72頁目「チラリズムはエロい」
新しい仲間が出来たとなると必ず行われる恒例行事がある。それは、仲間の衣装選びである。
「ふんふんふ〜ん」
「おいヒグン。よく考えてみろ、相手はちゃんと子供だからな? ラインを見極めろよ?」
「分かってるともさ!」
「……ファウナ、嫌だなって少しでも思った時はハッキリとそう伝えろよ。コイツ馬鹿だから、ハッキリ言わなきゃ伝わらないからな」
「? わかった!」
元気よく返事をするファウナ。不安だなぁ、フルカニャルリもメチョチョも同じ感じで元気よく着いて行って結局ヒグンのくち車に乗っちまったんだもんなぁ。
「メチョチョの修道服、今度ぼくも着てみたく。何着分買ったの?」
「四着くらい? 一着だけ普段あたちが着てるのより小さいサイズあるけど」
「あ、それがいつにも増してピッチリしてるやつめか! エッチだよねアレ着てるメチョチョ!」
「やめてよぉ。フルカニャの方がエッチだよ? そんな、上着除いたらおっぱいとお股にしか服を身につけてないなんて。しかも範囲もすごく小さいし」
「ふっふっふ。ぼくの溢れる妖艶さでヒグンのハートをズキュンであり!」
「間違いなく服のエッチさでは一番だもんな〜フルカニャ。ままも相当だけどさ」
「二人だけで完結してただろ今の会話。私のは正装ですからね」
オレの服は由緒正しきマジのカジノでの制服だからコスプレと一緒にされるのは御免である。
「さぁて着いたぞ〜!」
「エロ屋じゃねえか」
やってきたのはそれ隠せていますか? って感じの下着が揃い踏みのエロランジェリーショップであった。
……オレもここでベビードールを買ったから思い入れ深いが、やっぱりロクな選択肢を用意してなかった事に対し一応怒っておく。
「あのな。ファウナは記憶喪失で、幼児退行までしちゃってるっぽいんだぞ? そういう子にエロい格好をさせるのは、なんというか、コメディの枠を超えてるだろ。笑えない域だろ」
「しかし、ファウナはフルカニャのような服を着てみたいと言っていたぞ?」
「えっ?」
「そうなのめか!」
「う、うん。ずぼんは、しっぽがじゃまだけど。フルカニャルリ、おしゃれ。わたしもきたい!」
「で、フルカニャルリのビスチェもホットパンツもここで買った物だろ? 需要に答えているじゃないか」
「天然で痴女だったかぁ〜」
頭を抱える。なんでこう、ヒグンのベッドでエンカウントする女共は皆どこか痴女性を持っているんだ! おかしいだろ!
いや、もうそういうものなのかもしれない。男という存在が居なければ、所謂痴女服とされているものも高いファッション性を有しているのかもしれない。
問題は、そういうファッションを見て真っ当に興奮するし隠しもしない変態が仲間内にいる事なのだが。
「あ、それとマルエル。先日良い物を見つけてね」
「なんですか」
「バニースーツの逆バージョンって言えばいいのかな? かなりユニークな服を見つけたんだよ。それを今日買うから家で着」「嫌ですね」
「駄目だよ。僕に指を食わせた時に言ったよね、どんな変態な事でも受け入れるって!」
「……」
そんな事言ったっけな。言ってたな。動転してたもんな。あの時のオレをこの場に呼んで殴り殺したい。
「着てもらうよ、逆バニー!」
「嫌です」
「指輪の呪いで拒否権は無いよ!」
「いや、そういう効果じゃないんで」
「約束を反故にする気かい!?」
「あ、あんなの口約束だし! 血判は? ないよな! そんなの覚えてないもんねー!」
「マルエル。僕は真剣に言っているんだよ。茶化さずに、首を縦に振ってくれ」
「こっちも真剣に断ってるんじゃ。やめろ真顔で見てくるの」
