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73頁目「年齢制限」

「というわけで、年齢制限で弾かれためね」

「んな馬鹿な」



 ギルドに着き、冒険者登録をする為に身体検査を受けたファウナは、すぐさまオレらの所へ戻ってきた。付き添いのフルカニャルリはやれやれといった感じで説明する。



「ファウナがどんな種族かは分からないけど、ファウナの年齢は見た目通りまだ14歳。冒険者になるにはあと一年待たねばならず」

「えぇ〜? ヒグン以外見た目ガキじゃん」

「ぼくもマルエルも実年齢は人間で考えればおばあちゃんであり」

「メチョチョはどうなんだ? この子は正真正銘の0歳なんだろ?」

「悪魔としての年齢が0歳というだけで、肉体的にはマルエルと同い年であり。つまり、メチョチョもおばあちゃんであり」

「えー!? あたちおばあちゃん!? やだー!」



 フルカニャルリの回答にメチョチョが激しく反発した。まあ言葉の綾だから。肉体そのものは見た目通りだしそんなに気にする必要ないんじゃないかな。



「冒険者って、どこの年齢を基準にして制限を設けてるんだ……?」

「肉体面と言うよりは状況判断能力で適正を見てるだろうから、やはり知能が15歳以上に相当するかどうか?」

「……メチョチョはそこに適用されるか?」

「どういう意味、まま」

「悪魔は生まれたてでも高い知性を持ってるから。子供っぽく感じても知能指数は大人並ってのは珍しくなく」

「えへん!」



 メチョチョは腰に手を当てて偉そうに胸を張った。本当かなぁ?



「だから冒険者になるとしたら来年からだな」

「依頼のついでに母親探しの情報集めをしようとしたが、まあ仕方ないか」

「う……」



 俯きながらファウナが小さく唸った。ヒグンがそっとファウナの頭を撫でた。ファウナは彼の手を掴み、口を開けた。



「ガブッ」

「おかしいなあ痛いなあなんでだろう?」



 ファウナのギザギザした歯がヒグンの手に食いこんだ。何故か噛みつき攻撃を食らい涙を流すヒグン。ロケット団のコジロウじゃんね。



「僕の手美味しいかい」

「あんまりおいひくない」

「なら出来るだけ噛むの控えてほしいかもな。実は痛いからね、人に噛まれるの」

「がぶがぶぶ」

「なんでだろう〜???」



 ヒグンの手をどんどんがぶがぶしていくファウナ。うーむ。



「ヒグン、こっち来て」

「え? おう」



 オレの隣の席を引いてそこに座るようにヒグンを誘導させる。フルカニャルリはメチョチョの隣の席に座る。



「ファウナ、そっち側に移動してね」

「? わかった。がぶ」

「なんでがぶするのかな」



 オレとヒグンの間に入り噛み付いていたファウナに逆側の腕を噛ませる。そうして空いた方の手を掴み、こちらに引っ張る。



「マルエ「あむ」「何故噛むぅ……? いだぁっ!?」



 ファウナの唾液を拭いてからヒグンの腕に噛み付く。思い切り噛んだからかヒグンが驚いたように体を揺らし地面を蹴った。



「待ってファウナの噛みつきは甘噛みだから流せるけど! マルエル! 力加減がおかしいよ!?」

「……」

「力を込めないよ! 噛みちぎるつもりかな!?」

「ぷぁっ。お前の体に噛み跡残すのはオレの特権だろ」

「腕は痛いよ、しかも血管側は駄目だろ……」

「おもいきりかんでもいいの?」

「「駄目!!」」



 ヒグンと口を揃えて言う。きっとオレの言った駄目とヒグンの言った駄目は方向性が違うが、ハモったので良しとする。



「ずるく!」



 そこでバンっと机を叩いてフルカニャルリが声を上げた。メチョチョが驚いて体を跳ねさせていた、可愛い。



「囚魂の指輪を契約させて飲み込ませるだけでなく、体に噛み跡だなんて! マルエル一人だけで抜け駆けしすぎ!!!」

「フルカニャだってオレの知らない所でコイツにレイプカマしてんだろうが〜。知ってんだぞ私、二人が空いた時間によく絡みついてんの」

「知らず」

「てめえコラクソガキ」

「まあまあ。喧嘩はよくないよ二人とも」

「だよな? だから私はこうやって変則的な手段使うことでそれらを手打ちにしてやってんだろ。普通な、コソコソ蜜事を交わしているような男女がいっちばんキツイからな? それを知ってて目を瞑ってる私には感謝してほしいね」

