じずむしろ暖かい。今まで使っていた毛布は薄くて熱を逃がしまくりだったのに、ぬくぬくと保温が保たれている。一体なぜ……?



「……はっ!?」



 目開けたら、女の子が僕の隣でスースーと静かな寝息を立てていた。昨日カジノから連れ帰った、何故か翼の生えた人間の少女マルエルである。



「……本当によく出来てる、てか本物なんだよな。人間……?」



 マルエルって本当に人間なのだろうか。

 灰色の頭髪は地毛っぽいが、地毛が灰色の人種というのは存在するのか……? 瞳が紫なのは珍しくもないが、この髪の色に翼。人間感が全然ないが。


 というかなるほど。妙に暖かいのは彼女の翼が僕の身を包んでくれていたからだったのか。

 羽毛布団、というものを昔、1度だけ体験した事がある。あれもふわふわしていて保温に優れていた。合点がいったぞ。


 しかし、何故マルエルは僕の隣で眠っているのだろうか? 確か昨日、僕は床で寝ると言ったのだがそれをマルエルが断り、長い問答の末に腕相撲で勝負することになり、股間を蹴られた僕が敗北し僕がベッド、マルエルが床で寝る事になったはずだが……。



「翼でしっかり抱きしめられている……なんなんだこれは」



 翼で抱きしめる、という事が普通の鳥類でも可能なのかは定かでは無いが、マルエルの腰から伸びるそれは最大限大きく展開された状態で僕の背中に回されており、マルエル自身に身を寄せるようにしてしっかりと固定されていた。


 手で翼の先を掴む。少しなら動くが、引き剥がそうとすると抵抗してきて離せない。大変だ、僕は今寝起きの時特有の"そそり立ち"を起こしている。もしこの状態でマルエルが起きたら、僕は度し難い少女愛癖者として罵られてしまう。


 違う、これは性的な物ではなく生理的なものなのだ、と言って理解してくれるか? 絶対に下らないジョークだと呆れられるに決まっている!



「……んぁ?」



 きゃあああああっ!! 起きたああああっ!!


 やばいやばいやばい。マルエルのやつ、目を擦って僕の顔を見ている。見つめ、睨んでいる。なんだその顔は、寝ぼけているのか……?



「…………あぁ、そうだった。おはよう。ヒグン」

「あ、あぁ。おはよう」

「悪いな。床固くて、勝手に上がってきちった」

「うん。起きたのなら、その、翼を畳んでくれると」

「……」

「マ、マルエル……?」



 マルエルはボーッと僕の顔を見た後、目を閉じた。



「マルエル!?」

「まだ朝早いだろ。動き出すのは昼頃にしよう」

「それは構わないが、僕の事は離してくれないか!?」

「無理」

「何故!?」

「翼生えてんやん。オレ鳥やん。ほら、鳥って身を寄せあって眠るやん。という事で」

「昨日あなた人間自称してましたよね!?」

「……人間だけど、鳥みたいなもんでそ。羽生えた人間? なんなそれ、イカロスけ」

「意味のわからない事を言ってないで畳んでくれって! なんで余計力を強めるんだ!?」

「鳥も人間も、群れをなす社会性動物……生活圏が地面か空かというだけ……つまり……鳥ニアイコール人間とも取れるわけで…………であるならばこうして……お前を…………湯たんぽ……」

「言えてないよ!? 睡魔に負けて全然伝わってないよ!? ちょっ、年頃な男女だぞ僕達!」

「……ホモみたいなもんやね」

「どこが!? 同性なら気にしなかったが異性だろ!? は、離せー!!」

「……寒い。仕方ない。てめぇの貧乏のせい……」

「そ、それを言われたらそうだが……てか! それなら君かなり貯蓄溜め込んでいるんだろう!? 僕に着いてこず一人で高い宿に泊まれば良かっただろう!!」

「……すー」

「寝るなあ!」



 本当に眠ってしまった、僕を拘束したまま。どうする事も出来ない僕も仕方なく目を閉じ二度寝に入……ろうとしたのだが。自分の胸に頭を埋めて寝息を立てている少女の気配と頭髪から香る果実のような甘い匂いに全然寝付くことが出来ず、彼女が再び起きるまでの3時間、ひたすらに悶々とした時間を味わうのだった。




 *




「身長は152で体重46、性別は女で魔力量の平均排出量は852ティール。筋肉量はそれなりですが、この数値ですと魔法職が適職になるでしょうね」

「ほーん」



 ヒグンに言われるまま、冒険者ギルドの新規受付口に行ったら別棟の建物に通され、何をされるのかと思いきや今の肉体のありのままを調べ尽くされてしまった。



「ちなみにこちらの記載、性別が2分の1男となっているのですが」

「肉体的な性別は女なんですけど、中身は紛れもなく男なので。嘘偽りなく書いたらこうなりました」

「女性と書き直しておきますね。次回更新の際は誤りのないように記載お願いします」

「……はい。すいません」



 ドライな対応をされたので素直に頭を下げた。そっか。この世界にはおらんのか、女の体した男とか男の体した女とか。神話には割と出てくるようなもんだがな……。


 まあこの世界は魔法があるだけで何かの神話世界って訳じゃないもんな。てか化学の代替品として魔法があるんだっけ?

