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71頁目「新しい仲間ができた!(またロリ)」

 つよいひとたちはみんな、いえにかえっていきました。


 わたしのからだは、すこしずつつめたくなっていきます。



『おかあ、さん』



 ゆみがふってきました。でもゆきのつめたさはわかりません。うみのそこのほうがつめたくてさむかったから。



「可哀想に♡」



 きいたことのあるこえがしました。ちいさないきもののこえです。



『たす、けて』



 しにたくない。おかあさんにあいたい。わたしはたすけをもとめました。


 わかっています。あいてはにんげんか、ようせいです。


 わたしをころしたのは、にんげんとようせいです。


 そのひとはわたしのてきです。でも、わたしはそのひとにたすけをもとめました。


 たすけてくれないとわかっているけど、それでもしにたくないからたすけてといいます。


 おかあさんにあいたい。さみしい、だきしめてほしい。



「助けを求めるのなら助けてあげるよ♡ ぽきは癒しんぼ妖精のパーン、ロリを愛でる紳士妖精だからね♡」



 そのひとはとくいげにそういって、まほうをつかおうとしました。



愛の挨(ランプレ)

「そんな事されちゃ困るな」



 もうひとりのこえがしました。



「やはり『龍涯(りゅうがい)』を破壊し損ねたか。雑な仕事しやがるな、冒険者ってのは」

「おんやぁ? 誰でしゅ? 人払いの魔法は使ったはずでちゅが♡♡♡」

「あぁ? あぁ、曲がりなりにも修道騎士だからな。悪魔の呪法には耐性があんだよ」

「ぽきは妖精でちゅ♡」

「人間に敵意を向けられない為の方便だろうが。失せろ木っ端悪魔、お前に用はねえ」



 あとからきたひとは、とてもあついまりょくをだしていました。ちかくにいるとやけどしそうで、いやなかんじがしました。



「ぽきが退いたら、どうする気なんだね?♡♡♡」

「その龍を殺す。『龍涯』を破壊し、完全に蘇生出来ない状態にする」

「何故? この子は母親に会いたいだけなのでちゅよ♡ その意志に悪意は無い♡♡ 子が親を想うのは当然の事では?♡♡♡」

「黙れよ悪魔、感情に訴えかけるな。お前らの魔言(ソレ)、俺には通用しねえぞ」

「洗脳の魔力を使うまでもない、この子に罪は無いでちょ?♡ 物の善悪を判断する所か、この子は欲望に従って動く事しか出来ない乳児のようなものにぇつ♡ 赤ちゃんに贖罪を求めるつもりなのでつか?♡♡♡」

「細枝斬り」



 すごいおとがなりました。わたしのからだになにかつよいちからがちかづいてくるきがします。


 でも、つよいちからはわたしのまえでとまりました。さきにきたひとが、わたしをまもってくれたのです。



「会話の最中に剣を抜くだなんて、騎士失格じゃないでちゅか?♡♡♡」

「はあ……お前の言い分はもっともだな。乳児っつぅか、たとえ物の善悪が分かるくらいの歳だったとして、ソイツがガキだってんなら人の家に火を放とうが毒殺しようが俺はソイツを悪だとは思わねえよ。誰にだって経験のある事だからな、ガキの頃の凶行なんざ」

「それはどうだろう♡」

「だがな、いくら罪がない仕方ないっつっても、それは加害側の理屈だ。何人もの部下が殺された、何人もの人間や妖精が死に絶えた。奴らの無念は? 奴らを死体にしちまったソイツはまだ生きている、それを野放しにしたら命を懸けた奴らの死が無駄になっちまうだろ」