「うぅ〜……じゃあマルエルだって隠れてすればよく!」

「やだ」

「なんで!」

「男の自我がまだそういう行為に抵抗を残してる。のと、普通にパンパコヤリまくってる女って、人間的価値低くね? だせぇじゃん」

「喧嘩売られため。殺しめす」

「待て待て待て! メチョチョとファウナも止めてくれ!!」

「がぶがぶ」

「ぱぱ、次はあたちね!」

「協調性が全くないっ!!?」



 立ち上がりガンつけ合うオレとフルカニャルリ。ヒグンを相変わらず甘噛みし続けるファウナ。そんなヒグンの口元に自らの尾の先を近付けて無理矢理媚薬体液を流し込もうとするメチョチョ。全員が我を出していてヒグンが堪らず叫んだ。


 まあある意味こうなるのは当たり前だわな。公共の場所でセクハラするような奴に着いてくる女だぞ? 我が強いに決まっている。類は友を呼ぶってやつだ、残念ながら。




 *




 昼食を終えた後、オレ達は町外れの森を少し抜けた先にある高原に来ていた。


 冒険者であるオレ達の後に付いて回り、掲示板に貼り出された依頼を見て吟味しているオレ達を見てファウナも冒険者というのに強い興味を抱いたというのだ。


 ファウナは自分で「わたし、ちょうつよい!」と言っていた。なのでその力試しをする為にオレ達は人の少ない場所に来て、戦闘訓練を行おうという話になった。



「模擬戦闘訓練でジャッジをつけたタッグ戦をするのは初めてだな。いけるか? フルカニャ」

「ぼくはいつだって万全であり。ちゃんと着いてくるめよ、マルエル」



 オレはフルカニャルリとチームを組み、ファウナはメチョチョとチームを組んでいる。審判はヒグン。勝負あったなと思ったらヒグンがそこまでと言って勝敗を発表する形式だ。


 メチョチョは尽斧ニグラトを扱うパワーアタッカーだからそちらは素早く動けて足止めも得意なフルカニャルリに任せ、未知数なファウナに対してはオレが対処する。不死身が使えなくても危機管理能力バグってるおかげで攻撃を躱す事自体には長けているのでな。



「それじゃ、双方用意はいいかい?」

「おー」「よく!」「いいよぱぱ!」「がおー!」



 誰だ今がおーって言ったやつ。可愛いな。どんな掛け声だよ。



「じゃあ買った方が今日僕と夜通しお楽しみ遊びをするということで! 勝負開始!!!」



 おい何言ってんだアイツ、自分とセックス出来ることがオレらにとってのご褒美になるとでも思ってんのか? 気持ち悪すぎるだろ。モテコンプレックスを拗らせた末に洗脳能力を得た人みたいな考え方してんじゃん、鳥肌めっちゃ立ったわ。



「やった! 今日二人目を仕込んでもらうめ!!」

「効果てきめんかい。あと着床すらしてないんだから二人目はまだ無理じゃ」



 突貫していくフルカニャルリに合わせてツッコみながら走る。フルカニャルリは周囲の木に次々と糸を貼り付けワイヤーアクションでメチョチョのすぐ近くまで飛んでいく。



「今日こそぱぱとの子供作る!」

「メチョチョも乗り気かい……」



 だからなんであんな奴なのに好感度カンストしてんだよこのパーティーの女勢は。おかしいだろ。童貞のドリームやん。


 あと血縁関係ではないにしても、パパって呼んでる相手と子供を作りたいって旨の発言はしない方がいいぞ。色々危ないわソレ。



三妖精の悪戯(エンシェントマジック)鉄は薪に(サンドリヨン)!」



 フルカニャルリの魔法が発動しメチョチョの手に持つ斧が綿菓子に変化する。オレは発動に合わせてナイフを手から離し、すぐに落下していくナイフを拾い直して構えた。



「刃物、使って良かったんだよなファウナ! 本気で切るぜ?」

「……」

「ファウナ?」

「……わたしも、こどもつくるの? ヒグンの」

「うーん悪い影響! 後でちゃんとした性教育します!」



 何を黙っているのかと思ったら意外な事で悩んでいるようだった。てか正真正銘の14歳なんだろ? この世界ではセーフだとしても、現代人の価値観としてはあと数年そういう行為をするのは我慢して頂きたいところではあるね。