 クラークの三法則だな。十分に発達した科学技術が魔法と大差ないのなら、逆もまた然りという事なのだろう。にしては文明レベルに三世紀以上の隔たりがあるように思えるが。



「ではこちらを持ってお連れ様の所へ向かってください。職業が決まりましたらギルドの4番窓口で再び申請の手続きをお願い致します」

「はーい」



 貰った紙を持ってテクテクと元きたギルドまで歩く。中に入ると、ヒグンはギルドの窓口のお姉さんに話しかけているのが見えた。



「どうですかお姉さん。僕と一緒に新たな時代を切り拓きません? 必ず見たことの無い景色を見せてあげれますよ!」

「あ、あはは」

「宗教みてぇな誘い文句でナンパしてんじゃねえよ」



 カウンターに肘を着いているヒグンの膝裏を思い切り蹴り払って転ばせる。ハーレムだのなんだの宣う輩だからまさかと思ったが、予想以上にキモイ行動していてドン引きである。もうちょっとマシなナンパ定型文を作ってくれよ。



「マルエル! どうだい、適職はなにが該当するって?」

「魔法職系が向いているって言われたが、この紙の見方が分からん。教えてくれ」

「了解、もう少しこのお姉さんを誘ってからそちらに行くよ」

「諦めろ? てか私の時もそうだったが、仕事中の相手を誘い込もうとしてんじゃねえ。普通に迷惑だぞソレ」

「迷惑、だって……!?」

「ああそうだ迷惑なクソ客だ。よかったな、一歩人間に近付けた。これが人間界で言うところの学び、成長だ。ほらこっち来い」

「ちょっ、力強っ! じゃ、じゃあねお姉さん! 少しでもいいなって思ったら声掛けてね〜!」



 女が絡むと駄目になるタイプかコイツ。どの時代にもいるもんなんだな、無自覚にちんこアンテナ常に女に向けてる手合い。ちゃんと操縦してやんないとその内罪を犯しかねんな。パイプカットでもしてやろうかな。



「この紙は適職表と言ってね。ほら、さっき採血されただろ?」

「おん。痛かった」

「この印字はその時に採取した血が混ざったインクが使われているんだ」

「え、血!? きっしょ!!」

「血を使う物なんて有り触れてるだろ、魔法とか錬金術とか……それで、印字が明らかに薄くなっているのが君に向かない職業で、濃ければ濃いほど向いている職業になる。君の血液から魔力の情報を読み取っているから、その向き不向きに間違いはないよ」

「なるほど。だから無駄に多めに採られたのか……」



 広げたら原稿用紙よりも大きな紙が出てくるんだもんな。これに印字するとなったらそりゃそこそこの量が必要になるわけだ。鳥肌立つ〜、これ全部オレの血で書かれてるんだな……。



「戦士職は全滅か。まあ見た目通りだね」

「ん? でも槍術師ってやつと狂戦士、あと格闘家ってやつは結構印字濃くない?」

「手先の器用さと敏捷さから槍使いが勧められてるんだろうけど、体格的に見たら長物を使うものは不利だろう。これ、血中の魔力を使う都合上本人の得意とする魔法の才能や体術なんかの才能を抽出してるからさ。体格は考慮されていないんだよ」