「ぽきはそうは思いまちぇん♡」

「俺がそう思うんだよ」

「……報復の為に殺す、その原動力は悪意でちゅ♡ 無垢な生命を悪意を以て害する事こそ悪でしゅ♡」

「この行為が悪なんだって言うならそれで構わねえよ? 人間の歴史ってのは悪意で積み上がった骸の山で出来てんだ。今更じゃねえか」



 かたいものがじめんをひきずるおとがします。それはきっと、わたしをころすあしおとです。



「誰の差し金か知らねえが、邪魔するならてめぇからバラすぞ悪魔。人型なんだからお前の契約主は人間なんだろう、今すぐにでも主の所行って契約の変更を申し出た方がいいんじゃねえか?」

「契約者なんて、とっくの昔に死んでまつ♡ なので契約の更新はできまちぇんにぇ♡」

「ハッ、考えたな〜お前の召喚主は。悪魔の暴走を止める為に満了できない様な下らない契約をさせてお前をこの世に縛ったのか。随分と契約者に嫌われていたと見える」

「むひょひょひょ♡ むっむぅ〜♡♡♡♡」



 ちいさなひとふたりがぶつかりあうおとがしました。はげしいおとがなりました。どちらも、つよいおもいをもってたたかっています。


 わたしをころそうとしてるひとと、わたしをまもろうとするひと。どちらもいっぽたりともひきません。



「……やはり、人間の起こす行動は不可解だ。死した者の為に命を懸けて戦うか、そんな事をして何になる? 今を生きる命を脅かす事が、どうして死した者への弔いになるんだ」

「死んだ後も律儀に契約を守るような阿呆に言われたくねえんだよ。てめぇも同じようなもんじゃねえか」

「同じ? 僕と、君が? ……ははっ、そうか」



 どちらがつよいかなんてわかりません。さきにわらったのは、わたしをまもろうとしているひとでした。


 わらったということは、そのひとのほうがつよいってことなのでしょう。



「言い残すことはあるか? 悪魔」

「……僕は、君達人間を数多く助けてきた。勿論他の生物も助けてきたし、今回のように人類と敵対する生物を助けた事もある。ある意味では、僕が種族間の争いというのを長引かせていたのかもしれないね」

「そうか。そりゃ高尚な奉仕精神だ」

「奉仕精神なんて持っていないさ。ただそうするのが僕にとっての使命だからそうしている。悪魔は、自分の使命に沿った行動しか取れないからね」

「ほう。つまり?」

「つまり、今回も例外はないということさ」

「……ッ!?」



 また、すごいおとがしました。にくがさけるようなおとがして、ちいさなもののなかからたくさんのにょろにょろとしたものがとびだしたようなおとがしました。



「んだこれ、触手……!?」



 にょろにょろのおとはどんどんひろがっていきます。それは、わたしのからだにもひたひたとくっついていきます。



「てめぇ! 何するつもりだ!!」

「僕はここまでさ。だから、せめて時間稼ぎくらいはさせてもらうよ」



 にょろにょろのひとは、わたしにくっついたひたひたからわたしのみみもとにしゃべりかけました。


 むこうのほうではにょろにょろがきられ、やかれていくおとがします。おおきなちからがこちらにちかづいてきます。


 やさしいこえで、わたしのあたまをなでながらいいました。



「シガギュラド、君は悪い子なんかじゃない。ただ未熟な精神に比べて身体が大きすぎたんだ。君はまだやり直せる。贖罪というのは、君自身が奪ってしまった命の重みに気付いてやっと果たせる事なんだ」

『わたし、が……?』

「そう。君が望むのなら、僕は君の願いを叶える力となり、助けてくれる人達の元へ君を送り届ける」

『わたしを、たすけてくれる』

「あぁ。ただし、身体は今よりもずっと小さくなる。それがこの行いにおける縛りだ。君が生を望むのなら、僕の魂を代償に君の未来を望んだ方向へと呪ってあげる。どうする? 悪魔の囁きに、耳を貸すかい?」

