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76頁目「出産したが」

 妊娠して8ヶ月が経過した辺りで我が家に子育て用の道具や家具が置かれ、様子を見ながら更に月日は流れ、11月。


 二度目の冬が始まり掛けると同時にオレとフルカニャルリは臨月を迎えた。



「どうもー、久しぶりねヒグン。マルエルちゃん、フルカニャルリちゃん」

「ルイスさん! お久しぶりです!」



 ある日、ヒグンが二日ほど家を空けていたと思えばルイスさんと見覚えのない女性を連れて帰ってきた。実に約一年ぶりの再会である。



「どうしためか? 何故ルイスが家に」

「そろそろ出産時期が近くなってきただろ。助産婦さんが必要かなと思って、暫くこの家に居てもらうことになった」

「助産婦さん? ルイスさんが?」

「なに、意外〜?」

「意外でしょ。冒険者でレイナさんとチャールズくんの後見人ですよね。更に助産婦さんって設定も足すとなると、ちょっと盛り沢山すぎるでしょ」

「お金を稼ぐには様々な分野に手を出すのが1番だからね〜。にしても、ヒグン。一気に二人もだなんて、意外と豪快だねぇ」

「いやーははは。エロかったもんで!」

「言い方考えろ、大人の人もいるんだぞ」



 ルイスさんと同じく助産婦さんと思しき女性に頭を下げる。彼女はそこそこお年を召した方で、オレらのやり取りもにこやかに流していた。



「初めまして! あたちはメチョチョです!」

「はじめまして、わたしはファウナです!」

「あら、はじめまして〜! なになに、二人もヒグンのお仲間さん? それとも恋人さん?」

「ぱぱの娘!」「あいじん」

「わぁ〜お」



 メチョチョとファウナがルイスさんに自己紹介をし、ルイスさんが引いたような目でヒグンを見た。ちょっと初見じゃ情報量を纏められないよな、そもそも容姿が人間離れしてるもんなこの二人。というのもあるし、娘なわけないし愛人って堂々と妊婦の前で言えるわけないもんね。



「……ま、まあ、これから暫くお世話になるから! よろしくね、皆」



 サラッと流してルイスさんと助産婦さんはオレ達に会釈した。会釈を返す。



「となると部屋が必要か。二人分部屋を空けないとな」

「あ! 全然、あたしはリビングとかでいいよ! テキトーに毛布貸してくれればそれで十分!」

「いや駄目でしょ。この街の冬は寒いんだから、ちゃんと部屋貸すよ」

「暖炉あるし!」

「ベッドがないでしょ。ソファーに毛布だと体も凝るぞ」



 ヒグンの真っ当な説得にルイスさんは驚いていた。まあこういう事に関しては以前からちゃんと気を遣う男ではあったんだけど、変態イメージと屋敷での惨劇で気が強くなってた印象が強いだろうし、優しくしてくるタイプだとは思わなかったんだろう。


 現在、上階にある四部屋はオレ、ヒグン、フルカニャルリ、ファウナの部屋があってメチョチョは基本的に誰かと共に添い寝する形になっている。メチョチョの私物は少なくてファウナも少ない為彼女らの物は一つの部屋に纏めている。



「僕とファウナの部屋を空けよう。僕は空いたベッドを下に持って行って暖炉の前に置くよ。ファウナとメチョチョはそれぞれマルエルのフルカニャルリの部屋で寝てくれるかな」

「えー。冬は寒いんじゃないの? 結局ヒグンが暖炉前に行くの〜?」

「僕は筋肉あるし実は冬でも体ポッカポカなんだよ。だから冬でも部屋の中では上はタンクトップです」

「変な人じゃん」



 これが実際タンクトップで過ごしているから問題である。本当に変な人だもんね。



「ぼくはそれでいいめ、皆は?」

「私も」「あたちもー!」「なんならそとでもいいよわたしは」

「それは駄目だろ家族なんだから。家の中に居なさい」



 急に飼い犬のようなポジションに着こうとしたファウナにヒグンが静かに説教する。ファウナが「はーい」と言うと、ヒグンがその頭をよしよしした。



「じゃあ決まりだね。二階の出入口近くの部屋と、一番奥の部屋の二つを空けますので、お二人ともそちらに」

「うーん、了解。それじゃ、二人とも頑張ろうね!」



 ルイスさんがオレとフルカニャルリに拳を突き出した。フルカニャルリと顔を見合せ、その拳に拳を合わせた。男じゃん。後から知ったが、それはエドガルさんから教えてもらったやり取りらしかった。