「……ふむ。となると格闘家も同じ理由で却下か。狂戦士ってのはどうなんだ? 予想するに肉体強化系の魔法で自己強化し前線に出るやつだろ」

「狂戦士は基本初心者の冒険者には向かないかな」

「なんで?」

「確実に最初のクエストで死ぬ。仲間を巻き添えにして死ぬだろうね」

「えぇー……」



 向き不向き以前に、そんな認識が冒険者初めて二週間そこらのコイツにも浸透してるってことは明らか地雷職じゃねえか。なんでこんなのが適職なんだよオレ。



「射撃支援系は砲撃手と爆撃手が向いているらしい。物騒だな……」

「物騒言うな。まあ、弓で戦闘となると結構な筋力を必要とするだろうし妥当だな」

「他には盗賊、僧侶、使役術師に錬金術師、工作員?」

「見事に陰キャみたいな職業しかないんだが……」

「あれ? 魔法使いの印字が薄い。てっきり魔法使い系が適職だと思ったんだが……」

「まあ攻撃系の魔法使えないしねー私。癒すとかそっち系専門なんですよ」

「じゃあ僧侶でいいか。一旦僧侶で申請してみよう」

「了解」



 紙の『僧侶』の欄に丸をつけ、指示のあった4番窓口に紙を置き再びテーブルで待つ。どうやら名前を呼ばれるまでは待機らしい。新規冒険者申請だとドリンクのサービスが無料で利用できるとの事なので、紅茶でも飲んでゆっくり待たせてもらおう。



「てかよ、よく考えたら私ら二人のパーティーなんだし、ヒグンの職業との兼ね合いを考えたものを選ぶべきなんじゃないか?」

「一理ある。けど適職を見るにマルエルは完全な補助型だし、僕の『重戦士』も味方を守る事に長けた補助職だから兼ね合いは難しいよ。攻撃に特化した仲間を引き入れないと」

「攻撃特化ねぇ。性差別とかするつもりは無いが、ハーレムを作ろうとしてる都合上見つけるのは骨が折れそうだな」

「前線に立つ女戦士、か。物語でならヴァイキングやアマゾネスといったものが存在するけど、現実となると中々居ないよね。居たとして弓術師くらいか」

「暗殺とか狙撃がメインになってくるし、その身や盾で守る職業との相性はイマイチだよな」

「うーむ……」



 二人して頭を悩ませる。

 職業毎に割り振られた特殊技能。スキルというらしいが、ヒグンが覚えているスキルは二つで『肉体を硬化させるもの』と『受けたダメージと同じダメージを敵に与える』というもので、受動的過ぎる構成になってるからなー……。回復特化のオレがそもそも機能しない可能性あるんだよな。



「ん、美味いな。この紅茶」

「んー?」

「果物のような清涼感の中にバニラや蜂蜜のような濃厚な甘み、モルトの様なコクもある。舌で転がしたらそれらが上手く混じりあって、なんか贅沢をしている気分に浸れるな」

「おーなんだなんだ? お前そういうの嗜むタイプなのか。急に味のレビュー始めるなよビックリするな」

「実は紅茶には目が無くてな? 娯楽のない田舎育ちだが、人が少ない代わりに畑が広大で割と金持ってる家が多かったんだよ」

「そういうのはやたら煌びやかな貴族が嗜んでそうなものだがなー」

「マルエルさーん」

「あ、呼ばれた。行こうぜヒグン」



 窓口のお姉さんに呼ばれたのでそちらへ向かう。……後ろを歩くヒグンが断りもなしにオレの翼を掴んできた。いきなりは驚くからやめてほしい、感覚あるんだぞ普通に。知らん人なら余裕で痴漢だぞそれ。



「はい、マルエルです」

「マルエルさんですね。申し訳ございません、『僧侶』希望との事なんですけど現在このギルドに登録されてる冒険者の僧侶は先程上限に達してしまいまして、他の第二第三の候補があればお尋ねしたいのですが」

「む。おいヒグン、僧侶無理らしいわ私」

「だな。他に何かオススメの職業ってあります? この子見た感じで」

「そうですね……適職はほぼ全て補助型でお仲間さんが『重戦士』なのでしたら前線でも活躍出来る爆撃手、使役術師辺りでしょうか。砲撃手は戦術大砲の所持が出来るので個人で攻守に対応可能ですが、仲間に動きの素早い人が居ないとリスクはありますね」

「爆撃手か使役術師、か。爆撃手は確かに初めは楽しそうだけどすぐ飽きが来そうだし、獣と仲良くなるってのもピンと来ないしな……」



 まだヒグンはオレの翼を手で持ち上げたり羽と羽を擦り合わせたりしている。やめてくれ。それ、羽根取れたら拾わないとだろ。割と抜けやすいんだよ、丁重に扱ってくれ。


 うーん、しかしこうも個人的に趣向が向かない物しかないとモチベーションが下がるな。


 他の選択肢は錬金術師とか盗賊とかだろ? 調合や錬成は化学の分類になるらしいから、回復系統の魔法しか使えないし才能もないというオレの縛りには該当しない。盗賊も、自己治療できるという点とスキルがあればある程度幅の効いた動きは出来る。が、どっちもイマイチやる気起きないんだよな。