「……ッ!?」



 ファウナが腕を振るってきたので、普通に肘でガードしようとしたら急にファウナの腕に鱗が現れ指の先が鋭く変化した。そのナイフのような指先に肘が切り裂かれこちらが出血する。



「わたし、とてもつよい!」

「そうね〜」



 普通に回し蹴りする。ファウナはガードをせずそのままに受けるが、オレの蹴りが命中したファウナの皮膚に鱗が生えていた。ノーガードで攻撃食らって相手はピンピンしている。


 切られた肘でそのまま顔面を攻撃しようとしたら流石にガードされた。自分で自分の肘をナイフで切って血液をぶっかけて目潰しする。



「わぷっ!?」



 ファウナが目を瞑り顔を逸らした。ファウナの身体を撫でるようにナイフで切りつける。


 ……いや刃が入らないのだが。刃が少しでも皮膚に沈みこんだ瞬間に鱗が生えてきて、こちらの斬撃を防いできやがった。

 それ自動で生えてくるの……? それか皮膚接触の反射で? とにかく便利ガードすぎる。



「わたし、かつ!」



 そう言って引っ掻き攻撃をしてくるファウナから距離を取って肘に回復魔法を使い治す。


 あの全身からフジツボみたいにボッコンボッコン生えてくる鱗をどうやってぶちぬこう? 倒せないじゃん。

 いや、必ずしもぶちのめす必要は無いんだけど、こんな速攻で相性不利判明して白旗をあげるのは悔しいし一矢報いてビビらせたいよね。一発くらいはねぇ。



「ファウナ! 弱点教えてー」



 ストレートにファウナに質問してみた。自分の弱点を。それが手っ取り早いからね。



「じゃくてん? しらない!」

「おっと最強」



 知らない、かぁ。そっかそっか。知らないならしょうがないね。


 ナイフを仕舞い、素手でファウナに突っ込む。顔に向けられた切り付けを躱して身を低くしてファウナの背後に回り、腕を捻りあげて関節を極めて足を払う。



「いたっ、いたいいたい!!」

「打撃技や斬撃は防げても、関節技は防げないわな。関節に鱗なんか生やしたら手足動かせなくなるもんな〜」



 暴れて逃げ出そうとするファウナの腕を脇下で挟んで固定し、もう片方の腕を捕まえてそちらも捻り上げる。



「いたたたただだだっ!!! マルエルッ、いたい! いたいー!」

「これが負けってやつだよ最強ロリ〜。賢くなったねぇ、また一歩大人に近付いたね」

「い、た、いって!!!」

「ふにゅんっ!? ……あ?」



 股下をすごい勢いで何かが滑って変な声を出してしまった。ファウナの尻尾で股間を擦り上げられたらしい。着てるのが股間ピッチリのバニースーツだから衝撃がダイレクトに伝わるんだよな……。



「はなして!」

「ぐほあっ!?」



 尻尾で大ビンタされた。ファウナを押さえていたから衝撃を殺せず、凄まじい衝撃が顔から胴体にまでビターンとぶつけられた。例えるなら、椅子に座った状態で思い切り顔面にタイキックを食らった感じ。



「べひっ……」



 仰向けで空を仰いだまま体が動かなくなる。当たり所が悪かったらしい、完全に脳を揺らされた。



「やったー! わたしのかち!」



 体が動かない状態で勝ち誇るファウナの大歓喜の声を耳にする。彼女はそのまま良い勝負をしているらしいフルカニャルリとメチョチョの所に向かっていった。



「アッサリと負けすぎじゃないかい?」

「……花を持たせたんすよ。そういうの必要でしょ」

「関節技で勝ち誇ってたら股を擦られて、感じてる隙に尻尾で殴られて脳震盪を起こして敗北。言葉にしたら間抜けな負け方だね」

「ねえ。何故追い討ちする? 心のケアしようよ、私女の子ですけど」

「心は男の子って事なんで、男だったらこういう励まし方するかなって感じで」

「男友達が喧嘩で負けたらどう負けたのかをわざわざなぞって追い討ちかけるのかお前? 性格鬼キモいな」

「! だから僕、フルンスカラに避けられてたのか!!」

「本当に男友達にはそういう励まし方するんだ、きもぉ……」



 冷たい冬の空気を通じて鼻の頭に痛みを感じていたらヒグンがオレの体を起こしてくれた。



「おい、ファウナの奴火ぃ吹いてるぞ」

「ホントだね。薪の節約ができるな」



 糸で逃げ回るフルカニャルリをメチョチョと一緒に追い掛けていたファウナが不意に炎を吐いてフルカニャルリの尻がついた。フルカニャルリは「あっちいいぃぃぃっ!?」って叫びながら転がって消火を試みている。ありゃ完敗だなあ。