すっごい虚無な顔でヒグンがオレを見つめてきた。ジーッと見て、何も言わない。
……何も言わない。
…………何も言わない。おい、どれだけそうしているつもりなんだ。
「分かったよ! もう!!! 着るよ!!」
「皆、聴いたね?」
「バッチリであり」
「聴いたー!」
「き、きいた!」
「証人は三人だ。もう言い逃れできないからね」
「しねぇわ!! 逆バニーでも何でも着てやるわこの際! 鬱陶しい奴め!!」
「言ったね。よし、マルエル用のエロ衣装本当に買いまくるから。後悔しても遅いよ? 人前に出られない服で着せ替えショーやるからね???」
ヒグンがオレに顔を近付け、詰め寄りながらしつこく言ってくる。顎にコブシでも入れてやろうかなコイツ。
「ちゅっ」
「!? マルエル!? いきなり何でキス!? ここ往来だよ!?」
「黙れ。ほら、入るよ」
「マルエルずるく! ヒグン、ぼくもー! ちゅっ、ちゅっ!」
「ぷぁっ!? フルカニャルリ! 人前だから!」
店に向かうオレの背後でフルカニャルリがヒグンにキスをせがみチュッチュッという音を何度も鳴らしていた。メチョチョは呆れているようで、ファウナなその行為を不思議なものを見るような目で見つめていた。
「……きすっていうの、みんなするもの? わたしもヒグンにしたほうがいい?」
「えーっと、みんながするものって訳では」「おいで、ファウナ」「おいコラ犯罪者てめえこら、誑かしてんじゃねえぞタコゴラ」
明らかに無知なファウナにキスするよう仕草でアピールしたヒグンを強く睨む。メチョチョまでは性に関する知識を持っていたがセーフにしていたが、知識を持たない相手にセクハラするのは駄目だろう。本気で犯罪だわ。
「じゃあきすって、どういうときにするもの?」
「あー……本当に好きな相手にとか、大切な相手にする物だと思うぜ」
「それならわたしは、あくまさんとおかあさんだ!」
「そうか。ならその二人とするまではキスはおあづけにしないとな。初めてのキスは大事だからな、自分が心からしたいと思えるまで大切に取っておきなさい」
「まま!!!」
「はいなんでしょうびっくりしたぁ」
急にメチョチョが大きな声を出してオレに呼びかけるからビクッとしたわ。なんだ? メチョチョは目を鋭くし、頬を膨らませて地団駄を踏んでいた。
「ままはあたちのままでしょ! ファウナのままみたいになってた今! 駄目!」
「えぇ……? 別に自然体だっただろ」
「なら自然体からもうダメダメ! あたち以外にまま力を出さないで!」
「ロリ力だったりママ力だったり、その謎概念は一体何をもって強弱が決定するんだよ……」
もう頬を膨らませすぎてマンボウみたいになってるメチョチョをあやす。可愛いなあもう。
人も多くなってくると、それぞれの欲しいものを探す時間と相談に乗ったり勧めたりする時間が重なるので店を出るまでの時間が長くなっていく。
オレはヒグンやフルカニャルリのようにエロ服には興味が無いので、同じくあまりエロ服に興味を持っていないメチョチョと共に二つ隣のスイーツ屋さんでゆっくり過ごしていた。
「まま! これすごく美味しい!」
「ほんと? いいね〜」
「ままもひとくち食べる?」
「食べる食べる」
「あーん!」
「あーん。……ふふっ、美味し糧〜」
「びばびみ!」
「びばびみだね〜」
クリームの乗ったプリンなんて高等技術なお菓子があるとは驚きだ。
にしても、パフェだったりプリンだったり生クリームだったり、ガラスの希少性もそこまで高くなかったりと時々オーバーテクノロジーだろこの文明感に対してって物が出てくるな。魔法が主流の世界なんだし、元来た世界とは技術の進み方が一部ごっちゃになってたりするのだろうか?
