77頁目「オワオワリ」
この世で女になってしばらく経ち、途中で男を作り、その男は旦那になり、十数年の月日が流れた。
オレは未だに頭ん中は男のままのスタンスで生きている。実際男のまま100年以上を生きてきたんだから、数十年女として生きたとして男としての自我が揺らぐ事なんて無かった。
「ぎゃははははっ!! おりゃおりゃー! 死ねーっ!」
「やめてよミリー! 痛いよぉ!」
「弱虫ジュール! やめて欲しいなら反撃してみなさいよ!」
「やだぁ! 助けておばさん!!!」
二人の子供がチャンバラ遊びをしていて、男児がオレを見つけると駆け寄ってきてその後ろに隠れた。
「あー! ママを盾にするのずるい! 卑怯! 姑息! 弱者故の奸計!! 臆病者の策略!!!」
「うわああぁんっ!!」
「ああもう、泣かないでジュール。弱虫なんかじゃないもんねー」
「いいや弱いよ! 男の癖に雑魚! ジュール雑魚!!」
「わあああぁぁんっ!!」
「ミリー! ジュールがギャン泣きしちゃってるでしょうが! 可哀想だからやめなさい!」
「悔しかったら言い返してみろばーか! べーっ!!」
オレとヒグンの娘、ミリーがオレの後ろに隠れる男児を煽り続ける。コラ! って本気めに言うと、ミリーは楽しそうに「きゃははっ!」と笑いながら上の階へ逃げていった。
「ごめんねジュール、うちの子が」
「ううぅ……」
「また虐められためかー?」
「! 母さん、父さん!」
ヒグン、フルカニャルリがギルドの依頼から帰ってくるとジュールはフルカニャルリの胸に抱きついた。
ジュールはヒグンとフルカニャルリの子供である。ミリーとジュールはまだ10歳の子供だから二人だけを残して家を置く訳には行かず、上の兄弟達やヒグンの妻達の誰かが二人のお守りをする事になっている。
「やあマルエル、三日ぶり」
「おかえり」
帰宅したヒグンに歩み寄り口付けを交わす。出会った頃から10年以上も経ち、ヒグンはいい感じに髭を蓄えた壮年の男になった。
流石に性欲は20の頃よりも衰えたのかと思いきや、まだまだコイツは現役で度々夜に誘われては朝まで身体をしゃぶり尽くされる。おかげで四人も産んでしまった。イカれてるよなぁ、コイツの性欲。
「わー! パパだおかえりなさい!! フルカニャルリおばさんもおかえり!」
「おばさんではなく! ぼくは子供め!!!」
「うん見た目はそうなんだけど、5児の母じゃ。お前」
「聞いてマルエル! また妊娠した!」
「ヒグン、お前自分のガキの数覚えてる?」
「これで20人になるな!」
「頭イカれてるよね」
オレ、フルカニャルリの他にもメチョチョやファウナ、その後に出来た仲間達とも子供を作り、ヒグンはビッグダディになった。
まだ39歳なのに子供が20人って、四皇でも目指してるのかという感じだ。毎年誰かしらが妊婦になってたし、酷い時には四人同時に臨月来たし。本当に海賊かって。
「メリルとバルカンは? 依頼着いてったんだろ?」
「二人で買い物行くって。デート? って聞いたらメリルにぶっ叩かれたよ」
「あぁ。だからほっぺ腫れてんだ」
メリルというのはオレの第一子、初の出産の時にオレの産道にインファイトをカマして心肺停止に追い込んだ娘である。
メリルを出産した時、オレは脳の血管もブチ切れて完全に死亡していた。自前の魔法があったから蘇生できただけで、普通ならあそこでお陀仏だった訳だ。
最初、メリルの名前は『死神』にしようと思っていた。そしたらヒグンに全力で止められたので、仕方なく名前で庇護を与えられそうなメリルという名前にした。
そして、何故かメリルに『死の爪』やゾンビ大召喚の魔法が遺伝した。最初見た時は本気で「コイツ死神だろ」と思い言い放ってしまった。
他の子達は回復魔法系統の才能を遺伝したのに、どうして一人だけ『涅』を生まれながらに操れるんだろうね。ナワリルピリの生まれ変わりとしたらどうしよう。寝首かかれそう。
ちなみに子供達に翼は遺伝しなかった。当然だ、そもそもこれは本来オレのものじゃないからね。ヒグンはそれを少し残念がっていた。我が子の翼の手入れをしたかったらしい。鳥でも飼え。
「バルカンにも遂に彼女か……よし。メチョチョの媚薬をあげよう!」