『……わたしは、いきたい。いきて、おかあさんにあいたい!』

「受諾した」



 わたしのからだが、わたしのまんなかにむけてちいさくなっていくのをかんじました。にょろにょろがわたしをせおい、ふたりのにんげんからとおのいていきます。



「貴様……やってくれたな悪魔!!」

「ぽきの名前は愛の悪魔パーンでちゅ♡ どんな生意気なメスガキであっても、不当で愛のない暴力を与えようとする輩は、何者であっても癒しんぼデヴィルのぽきがやっつけちゃーうゾ♡♡♡ オラ♡ ケツ差し出せオラ♡ メスイキさせまくってそのち♡ぽめり込ませてやる♡♡♡」



 ばくはつするおとがきこえたあと、わたしをたすけてくれたひとの「にょ〜ん♡」というさけびごえがきこえました。


 おれいをいいたかったのに、とてもねむくて。これでさいごってきがしたのに、わたしはかれにおれいをいえませんでした。




 *




「……んぅっ。ふう」



 浄域龍シガギュラドの討伐という依頼の報酬金は、これまで以上に豪勢なものとなった。


 参加し生き残った冒険者全て、そして死した冒険者の分の報酬金も国王と数多くの国民から冒険者ギルドに送られたらしく、一人一人が通常の報酬金の何倍もの金銭を渡された。


 私腹を肥やす者も当然居たが、冒険者は死した者達の家族に金を渡すのが殆どだった。僕も世話になったエドガルさんや他の飲み仲間の家族に金を渡していた。


 悲痛な泣き声や、どうしてという声が僕を責めた。そうなるのを見越した上で取った行動なので文句はない。

 まあ、マルエルやフルカニャルリは最近ヤンデレ化していて怖いし、メチョチョも子供でそういう感情をぶつけられるのには慣れていなさそうなので一人で巡ったからメンタルには結構来たが。


 というわけで、夜になって家に着いた頃には皆寝静まっていた。激しい戦いだったからな、疲労が溜まっていたのだろう。


 翌日の朝。体を動かすと誰かがすぐ隣にいるのがわかった。


 添い寝だ。誰かが深夜のうちに僕のベッドに入り込み、隣で眠っているらしかった。



「恒例の誰か当てゲームしようかなっと」



 知らない間に添い寝されている時にやる恒例のゲーム、誰かなゲーム。添い寝相手の姿を見ること無く、手探りで身体的特徴で相手を特定するゲームだ。



 胸が大きくて翼があったらマルエル。

 お尻が大きくて僕の手を股に挟んでいたらフルカニャルリ。

 胸もお尻も大きくないが、角があればメチョチョ。


 三者三葉、大きな特徴があるからこのゲームも大分得意になったと自負している。他の人にない特徴というものが存在しないフルカニャルリも、もっとも僕に対して性的な事に前のめりだから分かりやすい。


 さてさて今回はどんな感じかな。



「……ふむふむ」



 胸はさほど大きくない。……最近、マルエルに続くようにして育ってきているメチョチョ程もない、フルカニャルリか?



「んぅっ」



 手探りで尻まで手を伸ばそうとしたら甘い声が聞こえた。尻を触る。……大きく、無い。さほど大きくない。メチョチョと同じくらい?


 翼と角もない。手の位置は普通。マルエルでもフルカニャルリでもメチョチョでもない。



「またこのパターンか……」



 知らない人ですね。なんで寝ている間にベッドから現れるの? また悪魔かなにか?


 いや、でもなんだかんだ今まで僕のベッドでポップした幼女達は全員がなんだかんだで縁のある相手だった。悪魔パボメスの転生体であるメチョチョは変化球だったが、それも言ってみれば縁ではあるしな。


 当ててみよう。ベッドに入り込んでいるのなら、全く知らない赤の他人の可能性は極めて低いだろうし、多分この人はシガギュラド退治で共闘した誰かだろうし。



「……尻尾?」



 さわさわと手探りで体を撫でていたら尻の付近に何かがあるのに気付いた。尾てい骨辺りからおそらく伸びている、尻尾だ。


 メチョチョの物よりもずっと太い。根元の太さはこの人の太ももぐらいあった。

 尻尾の下側、腹や股と地続きになっている範囲? は少女の肌と同じくぷにぷにスベスベしていて、背中側に繋がっている方は硬くてゴツゴツしている。骨が剥き出しになっているような感触だ。


 尻尾の上の方のゴツゴツは根元から脊髄の方まで繋がっていた。というより脊髄に繋がっているのかな?