衣服が充実してるし、食う物もバリエーションに富んでてその恩恵にあやかれているんだから、まあなんでもいいけど。一度ちゃんとこの世界の歴史を一からきっちり学んでみたい。
「お待たせ!」「お待たせであり!!!」
ヒグンとフルカニャルリが沢山の荷物を持ってシュババッてやってきた。ヒグンは布でファウナの姿を隠している、見てのお楽しみ方式か。
「随分沢山買ったな」
「マルエルとメチョチョの分も買ったからね!」
「あたちのも!?」
「目を光らせるのは早いぞメチョチョ。どうせエロ服だ。お前、露出高い服着るの恥ずかしいだろ」
「は、恥ずかしい……ぱぱ? エッチな服?」
「ああ勿論」
「がっくり……」
おい子供をがっくりさせんなよ。可哀想だろメチョチョが。
「でもエロ服だけじゃなく、メチョチョに着てほしいお洒落な服も買ったぞ!」
「ほんと!?」
「本当だ。……オマケにアダルトな玩具もね」
「やったあ!!」
「待てメチョチョ、話術で騙されるな。今コイツとんでもない事言ったぞ」
ちょっと袋からはみ出てるけど、あれ明らかにぶっ挿す系の玩具だよね。何買ってきてんのコイツら、アホなの? あとなんでコンドームはマシなものが開発されてないのにそういう物はあるの? 順序違うだろ。
「マルエルにもちゃんと買っためよ! 逆のバニースーツ!」
「あぁ……ニップレスとか前貼りとかもちゃんと買ってくれましたか?」
「なんで? 必要ないだろ? 家の外じゃ着ないんだから」
「家の中で過ごす分には乳も股も丸出しにしろと? じゃあいっそ全裸になった方がマシじゃ」
「下着を着ければいいじゃないか」
「変な人すぎるだろ……」
なんで下着丸出しで逆バニー着なきゃなんねぇんだよ。って言いかけたが、メチョチョの格好ってよく考えればそういう事なんだよな。
……彼女を傷つける気がしたので黙っておいた。メチョチョ、相当恥ずかしいのに耐えてるんだな。
「そして、皆さんおまたせのファウナのお洋服であり!!」
「わー! ぱちぱちぱち!」
無邪気に拍手をするメチョチョ。布の下に居るのは十中八九痴女みたいな格好をした少女。傍から見ればもう変態サーカス団よ? 我々。
ヒグンによって布が取り払われ、中にいたファウナの姿が衆目に晒される。
「アレ? 思ったより普通の格好じゃん」
ファウナが着ていたのはオーバーオール? だった。畜産農家の人が着ているようなイメージの、デニム生地のやつ。パンツ部分はやはり短くて白い太ももが眩しいが、それ以外は普通の……。
「……ファウナ。下、何着てる?」
「ふっふっふ。やはり気が付いたねマルエル。ファウナ、背中を見せてごらん」
「わかった」
ファウナが背中側をこちらに向ける。デニム生地は体の側面から既に消失していて、背中側はほぼ素っ裸のおぼっちゃまくんスタイルだった。
尻の部分はホットパンツ型だから足を通す構造上尻は隠れているものの、尻尾の存在のおかげで尻のラインの上の方は丸見えである。後は従来のオーバーオールにあるような後ろを止める部分以外、何も身につけていない。ブラは勿論、下着のパンツすら付けていなかった。
「……横から胸丸見えですけど」
「それくらいはね」
「それくらいはね? ヤバすぎるでしょ。ファウナ、怒ってもいいんだぞ」
「これ、きにいってるよ? おしゃれ!」
「本来はそれの下に何か着てお洒落にするものなんだよな〜。オーバーオール1枚は結構昔のアメリカ人キッズだよ……」
「あめりか? めか。そういう人種?」
「いいんだそんな話は。おい、まさか流石にこの格好のまま歩かせるわけないよな? オレら3人と違って、横から乳首丸見えだし屈んでも丸見えになるぞ?」
「勿論上着を羽織らせるさ、寒いからね。冬は」
「……夏は?」
「これ1枚」
「本当に捕まるぞ」
何考えているんだこの人。ついに下着を着せないところまで来たか。下着丸見えまではまだギリ性犯罪者の入口でグレー感あったけど、もう完全に黒だろ。性的虐待だろコレ。
「えへへ。ありがとねヒグン、わたしうれしい! おようふく!」
「あぁ。また欲しいのがあったら言ってね」
「うん!」
やり取りから察するにファウナが進んで選んだ物らしかった。店が悪いんだな、きっと。
「本当はほぼ下丸見えのメイド服か裸ポンチョかで迷ったんだけどね。希望する物があったからそれにしたよ」
「想定されていた衣服が凶暴すぎるんだが。なんでお前はそう、高露出に拘るんだ」
「エロいだろ!!!」
「質問じゃなくて呟きだよ、嘆きだよ。いいんだよ答えなんて分かりきってんだから」
ため息を吐き、オレは自分が着ている上着をファウナに着させようとした。だが今回は先に上着を買っていたらしい。寒い思いをせずに済んだ。
「で? ファウナも冒険者するのか?」
「あ〜……それなんだが。多分冒険者なれないな」
「? なんで?」
「行ってみたら分かるめ」
メチョチョがそう言う。冒険者になれない? フルカニャルリやメチョチョ、いや見た目で言えばオレもか。こんな子供っぽい冒険者がゴロゴロいるのに? よく考えたら『狂戦士』で人狼のルドリカさんも子供っぽいし、年齢制限って事は無いよな?
よく分からないが、とりあえず皆で冒険者ギルドへ向かった。
痴女一人追加で街の人々の視線が集まる。変な集団だよなあ、オレ達って。ごめんなさいねそこのお母さん、子供の教育に悪くて。