「むむむ……」

「……あ。そういえば。ちょっとお待ちください」

「? はい、分かりまし、た?」



 紙を睨みながら唸るオレを見て何か思い出したのか、受付嬢さんは裏の方へと入っていった。



「ヒグン」

「うん?」

「一応言っとくとそれ、私の尻を触ってるようなもんだからな」

「えっ!? す、すまん!」



 慌ててヒグンが手を離す。面白い反応。実際は髪を触られてるようなもんに近いが、無遠慮にベタベタ触ってきたのは事実だからな。何とも思ってないが、睨んでるフリだけしておこう。



「おまたせしました。こちらをどうぞ〜」

「これは?」

「本当にごく稀にしか適合者が現れない職業の一覧表になります。特別職と言いまして」

「特別! えっ、な、なんか凄そう! 才能の有り余ってる人が選ばれる的なやつですか!?」

「そ、そうですね。極めて適正の珍しい職業といった所ですね……」

「へぇ〜。聞いたかヒグン? 私、特別らしい」

「なぬー! そんなん僕説明されなかったぞ! ずるいぞ!?」

「適正が極めて珍しいので普段はお出ししていない表なんです」

「才能がないんだと」

「一々言い方を悪くするなよ!」



 抗議してくるヒグンを無視し印字の濃い物を探す。適正が少ないという説明通り、確かにほぼ空白だ。なるほど、こりゃお出ししても無駄紙扱いされるだろうな。


 見つけた。これは……。



「……死霊術師(ネクロマンサー)て。まじすか」

「はい! 書いてある以上はまじですね〜」



 まじですね〜って。さっきの人とは別の受付嬢が出てきたな、軽いノリに合った若い見た目の女性だ。



「あっ、申し遅れました私ピクリアって言います〜。さっき担当してたリクリシオは定時なので、彼女に代わって対応させて頂きます〜」

「定時で帰ったんかいさっきの人!」

「そのようですね〜、引き継ぎされた際に資料を見つけて持ってきたんです〜。それで、一番適職だって出てるのは僧侶か死霊術師ですけど、僧侶は定員満タンじゃないですか〜、他のギルドを探すとなると最寄りでも二日かかる距離にありますし、折角なら死霊術師になってみません? うちのギルド唯一の死霊術師ですよ〜?」

「はあ。死霊術師ねぇ……」

「珍しい職業に就くとお得ですよ〜。見た事ない職業の人をパーティーに入れたがる人って一定数居ますからね〜」

「それで、その死霊術師ってのは何ができるんですか?」



 ヒグンが受付嬢のピクリアさんに声を掛ける、若干声を低くしハスキーな声で。落とす勢いでカッコつけるやん、西欧人フェイスでそんな小手先なテクニック使ってんなよコイツ。



「えっと〜、悪趣味と思われるかもしれませんがそのまま読み上げますね。下級動物霊の使役とか、魂を色や感覚で判別して周囲の索敵が出来たり、死体を加工して魔道具にしたり? 出来るみたいですよ」

「予想通り……まあでも、珍しいのならなるのも一考ではあるな」

「おい待てよマルエル。動物霊はまだしも、死体を加工って。人間の死体とかは手を加えたら法に触れるんじゃないのか?」

「そうですね〜、基本死体は国で管理するものなので、死体取扱規則が定められてますしね〜。人間の死体を合法に取り扱うのでしたら、それに応じた資格の取得も必要不可欠でしょうね。解剖資格とか、管理士資格とか」

「あぁ。その二つなら持ってますよ」

「「えっ」」



 ヒグンとピクリアさんの両方に驚かれた。今よりずっと昔だが、回復魔法系統の取得に伴い医師の真似事もしてたしな。死体解剖資格と管理士資格はその頃から定期的に更新して取得している。