「一応言っとくけど血繋がってるからな、メリルとバルカンは」
父親が同じなんじゃ。メリルもバルカンも。
バルカンはフルカニャルリの第一子で、妖精と人間の混血であるドヴェルグである。二人は今年で19歳になる。ヒグンが冒険者を始めた歳だ。二人ともすくすくと成長し、バルカンには当時のヒグンの面影が見える。
「しっかし、フルカニャルリは妖精だから分かるけど、人間であるマルエルが出会った時と見た目変わらないのはなんでなんだろうな?」
ヒグンが不思議そうに言う。まあ人間ではあるけど、魔力が軒並み生体細胞を活性化して廊下を抑える作用があるからね、不死身がなかったとして不老なのだよオレは。
「「ただいま〜」」
「あ、お姉ちゃん! お帰りなさい!」
メリルとバルカンが帰ってくると、ヒグンにしがみついていたミリーがジュールを押し退けてメリルに抱き着いた。ミリーの頭を撫でながら、メリルが家に入ってくる。
「おかえり、メリル。バルカンと楽しくデートできた?」
「なっ、ち、違うから! そういうんじゃないっての!」
「あはは……おばさんの誕生日プレゼント買いに行ってたんですよ」
「えっ? 誕生日プレゼント? 私の?」
「! 馬鹿っ! サプライズするって言ったじゃん!!!」
「あーごめんっ! マルエルおばさん、今の忘れて!」
「ニワトリか私は」
メリルがバルカンの肩を小突き睨んでいる。フルカニャルリは「あらら」と言いながら、家の隅に置いてあった小包を幾つか糸で手元に集めた。
「はい、マルエル。ぼくと、ヒグンからのプレゼントであり」
「えっ」
「誕生日おめでとうマルエル。……もっと沢山子供作ろうな!」
「人が衝撃受けてる時にそれ言うのやめて? 子供達の引いてる目線を少しぐらい感じ取って???」
丁寧な包装をされた小包を二つ受け取る。誕生日なんて祝われるのは久しぶりだ。オレ達は冒険者だし、子供達も三男三女の世代辺りからもう社会に進出してる子がちょくちょく出てるしで、近年誕生日はお流れになってたからな。
「ありがとう……」
メリル、バルカン、ミリー、ジュールからもプレゼントを貰い、夜になれば残りの子供達からもプレゼントを渡された。子供達の喜ぶ顔を見て、旦那とフルカニャルリの笑顔を見て涙腺が緩む。
男の自我はあるが、母親になった事でこういう出来事に弱くなったみたいだ。その日は皆と夜遅くまで語り合った。
*
ヒグンの妻が増え、子供が増えてくると元の家は窮屈となりすぐに引越しを行った。
浄域龍シガギュラドの討伐によって得た財産を使いそこそこ部屋数のある同じ区画内の家をいくつか購入した。しかし、家を複数保有するにはそれなりの職に着くか、上流階級になる必要があった。
ヒグンはシガギュラドの討伐以降高ランク冒険者の仲間入りを果たし、その後も様々な危険な依頼をこなして行き、ギルド最高の冒険者になるのと並行して騎士団とも関係を持ち、後年には騎士団の団長にも就任した。
騎士団と関係を持った事で彼は王から爵位を賜り、以前シガギュラドを斃した森に面した地方を管理する辺境伯となった。
結論から言うならば、ハーレムを作るという彼の夢は彼の望む通りに叶った。自分の土地を持ち、貴族階級に恥じない責務に追われ、数多くの邸宅と妻を持ち、子を世に送り出した。
そんなヒグンの生涯は、あまりにも呆気なく床に着いたまま閉ざされた。彼がこの世に居られたのは1世紀弱、数十人の妻と子に看取られてあの世へと旅立っていった。
「逝っちまったな」
「ついに、でありな」
長い事共に過したフルカニャルリと、最初にヒグンと過ごした何でもない安宿の近くにあったスイーツ屋さんでパフェを食べる。
「あんなにヤンデレカマしてたのに、人間としてアイツを死なせてやるだなんて思わなかったよ」
「ぼくは妖精であり。ぼくの意志で人間を魔性に堕とす事なんてあってはならず」
フルカニャルリは出会った頃と変わらない姿で、当時よりもずっと大人びた表情で言った。
ヒグンの妻には吸血鬼や人間でありながら数千年を生きる魔法使いなんかも居た。ヒグンが100年ポッキリで死なないよう、身体を改造する手段なんて山ほどあった。ヒグンを愛していた妻達の中にはそういう、肉体を改造してヒグンの寿命を伸ばそうとする者も居た。