 それ以外は特に……角がある? 物凄く小さい、髪から少ししか出ていないが、二本の角が前頭から伸びていた。



「人間勢ではないな……」



 またしても亜人ですか。となると、妖精か……。


 フルカニャルリの友達として助っ人した人達の中で印象に残っているのはやはりシャクラッチャちゃんとヒルコッコちゃんだが、二人の身体的特徴には合致しない。


 角があって、尻尾もある妖精。……直接会話はしていないが、シガギュラドを足止めしている中に何人かそういう姿の妖精もいた気がする。



「……分からないな。目を開けて確かめるか」



 目を開けて答え合わせをする。


 肌の色はマルエルよりも若干明るい白、あどけない顔立ちに赤や橙系の明るい色の髪。メチョチョと同系統の色の髪だが、それよりも爽やかな色だ。あっちは淡いピンク色だからね。


 眠っている所失礼して、瞼を開けて瞳を見る。……えっ!? 何だこの瞳! 瞳の色は虹色で真ん中に✕みたいな切れ込み? みたいのがある! これ見えてるのか!?



「……う?」

「あっ。……お、おはよう」

「ガブッ」

「ああ痛いかもな痛いかもな!?」



 不意に僕のベッドで寝ていた少女が目覚めた。彼女は僕を認識すると、手を掴んでガブッと噛み付いてきた。


 あ、すごい歯がギザギザ〜。ノコギリみたい〜。あんまりギリギリされると皮膚が切れちゃうかもな〜!!!



「痛いかもなあちょっと待って本当に痛いギブギブ!!」

「あむ、む……」

「聴こえてるかなぁ!? この距離なのに聴こえないことあるかなぁ!?」

「なーに騒いでんだ、よ……?」

「あ、マルエル! 助けて! 隻腕のヒグンになっちゃう! フック船長になってしまう!!!」

「また、新しい女……」

「それは本当めかマルエル」



 シュバッ! って感じでフルカニャルリがやってきて、僕に噛み付く少女を見て目から輝きを消した。



「また、裸かよ」

「えっ? ……ぶほふっ!?」



 マルエルの発言を聞き視線を下げて見ると、僕の に噛み付く少女がすっぽんぽんの全裸である事にようやく気付いた。鼻血が吹き出る。なんで毎回毎回裸なんだ!?