 *




「痛い、しんどいぃ……」



 妊娠してから37週を超えると、オレもフルカニャルリも陣痛が来るようになり、再び妊娠初期のような不快感に耐える日々が始まった。


 生理痛や腹を下してるような痛みが来る、と知り合いの先輩ママさんや助産婦さんは言っていたが、全然それよりも痛かった。

 まあ元々オレは生理痛はあまり酷くない方だったからというのもあるだろうが、陣痛はなんというか金槌で腹の中側をぶん殴られてるみたいで、比べるものでもないだろって感じだ。



「いだいいぃぃ!!」



 そして、オレなんかよりずっとしんどそうにしているのはフルカニャルリだった。

 つわりの時はケロッとしていたフルカニャルリだったが、陣痛に関しては痛みに耐えかね、痛みが来る度にお腹を押えて苦しそうに呻きながら必死に呼吸をしていた。


 ヒグンを呼んでは腕にしがみつき必死に目を瞑り呼吸を整えようとするフルカニャルリの姿は見ててハラハラする。小さい体には妊娠した腹が余計に大きく強調されて見えるから、ふとした拍子に壊れそうで怖くて目が離せないのだ。



「い、いだいぃっ」

「ゆっくり呼吸して、力を入れると余計痛くなるからね」

「ふぅーっ! ふぅっ!? んんんぅぅっ!」



 助産婦さんのアドバイスを聞き呼吸を整えようとするフルカニャルリの目から涙がこぼれた。ヒグンにとってもメチョチョにとってもファウナにとっても、こんなに痛みで苦しんでいるフルカニャルリを見るのは初めてだっただろう。


 全員が心配そうにフルカニャルリを見守る。オレまで苦しんで皆に負担をかける訳にはいかない。



「マルエルちゃんも、無理せず痛みを感じたら言ってね」

「はい。ありがとうございます……」



 ルイスさんがオレに気にかけそう言ってくれた。丁度今陣痛が来ているタイミングだが、二人同時となると皆混乱してしまうかもしれないので、陣痛が来ているとは言わないでおく。

 俺は無理矢理にでも陣痛を誤魔化すように目を閉じ、睡魔に身を委ねる。




 *




「……ッ!? なに、これ」



 数日後、目が覚めたら股に違和感を感じた。毛布をめくり確認すると、股から液体が漏れ出し濡れているのが見えた。



「お小水……? ……でも無い。大量おりもの……?」



 指につけて嗅いでみる。尿特有のアンモニア臭はしない、おりものの酸っぱいような変なグィッてなる感じの臭いもしない。無臭だ。……よぉく香ってみると、少しだけ生臭い? でもほぼ無臭だな、なんだこれ。



「ん……どうした? マルエル」

「いや、なんか漏らしてたっぽくて」

「おもらしか?」

「かと思ったんだけど……う、いてて。陣痛だ」

「おっと、背中さするな。……いや待て、待て待てマルエル」



 オレの背をさすっている最中、ヒグンは何かに気付いたかのようにオレに声を掛けた。



「これ、破水ってやつじゃないのか?」

「破水? ……説あるかも?」

「お腹の赤ちゃんの感じはどう? なんか変化とか」

「うーん……大分下の方まで降りてきてるような感じが、しないでも無い」

「絶対破水だろ!? え、うわ、どうしようどうしよう!!! 産まれそうなんだよね!?」

「産まれそう……ではあるかもしれない。えっ、待って産まれるの? 産まれるのこれ!?」

「絶対そうだろ! 助産婦さん呼んでくる!」

「待って怖い! お願い行かないで怖いから!!」

「いやいやいやいや呼ばないとだろ!? 大丈夫すぐ戻るから!!!」



 それは突然やってきた。子宮の入り口にグイグイ当たり押し出ようとする感覚。ヒグンは部屋を慌てた様子で飛び出して行った。



「ひ、ひいぃ〜!?」



 とりあえず事故ってボルンって内臓持ってかれないように横向きで寝る。ダラダラダラと冷たい汗が背中に流れる、怖い怖い怖い怖い! え、今から出産するの!? 怖い怖い怖い怖い絶対痛いじゃんやばい泣きそう。あ、ちょっと涙出てきた怖いよぉ〜!!!