 肉体を分解し一から再構築して女体になったんだ。人体の最も参考になる教材と言えば人の死体だろ? 逆に持ってない方がおかしいって話である。


 二人に資格者証を見せる。この世界では写真技術はまだ発達していないので押印を証明として使うが、ちゃんとオレ本人の押印がしてある。ふふふ、目を丸くしているわ。



「で、でしたら死霊術師って天職じゃないですか? 死体を使うという性質上、公的機関から死体を取り寄せる事も出来るのはかなり有利に働くと思うんですけど……」

「ですね、悪趣味だけど。うん、これにします!死霊術師!」

「重戦士と死霊術師……なんかヘンテコなパーティーになっちまった……」

「うるさいな。はい、これでお願いしまーす!」



 死霊術師の欄に丸をつけ紙を提出する。手続きは受理され、晴れてオレはネクロマンサーの冒険者となった。



「では、こちらのカードと魔力同期するのに必要ですので採血を行いますね〜」

「えっ。また採血いるんですか!?」

「? はい、ついでにこちらの注射器にある魔石の粉も注入します。体内に魔石を精製させ、ギルドカードの更新と共に得たスキルを魔石を通して継承させる形になるので」

「ははっ、そうですか……嫌なシステム……」



 別に不健康になった訳でもないのに三度注射器を刺された。中世の文明レベルで注射器なんか一度たりともぶっ刺されたくないのに三度も。


 はあ、これで変な病気とかにかかったら嫌だな〜。まあ、大抵の病気や毒は魔法で中和出来るからいいんだけどさ……。



「よし。じゃあ早速、飯だけで済ませたらなんか依頼受けるか!」

「そうだな。ピクリアさん、ついでになんか手頃な依頼を一つ紹介してくれよ! 私らこの後すぐ行くからさ」

「えっ……」



 うん? なんか仕事の紹介を頼んだら驚くような反応をされた。何かおかしいこと言ったか? 表の掲示板に登録したら早速おしごと! ってイラスト付きのチラシが貼ってありましたけど?


 ピクリアさんはオレの頭の上からつま先まで舐めるように見る。うん、何が言いたいのか大体予想ついたわ。



「その格好で依頼受けられるおつもりで〜?」

「えぇもちろん!」



 得意げになってヒグンが答えた。オレは何も言っていない、情けないもの。そうなんだよね、バニースーツ姿なんだよねオレ。だからだろうね、さっきからやたら視線集めてるのって。



「あの〜……どの依頼を受けるにしても、網タイツにパンプスというのはどうかと……」

「もっと言ってやってください」

「えっ。好き好んで着ているのでは?」

「この変態野郎の趣味です」

「うわぁ……」

「待ってマルエル。その説明は良くないな、その説明だと僕が誰にでもバニースーツを着せて喜ぶ変態みたいになっちゃうだろ。バニーガールは一人でいいよ。他にはナース服、メイド服、ドレスやビキニアーマーなど、様々な服装の子を侍らせてみたいと考えているからね」

「黙れよお前」

「ピクリアさんも、もしこの仕事に飽きたら僕と冒険者をしないかい。君にはそうだな、似合いそうだしメイド服を着せたいかな!」

「うわぁ……」

「出禁になるぞお前」



 服を引っ張って弾き剥がそうとするが全力で抵抗してくるから後ろから金玉を蹴り上げる。



「じゃあ私達上のカフェでご飯食べてるので。また後でお仕事探しに来ますね〜」

「あ、はい! 何か勧められそうなものがあったらそちらまで向かいます!」

「まじすか! やったー、じゃあお願いします!」



 好意的な言葉に頭を下げ礼を言い、自身に身体強化をかけ倒れ込んだヒグンを担ぎ上げる。


 しっかしピクリアさん、見た目年齢だけなら今のオレと大差ないのにしっかりしてるもんだな。それこそ本当に顔が幼いだけで結構年齢いってたりするのだろうか。



「う……マルエル……」

「おう。なんだい」

「この姿勢のまま運ばれると、不安定で、しんどい……」

「我慢だな」

「だが、な。手のすぐ近くにお前の尻があるだろ。もしこれを掴ませてくれたら、安定し」「ないだろ。触ったら殺すぞ」

「ハーレムメンバー1人目が、あまりにも僕に冷たすぎる……」

「童貞がハーレムだのなんだのほざくのマジでおもろいよな。画家でもしてみろよ、良いもん描けるぜ」

「バカにしやがって〜! 絶対ハーレムメンバーで童貞捨ててやるっ!!」

「じゃあ早急に二人目を探さないとな。私は絶対お前とだけはしねぇ」



 いやまあ誰ともしないが。その発言は喪女認定されるかと思いちょっと意地を張った。この処女は死ぬまで守り通すつもりだ。痛そうだし。



「……マルエル」

「んだよ。席まであともうちょい耐えろや」

「膝に当たってるの胸か? ……見た目に比べると触った感じ小ぶりなんだなあァアッ!?」



 椅子を引いて退かし、床に思い切りヒグンを投げ落とす。激しい音が鳴り、ヒグンが身を丸め唸る。周りの人が談笑を辞め、なんだなんだとこちらを見てきた。



「お気になさらず〜」

「ハーレムの一員って事は、仮にも僕はご主人様的な立ち位置なのに……なんでこんな……」

「はあ……多分、頭打って性格捻じ曲がらない限り永遠に童貞だよお前」

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