ヒグンはそれを望んでいなかった。人として生き、全力で夢を叶えて、人と死ぬ。それが彼の願いだったからだ。
アイツの言葉を聞いて一番最初にその意志を尊重したのはフルカニャルリだった。誰もが予想外だっただろう、オレだって驚いた。フルカニャルリはきっと、ヒグンを死なせないように画策する側だと思っていた。
「本当に、妖精だからって理由だけなのか? お前なら堕天してでもヒグンとこの先何千年も生きていきたいって言いそうなもんだが」
「勿論ぼくはそのつもりだっため。けど、ヒグンはそうは思ってなかった。愛した人の気持ちを無視するのは嫌であり」
「なるほどなぁ……」
寂しそうな声音でそう言うと、フルカニャルリはすっかり味もサイズも変わったパフェを食べ終えると、席を立った。
「もう行くのか?」
「うん。人の世で十分幸せになれたから、今度は妖精郷で100年を過ごすめ」
「そっか。寂しくなるな」
「また数百年後に人間界に戻ってくるめ。その頃まで生きてたら、また色んな所を冒険しよ!」
「あはは、数百年後は流石に死んでるな〜。オレ、ちょっとババアに近付いてるし」
「まあまだ10代くらいの見た目だけど、そうめね。再会出来るとしても、おばあちゃんになってるかな?」
オレはこの100年で少しだけ見た目が成長した。17歳とか18歳とかそこら辺の見た目である。そして少しずつだが、見た目が加齢する速度は上がってきている。
もう100年は生きれても、200年後には骨になっているんだろうな。メチョチョも逝ってしまって、ファウナはヒグンと家族を作ると人知れずどこかへ行ってしまった。きっと、オレ達の知らないところでひっそりと生きていくのだろう。
「それじゃ、そろそろ行くめ。またね、マルエル」
「おう。じゃあな、フルカニャルリ」
フルカニャルリの体が黄金の砂のようになり、空間に空けた穴に入って消えていった。
一人、パフェを食べ終えて一息吐く。うーむ、寂しくて草。まさか、こんな風な身体になった後に人並みに幸福な人生を歩めて、人並みに老後の孤独を味わう事になるとは。
「結局、また消化試合の人生が始まっちまった」
聞く相手のいない場で一人つぶやく。ヒグンと出会う前までの独りの状態に戻った。
……まあ、子供達が居るから完全に独りって訳では無いが。それでもオレの子供はもう高齢組しかいないし、皆社会に出て高い役職に着いてたりするから、気軽に会えないんだよなあ……。
「でも、不思議とヒグンと出会う前の虚無感みたいのは無いんだよな。満たされているというか、なんだろうな。この感じ」
「何一人でブツブツ言ってるめか」
一人で感傷的になっていたら再び穴が現れて中からフルカニャルリがニュって現れた。ふざけんな。
「おい。語らせろよ一人なんだから。独白させろ。戻ってくるなよお前」
「いやいや、パフェのお金置き忘れてたんだもん。で戻っていたら一人でブツブツ言っているマルエルでしょ? そりゃ声もかけるめ」
「くぁー別れ際の最後まで空気ぶっ壊してきやがって!!! お前もうちょっと情緒的なお別れとか出来ないの!?」
「いや〜、それがシャクラッチャが結婚した相手、ぼくの孫だったらしく気まずいめよ……妖精郷に帰るのはもうちょっと後にするめ」
「おぉ……友達が自分の孫と結婚かぁ……深いな」
「でしょ? バッタリ鉢合わせして大変だっため。互いに初対面の相手のフリをしてシャクラッチャに話を合わせためよ。オムツ替えてた時の事を思い出して、あの子とシャクラッチャが…………ヴォエッ!」
「良くない良くない。わかった、今日はパーッと飲んで忘れよう。な?」
気持ち悪そうにしているフルカニャルリを担ぎ、ヒグン達とよく行った居酒屋に向かう。……あ、そういえば余談なんだけど、オレの曾孫が働いてるのって確かその居酒屋なんだよな。オレも少しだけ気まずいかもしれない。
*
「いや〜、気付かなかった! まさかつまみ食いした相手が自分の子孫だなんて! 驚き! ねえマルエル、これって近親相姦になるのかなぁ?」
300年後。ファウナが久しぶりに人間界に戻ってきたと思ったら町外れに住んでいるオレの元に訪ねてきて、最近あった驚いた出来事を話し始めた。