 *




「四つん這いで産むんすか!? 仰向けになるんじゃなく!?」

「仰向けになったらいきみにくいでしょ?」

「見た事ない出産スタイル〜!!!」

「僕はこのままどうしたら……?」

「お母さんが赤ちゃんを産み落とすまでそのままでお願いします」

「は、はい!」



 ヒグンが床に正座した状態になり、膝の上にクッションを置いてそこに俺の胸を乗せるようにして、膝を立てた状態で股の下に柔らかい布の敷き詰まった籠を置かれた。



「えっと、私どうしたらいいです……?」

「これを飲んで」



 ルイスさんがオレに薬のようなものと水を手渡してきた。心配で見に来たフルカニャルリにも渡していたものだ。



「なんですかこれ」

「痛みとお腹を張りを緩める薬。お産の時に飲むやつだよ」

「そ、そうなんだ」



 飲んでみる。……こういうのって飲み薬なの?



「痛みが酷くなるようだったらあたしが魔法でサポートする。けど……」

「……え、なんですか。無言の時間が長いんですけどルイスさん」

「経験上だけどね。どれだけ魔法で痛みを緩和させても……多分、泣く程痛いかも」

「ストレスかけないでもらってもいいですか!? 怖いんですけど!」



 泣きっ面に蜂である。人が恐怖で泣きそうになってるのになんで怖がらせてくるかね。メンタル化け物かこの人。



「……ッ、陣痛がまた来た。いだい……」

「本格的にお産が始まりましたよ。マルエルさん、まずは子宮口が完全に開くまで我慢です。私が大丈夫と言うまで、いきんじゃダメですよ」

「いきむってなんすか……?」

「赤ちゃんを出そうと力を入れる事です。完全に子宮口が開いてない状態でいきむと、産道にかなりの負荷が掛かりますからね」



 おしがまとかうんがまみたいなもんですかね。全然自信ないな、この肉体になってから何度おもらしをしたと思っているんだ。放尿院の名は伊達じゃないぜオレァ。



「……ちなみに、いきんだら赤ちゃんは?」

「安全に産みたいのなら、いきんだらダメ!」

「死んでも頑張ります……」




 *




「……ッ!? あ、く……ッ」



 痛……いった……!? なに、これ。下半身をぶっ壊されてる痛み、中から骨をバキボキやられてる感じの痛みが響く。上手く息が出来ない、ハッハッて細かい呼吸もだんだん出来なくなってきて顔が歪む。



「ゆっくり呼吸して! 止めたらダメ!」



 そんな、事言われても……っ。


 これまでとは比べ物にならないほどの痛みが、段々間隔が短くなっていって痛みは増すし長くなるしで有り得ない域に達していた。拷問だ。こんなのに耐えるとか冗談じゃない、いつまで我慢すればいいんだ……!?



「マルエル、僕の呼吸に合わせて呼吸して!」

「頑張ってマルエル!」



 ヒグンはオレに思い切り手を握られているのに、全然痛そうにせずに小刻みに吸って深く吐く呼吸の手本を見せてくれた。


 何とか真似て呼吸する。痛みは……吐いている間は心無しか緩和されているような気がするが、油断すると痛みに心が折れそうになる。


 フルカニャルリもオレと同じく、いつ産まれてもおかしくない状態だってのにオレのお酸の応援をしてくれている。メチョチョは汗を拭いてくれるし、ファウナもオレの手を握ってくれた。


 ルイスさんは痛みを和らげる魔法をオレに掛けてくれているが、彼女の宣言通り全然気が狂いそうなほど苦しくて痛い。意識が遠のきそうになるが、そうしたら無事に出産出来ないかもしれない。


 我慢だ、我慢だ。耐えてみせろ、精神の漢の魂を燃やせ。耐えろ、耐えろ! うぐうぅぅぅ痛いっ、けど耐えろっ!!!