「ぱぱ、あたち達の勝ち!」

「かち! かち! マルエルざこ!」

「泣いちゃうぞ〜」



 尻を丸焦げにされてしくしく泣いているフルカニャルリを置いてメチョチョとファウナがトッテットッテッてこちらに駆け寄ってきた。ファウナ、本人がいる前で雑魚って言うのはあんまり心象よくないから辞めようねこのクソガキが。



「どう! わたし冒険者できそう?」

「うーん、うん。マルエルとフルカニャルリの二人を倒したんだ、戦力的には十分だと思うよ!」

「ぱぱ! あたちも頑張ったよ!」

「うんー。奮闘したのは格好から見て取れるよ」



 メチョチョ、ブラの部分が千切られていて胸が丸見えである。修道服部分も所々穴空いてるし。フルカニャルリの奴、絶対わざとやっただろこれ。ヒグンは鼻血を垂れ流しながらもメチョチョを撫でて戦績を褒めたたえた。



「ぱぱ! 今夜!」

「うん!」



 ニコちゃんマークぐらいニッコニコな笑顔をヒグンが浮かべた。なんでこの国の警察はコイツを放置しているんだ、異常性愛者ですよーコイツ。



「わたしもかんさつする!」

「観察? 観察だけでいいのかい」

「まじで捕まれお前」

「かんさつだけ! わたしそういうことしらないからまずべんきょう! かんさつしてもいい?」



 ヒグンは「勿論! じっくり見ておくれ!」とニッコニコで答えた。白い歯並びの良い歯がキランって光っている。歯が綺麗な人が変態なのちょっと怖すぎるな。


 あーあー変なエロ漫画とかエロゲーみたいな環境になっていく……。

 ただでさえ周りからそういう爛れたグループなんだと思われているのにさ、実際に爛れた関係性を作ったらダメでしょうよ。歯止めが効かなくなってヒグンがクズ男に進化しそうで怖いよー……。



「おつかれ二人とも」

「手ぇ抜いただけであり」



 火傷をしたフルカニャルリを治療する為に彼女の傍まで来たら一発目にフルカニャルリが言い訳を口にした。メチョチョとファウナはヒグンと一緒に弁当を食べている。



「全員同じ条件だから、私らの完敗だよ」

「違く! メチョチョもファウナもちょっと本気だっため!」

「そうかなあ」

「そうであり! マルエル、本気出したら死の爪使うでしょ!」

「相手確殺するやんけ。模擬戦では禁止カードなんだわ」

「ほら! 手抜きであり! ぼくも錬金術も魔法もあんまり使わなかったもん!」

「開幕一発目に武装解除の魔法使ってたじゃん。あれも本来の模擬戦なら多分禁止カードだぞ」

「うるさーい! ぐやじい……!」



 ぐぎぎぎ、とフルカニャルリは悔しそうに歯噛みしていた。可愛いなあ。頭を撫でる。なでなでなでなで。



「はあ……仕方なく。マルエル、今日はぼくと一緒に夜過ごすよ」

「一緒に寝るのか? いいけどお前の部屋な。私のベッド狭いし」

「違く。エッチするめよ」

「肉体が同性なんだわ」

「女の子同士でもエッチはでき!」

「あぁ〜……フルカニャはアレか、ヒグンだから特別って訳じゃなくて、発情期なんだろうな。今」

「失礼な。妖精に発情期はなく」

「じゃあ辻褄が合わないだろうが色狂い妖精が」



 よく分からない事を言うフルカニャルリの火傷を治し、服が焼き切れたせいで下半身マッパになっているフルカニャルリを翼で隠しながら皆と合流し、弁当を食べ家に帰る。


 雪が降ってきた。明日からは本格的に冬が始まる。中央都は豪雪地帯に当たるから、しばらくは家に引こもる生活が始まるだろう。



「う〜……ヒグン、明日はぼくとするめよ!」

「だめ! しばらくあたちとするの!」

「ずるく! そんなのずるい!!」

「わたしにもかんさつさせてね」

「あぁ! 冬が明けるまで全員平等に抱いてやるとも! 一緒に暖まろうな! みんな!」



 ……早く冬明けないかなぁ。勢いの増していく雪を見てため息を吐く。こんなピンク色の生活になる筈じゃなかったんだけどな……。

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