どうやら人界離れた山脈に長い事一人で暮らしていたら、勇者を名乗る男と出会いのおとこと交わり妊娠したらしい。で、その勇者はファウナの遠い子孫で、ヒグンによく顔が似ていたから体を許してしまったのだとか。
「……あの人に顔が似ていたのなら、子孫かもという考えには至らなかったのかい?」
「至らないよー! 運命!? 生まれ変わり!? って思った! メチョチョもパパって呼んでたヒグンと子供を作ってたし、アリかなって思うんだけどどうかな!?」
「どうって?」
「結婚! プロポーズされちゃったの! でも、相手は自分の子孫なわけでしょ? 龍と龍の血が入った人間の勇者ってだけでも複雑な関係なのにさ、ついでに先祖と子孫の関係となるとごちゃごちゃになっちゃうよー!」
「ファウナはその相手の事、どう思ってるの? 好きなの?」
「好き! 大好き! 愛してる!」
「あはは。じゃあ、深い事は考えずに一緒になってもいいんじゃないかな」
「ホント!? やったー!」
当時と変わらない調子で無邪気に喜ぶファウナ。その姿が愛おしくて、彼女の頭を撫でた。
「マルエルの手、シワシワだね」
「そうかい?」
「うん。ヒグンも、ユフィリアもそうだった。もうすぐ死んじゃうの?」
「どうかな、私には分からないよ。案外まだまだしぶとく生き残りそうな気もするし、ポックリ逝ってしまう気もする」
「ふーん。メチョチョも同じ事言ってたな、おばあちゃんになってた時」
「ふふふ、そうだね。おばあちゃんになったのに、まだ私の事ママって呼んでくれて。嬉しかったなぁ」
「わたしも呼ぼうか?」
「出会って400年経ってから今更そんな呼び方されてもねぇ」
「だよねー。きゃははっ」
ファウナは笑いながらオレの手を頬につけた。
「ねえ、マルエル」
「なあに?」
「マルエルは、死ぬのが怖い?」
「? どうして?」
「気になったから聞いてみたの」
寂しそうな声でそう言うからファウナの顔を見てみると、やはり彼女もフルカニャルリと同じく、顔の形だけ幼いままに大人びた表情で、静かにアンニュイな表情を浮かべていた。
「わたしは、フルカニャルリよりもずっと長く生きる。家族が皆死んでも、わたしは生き続ける。わたしは、死ねないのが怖いよ、マルエル」
「そっか。……私はね、今まで沢山自分の手で死んできたから、耐性が出来てたと思った。だけどね、やっぱり死ぬのは怖いな。自分が無くなっちゃうって考えたら、怖くて、悲しくて、寂しい気分になる」
「……寂しい所だけは、わたし達同じ気持ちなんだね」
「ファウナ」
ファウナの頬を撫でて、鼻を指でつんつんって遊んでやるとファウナが俯くのをやめてこちらを向いた。オレは、もう色褪せて羽の数も少なくなった翼から羽を一枚抜くと、それをファウナにあげた。
「それ、持っておいて。もし別の人に生まれ変われるような事があれば、きっとそれを目印にしてまた会えるから」
「……あははっ。数十年したらこんな羽、風になって消えちゃうよ」
「かもしれない。けど、これが残り続ける限り、いつでもファウナは私の事や、皆の事を思い出せるでしょ?」
「……どうかな」
「なら、この羽をペンにして、私達が覚えている記憶を本にして読み返せばいいよ」
「本に……?」
「うん」
オレはテキトーな本を一つ、ファウナに渡す。オレが初めてこの世界に来た時にマリアに貰った旧ブラン語の言葉辞典だ。雨風の影響で文字は掠れて消えており、白紙のページがチラチラとある。
「私やヒグン、メチョチョは、老人になったせいか昔話をする機会が多かったろ? その話を、思い出せる範囲で、この本に書いて備忘録にするのはどうかな?」
「……あまり、記憶が合ってる自信が無い」
「合ってなくても構わないさ、ファウナの知る私達を書けばいい。どんな形であれ、それはファウナの目に移り、感じた私達その物なんだから、整合性なんて二の次で記憶の通りに書けばいいんだよ」
「……わかった。書いてみる!」
「あい。ババアの趣味の世界へようこそ、ファウナ」
「そういうこと!? わたしまだ全然おばあちゃんじゃないんですけど! 龍で言うなら幼体なんですけど!?」