 *




「いいぃぃいゔううぅぅあっ、ぐぅぅぅうう!!!」



 心、ポッキンです。痛すぎ、痛すぎ。シャレにならないこれ、まじで無理。無理無理無理。無理に決まってんだろこんなの。痛いって、痛いってやばすぎるだろこれ心臓止まるってまじで痛すぎるよおおぉぉぉ!!?


 激痛陣痛が始まってもう6時間は経っただろうか。いきむのを我慢する痛み逃しを何とか続けてきたが、もう限界だ。無理無理、物理的に無理すぎる。下半身をぶっ壊されてんだもん、耐えれるわけないよね。



「む、無理、無理無理オレには無理っ! いだいいぃぃぃ」

「頑張れ、マルエル……!」

「頑張りまくってますぅでも無理もうやだいだいのゆるじっ、あ゛あ゛ぎゃぁぁあっ!? い゛ゔぅぅぅぅぅっ!!!」



 一際大きな痛みが走って濁音だけの悲鳴が口から漏れた。体が小さいからきっと普通より痛いんだ、頭が沸騰しそうになる。


 痛みでずっと叫んでる。いきむ事だけはしなかったが、もう痛みを耐えてるなんて言えなかった。


 ただ痛みを受けて逃げようとして叫んでいた。助けて、助けてという思いを叫び声に乗せていた。


 と、オレの弱音MAXの叫びに呼応するように腹の中で胎児が動いた。腹の中で煽ってるのだろうか、タイミングはまさにそんな感じだった。



「ぐぅっ、くそ、がっ……舐めんなガキ、がああぁぁぁあ゛あ゛あ゛っ!!!」



 痛みでトビそうになっている頭に無理やり意地をねじ込んで正気に戻し、耐える。ヒグンの了承も取らず彼の腕を借りて、その腕に噛み付いて噛む事で痛みから耐える。ヒグンは抵抗しない、その行為を受け入れてくれていた。




 *




 それから一時間経ったくらいに、フルカニャルリの体調にも異変が生じた。



「うぐっ、い、いたたっ……!」



 フルカニャルリが陣痛を訴えたのだ。更には彼女も破水している。


 前代未聞の、二人同時出産が始まった。ヒグンの左足側にオレ、右足側にフルカニャルリが縋るように身を乗せるようにし、同じ部屋で子宮口の開口を待つ拷問が始まった。



「ファウナちゃん、水持ってきて! メチョチョちゃんはフルカニャルリちゃんの汗を拭いてあげて!」

「ゆっくり呼吸をしてくださいね〜。ひ、ひ、ふーで、ひの時に吸ってふーで息を吐いてください」



 ルイスさんと助産婦さんが、人形も駆使した総動員でオレとフルカニャルリにマッサージをしたり力を逃す手伝いをしながらセカセカと動く。


 隣でオレと同じ四つん這いのポーズで歯を食いしばっているフルカニャルリを見てると、めっちゃ失礼だから口には出せないが笑いそうになった。おかげで少傷みが紛れた気が……いや痛えわ。


 痛いけど、さっきみたいな独りで痛みを我慢してる状態じゃなくなったから心持ち的には少しだけ楽になった。



「いっ……ぎっ……ぎぅぅううううっ!!!」



 子宮口が開ききり、やはり激しい陣痛に下腹部を殴りつけられながらも助産婦さんの指示を聞いて下っ腹に力を入れて赤子を捻り出そうとする。


 陣痛で苦しんでいるまさにその瞬間に力を入れなければならないから痛みの度合いが凄まじい。股が焼き付けられてるみたいに痛くて、鈍痛と刺すような痛みを常にグサグサされているようで気がおかしくなりそうになる。