 *




「で? 名前はなんて言うの?」

「しらない」

「なわけあるかーい」



 鼻血の出しすぎて失神していたヒグンに応急処置を施し、一階の居間でオレ達は謎の少女に質問を始めていた。



「オレンジ色の髪、虹色でバッテンのある瞳、二本の角、デカい尾っぽ。ついでにギザ歯。アニメすぎるだろこの子の容姿」

「アニメって何めか。うーん……角は鬼人(オーガ)に見えなくもないめが、鬼人には尻尾が生えてないからなあ」

「妖精の知り合いじゃないのかい?」

「似た姿をした妖精はいるめが見覚えなく。あと、妖精が纏っている魔力とも違うので妖精ではないめね」

「そうか……」



 本人も名を知らぬ謎の少女。種族すら特定出来ないとなると、いよいよこの子が何なのか謎が深まるばかりだ。



「うーん。でもこの子、少しだけ悪魔の匂いする」



 メチョチョが口を出す。悪魔? ふむ。



「この子は悪魔なのか?」

「んーん、匂いがするだけ。長い間一緒に居たって事なのかも?」

「悪魔と行動を共にする生物? んー、分からず……」

「悪魔の召喚者って可能性は? 契約の願いは記憶を消すこと、とか」

「もしそうなら仕えてる悪魔がそばに居る筈だよ。でも、その感じはしない。悪魔と契約している場合、どこかに魔力が飛んでいってる感じがあるから」

「あくま……」



 少女が小さな声で呟く。すると、急に鼻をすすりだし、肩を震わせて無表情なのに目から涙が流れ落ちた。



「あく、ま……わたし……あくまさん……うっ、ぁああっ」



 涙声になり、少女はボタボタと涙を流し泣き始めた。皆慌てて、お菓子とか飲み物とか出すが少女は全く反応を示さない。



「みんな、わたしきらい……っ、ころされるぅっ、たすけてくれない……ぅああっ……あくまさんだけ、あくまさんだけぇええっ……」

「おいなんか物騒な事言い始めたぞ」

「だ、誰も君を殺さず! 泣き止んでほしく!」

「ぅあああぁっ、おかあさん、おかあさんっ……さみしい、あいたいよおおぉっ」

「おかあさん……」



 少女の言葉にメチョチョが反応した。彼女は泣いている少女の頬に触れると、自分の方を見るように顔を持ち上げさせた。



「君、迷子なの?」

「まいご……まいご。おかあさんにあいたい、けどあえなくて。ここはどこ?」

「ここは中央都だよ。君のお母さんはどこにいるんだい?」

「わからない……」

「住んでいる場所の名前とかも分からないのかい?」

「わから、ない……あたまのなかがね、からっぽなの。あくまさんが、じきがきたらもどるって……」

「やはり記憶に関する願い事をやった口っぽくないか?」

「悪魔が傍にいないのが気がかりだけど、そうだね。それと、もしかしたらこの子と契約した悪魔はもうこの世に居ないのかも」

「ゔわああぁぁぁぁんっ!!!」

「!? ご、ごめんごめん! あたちの言い方が悪かったよ! 泣き止んで泣き止んで!」



 悪魔ってのがどうやら彼女にとって良い存在であるらしかった。死を匂わせる事を言うと号泣する。そんな事ある? メチョチョが特殊なだけで、悪魔って悪いように願い事を叶えるとんでも悪霊だろ。



「ふむ。話は分かったよ」

「どうしたヒグン」



 いきなりヒグンが腕を組み、目を閉じて冷静な様子で口を開いた。



「君も僕のハーレムだ!」

「ついに頭おかしくなったぞ」

「本当に何も知らない少女に何をさせる気めか」

「ぱぱ。物事には順序があるよ」

「黙らっしゃい小娘共!! 言いたいことはあるだろうが一旦落ち着くんだ!」



 ヒグンは少しもポーズを変えずに叫んだ。なんかむかつくなあ。


 彼はわざと踊るような所作でカップに紅茶を淹れると、それを少女に差し出した。



「飲んでごらん。落ち着くよ」

「う? ……なにこれ?」

「紅茶さ。美味しい飲み物だよ。しかも甘いフレーバー、子供でも飲みやすい茶葉を使っているよ」

「わかった」



 少女はカップを持たず、そのまま置かれたカップに顔を近付けて舌先でぴちゃぴちゃと少しずつ紅茶を飲んでいく。猫か。



「それだと飲みにくくないか……?」

「どうやって飲むの?」

「こうやって飲むの」



 オレは自分のカップで実演してみる。オレの飲む動作を見ると、少女はそれを真似しようとカップを持とうとした。


 指をふるふると震わせている。取っ手に指が通らないようだ。



「まあそこに指通さなくても、そのままこうやって持ってもいいと思うぞ」

「む、むずかしい……」



 カップをそのまま持つ方法を提示してもやはり上手く指を動かせていないようだった。手を使う事自体慣れていない感じ? に見える。



「出来た!」



 しばらく待っているとようやく少女はカップを持つ事が出来た。そのまま飲むのを手伝ってやり、綺麗に飲めたのを確認して頭を撫でてやった。



「偉いぞ〜。ちゃんと出来るじゃん」

「! えらい!? わたし、えらい!?」

「うおぉ勢いすごっ」



 軽い気持ちで褒めたのだが、少女はカップを投げ出してオレにしがみついて偉いかどうか聞いてきた。カップはフルカニャルリが糸でキャッチしていたが、これは少しだけ注意も必要ですね。後でしておこう。