ファウナが必死になってオレに言葉を投げまくる。よせやい、あははと笑ってやるくらいしかもうリアクションの幅がないんだ。寝たきりの老人に無理をさせるなよな。
ファウナが帰ると、また家の中は一人となった。
大木にめり込むように建てられた、オレがこの世界で一番初めに過ごしていた頃の家を模した住処。ここはあまり人も近寄らず、静かでゆったりとした時間が流れる。
「ふぁ……」
眠気に襲われ、目を閉じる。最近、一日がとても短く感じる。
……その日の夢は、情報量が多くて一つ一つ見ていられなかった。今まで出会った人々、今まであった出来事が順番に目の前に迫って来るような感じがしたのだ。
映画館でスクリーンを見上げているような倦怠感だった。やがて、射影機がカシャカシャ鳴るのを辞めると、オレの意識は暗澹の底へと沈み込んでいった。
*
「久しぶり、マルエル!」
「■◾︎? ……■、■■■!?」
「あはは、うん! 久しぶり」
「■■■■■◾︎■……■◾︎、■■■■■■■」
「そうだよ。今までお疲れ様。二度目の千年祭まで後少しだったのに、惜しかったねえ」
「■◾︎、■■■■■■◾︎■■」
「忘れちゃったの!? もう!」
「■■■■■■■■■■■」
「だからって、もう……まあいいや。楽しかった? この人生は」
「■◾︎、■■■■◾︎■■」
「そう、よかった」
「■■」
「うん?」
「■■■■■■■◾︎■■■、■■■■■■■」
「そんな事言われても、ねぇ。でも、寂しがってはくれてたんだ?」
「■■■■■■■」
「嬉しい。……ねえ、マルエル」
「■■?」
「……今のマルエルは私のそっくりさんになっちゃったから、少し抵抗あるけど。キスしてもいい?」
「■■■」
「……ッ。ふふっ。なんだか私の方が背が高いから、変な感じ」
「■〜■■、■■■■■■■■■■■■■」
「知らないわよ〜。多分その姿が、マルエルにとって最も濃い人生を過ごした頃の姿なんじゃない?」
「■〜……■◾︎■■■■◾︎■■」
「私としては、男の頃のマルエルと会いたかったけどね?」
「■■■■■■、■◾︎■■■■■■■■■」
「セ、セックス!? そういう事普通に言うようになったんだ、変態!」
「■■■■■■■◾︎■。■■■■■■■!」
「知らない! 変態! ……ねえ、マルエル」
「■■」
「これからどうするの? どうしたい?」
「……■■◾︎■?」
「私はね、ずっとマルエルと一緒に居たい。その為に待ってたんだから。でも、マルエルは?」
「…………■■■、■■■■■◾︎■■■■■■」
「本当?」
「■■■■」
「それなら、あの時の続きをしよ?」
「■■■■?」
「うん。……100年どころか、数百年越しになったけど。マルエルは私の事……えーと、わたしのこ」「愛してる」
「えっ」
「■■■の事、ずっと愛してる。愛してた。だからこれからは、ずっと俺の傍に居てほしい。……いいかな?」
「……うん。もちろん、ずっと一緒に居るよ。まあもう死んでるんだけどね、私達!」
「それを言っちゃお終いなんだけど?」
「あはは! でも、大丈夫。今回は前回と違う結末になってるから!」
「結末?」
■■■が俺の手を引き透明の階段を登る。すると、目の前に巨大な白い扉が現れた。
「これは……天国的なそういうやつの扉?」
「そういう名前なのかは知らないけど、そう! 神様とかがいる場所なんだって!」
「へぇ〜。扉のデザインがありきたりすぎて胡散臭いな」
「うるさいな! 行くよ!」
手を引かれ、僅かに空いていたドアを開け開けて中に入った。
白い景色が収まる前に、遠くの方から「あれ!? マルエル!? 浮気かい!? って物凄い美人だ! ハーレムに興味はっ」という奇声が聞こえてきた。
どうやら天国かどうかは分からないが、あの世である事に違いは無いらしい。
「あの馬鹿は放っておいて、とりまそれっぽいし挙式でもあげるか?」
「えっ!? えっ、そんな事していいのかな……?」
「いいだろ。周りにいる人らボコして手伝わせるわ」
「絶対そんな事したら駄目だよ!? 追い出されちゃうから!」
新たに迎え入れられた魂が、一つの波乱を起こす。楽しげで馬鹿らしい騒ぎの音は扉が閉められるまで、いつまでも空に響き渡った。