「ハッ、ハッ、ハッ!! あ、あぐっ、はぁっ」



 痛すぎて短い呼吸しか出来なくなってしまった。過呼吸か? 吸ってばかりで全然吐けない、苦しい。



「マルエルさん、呼吸しっかり、ゆっくりとですよ!」

「はっ、はっ」



 助産婦さんもヒグンも心配そうに見ているが、そんな余裕ない。全然話聞けない。息が苦しい、死ぬ。絶対死ぬ、死ぬ……っ。


 オレの手を、隣に居たフルカニャルリが握る。



「い、いだぁぁいっ!! 痛いぃ!!!」



 フルカニャルリも泣きながら、必死に陣痛の波に耐えていた。陣痛に耐えながらオレの手を握り、一緒に頑張るよう励ましているのがわかった。


 いやいやいや。そんなエモーショナルな感じで絆を確かめようとしてきましても、無理やって。だってオレ男だし、痛みは男の方が弱いし! しかもチビだし、安産型でもなんでもないし!!! 腹を切って今すぐにでも取り出してほしいってのにどいつもこいつもオレにそのまま捻りださせようとするし! 頭おかしいんじゃねえの!?


 と、頭の中で周りに口汚く罵りつけながら、フルカニャルリの手を握り返す。



「はっ、はっ……ふぅー……ぎっ、うっ……ふぅー、ふぅー……!」

「マルエル……あぐぅっ!」

「頑張ろ、フルカニャ」

「う、うん……!」



 涙とボロックソになっている顔面でフルカニャルリに笑いかけ、ヒグンの身を抱く。



「二人とも……ごめんね、代わってあげられなくて」



 ヒグンがオレとフルカニャルリの頭を同時に撫でた。代わったら即死するだろうし全然良いよって言葉を心に秘めつつ、また力を入れる。




 *




 おぎゃあ、おぎゃあ、と声がする。実際はもっとふにゃふにゃした泣き声だったが、小さな生命の産声が響いた。


 先に産んだのはフルカニャルリだった。



「いぎぅうぅぅぅっ!!!」



 オレの出産はまだ難航していた。フルカニャルリは体格の割にやはり下半身がしっかりしていて、子宮口が開くと意外とポンッと赤子が外に出てきた。産道がしっかりしていたみたいですね!



「いたっ、痛いっ!」



 フルカニャルリの産んだ赤ちゃんは臍の緒を切られて身体を拭かれている。……産湯とかいうやつに入れるんじゃないのか? イメージと実際の流れが解離している、まあそれを言っちゃえば分娩台も使わずに四つん這いのフリースタイルな分娩方式を取らされてる時点でって話なのだが。


 フルカニャルリは産んだ後だと言うのに腹をグイグイ押されて悲鳴を上げていた。なにあれ、拷問? 少しすると股からドロっとグロい肉の塊が出てきた。なんですかアレ、オレがシガギュラドを潰す時に作った魔力電池みたいだ。



「はい、いきんで!」

「ッ、うううぅぐぅぅぅぅっ!!!」



 ルイスさんに言われて下腹部に力を入れる。もう何度往復したか分からない、いつまで経っても赤子は出てこない。ヒグンは頭がもう出てるぞって言ってたし、狭いからって結局少し切られたのに全然出産が完了しない。


 いつまで続くんだろう。女になったのを後悔し始めている、ここまで辛いだなんて全然思ってなかった。いい加減にして欲しい。


 ……でも、女にならなかったらヒグンの事を好きになる事もなかった。心配そうにオレを見下ろすヒグンを見る、彼は「もう少しだからね!」と声を掛けてくれる。



「あっ、出た! 出たよマルエルちゃん!」

「………………えっ」



 力を入れすぎて耳が遠くなっていたが、肩を揺らされてルイスさんの言葉が聞こえてくると、赤子の声が二重になっていることに気付いた。



「産まれた……?」

「産まれた! 女の子だよ!!」



 女の子なんだ、そうか。そりゃ……ヒグンのセクハラ相手にされそうで心配だなぁ。



「マルエル!?」

「! いけない、意識が! ルイスさんッ」

「分かりました! 赤ちゃんお願いします!」



 皆がわちゃわちゃ騒いでいる。股がヌルヌルして、ドボドボと何かが落ちる感覚を感じながら目の前が白んでいく。


 大量出血で意識障害を起こしている時と同じ感覚だ。難産だったからなぁ。



「産めて、よかっ……」



 言い切る前に目の前が暗くなって、全身の力が抜ける感覚がした。

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