「えへへ、わたしえらい! うれしい!」

「そりゃよかった」

「と、この通り。この子もやはりメチョチョと同じく、親が必要なくらい幼い子なんだ中身が。このまま放っておいて、他の冒険者や孤児院に預けるのは忍びないと思わないか?」

「何故?」

「この世には悪い冒険者なんか沢山いる! この子の母親を探したいと思う意思を無視するかもしれない! 孤児院だってそうさ! 本当に安全に保護してくれるかはわからない!!」

「ガキにエロい格好させたりするお前は普通に悪い冒険者サイドだと思うぞ」

「つまり! 僕らがこの子の母親を探してやるべきだと思うんだ」

「綺麗に無視されたね、まま」

「このモードの時のヒグンには耳が無く」

「コイツ絶対主人公にボコられる側の人間だよな」



 三人で熱く演説するヒグンを冷めた目で見る。たった一人、謎の少女だけはヒグンの演説をキラキラした目で見て拍手を送っていた。

 絶対言葉の意味わかってないだろ、だって今アイツ「この子をむしろママにしたい!」とか言ってるもん。大セクハラですよ。



「というわけで、どうだい!? 僕のハーレムメンバーに加わらないかい!?」

「加わる! わたし、あなたのはーれむめんばー!」

「よっしゃまたもや美少女ゲットひゃっほい!!!」



 虚空に向けてヒグンが喜びの連続正拳突きを放つ。間抜けだなあ。マイケル・ジャクソンみたいな声まで上げちゃって。ドン引きですよ。



「おい。なんやかんやでライバル増えたぞフルカニャ。なんか言わなくていいの?」

「む〜……今回の場合はなんか文句言ったらぼくが嫌な奴になるめ。自分の素性も名前も知らない相手だなんて、責められるわけがなく……」

「よかった。ヤンデレっつっても良識的な方のヤンデレだった」

「ままこそ、不安にならないの?」

「? なんで?」

「だってあの子、あたち達より歳上。ままと同じくらいの歳に見えるよ?」



 まぁ確かに、見た目だけなら中学生くらいに見えるな。最近続いていたロリの流れが緩やかになった感じだ。



「別にいいんじゃねえの。むしろ、君らみたいにぷにって感じのロリばっかり集めるよりも健全じゃねえの」

「でもままっておっぱい大きいよね」

「うん何の話かな」

「おっぱい大きいままより、ぺったんたんなあの子の方がロリ(ぢから)は上。という事は、ぱぱはままよりあの子の方を選んじゃうかもだよ?」

「えっ」



 なんですかそれ。本気でヒグンがロリコンだったらっていう話している? アイツ自分でロリコンじゃないって言ってたじゃん。そんなので優先順位に変動起きるかな!?



「ふっふっふー。またしても驕りを打っためねマルエル。ヒグンの性癖を熟知し、肉体をもっと幼く再構築しなかったその慢心! 胸に固執した卑しい慢心が敗北に導いたのめよ!!」

「フルカニャも、油断しちゃダメだと思う」

「なんでめかメチョチョ」



 フルカニャルリかバッてメチョチョの肩を掴んだ。すごい剣幕でメチョチョを見る。それを涼しげに流しながら、メチョチョは続けた。



「人間って、新しく出会った人の方がより仲良くなろうとする生き物でしょ? ままは最初の仲間、フルカニャルリは次の仲間でぱぱの中では親しみは一定数まで溜めたものだと思って一旦満足してると思うんだ」

「そ、そんなことなく!」

「ほんと〜? でも二人共、もうエッチして受精してるんだよね?」

「してる!」「私を巻き込まないで?」

「美人は三日で飽きると言うし、恋愛が成就した後の男の人は女の人に素っ気なくなるって聞くよ? それで言ったらさ、もう二人ってゴールした後みたいなものだよね? 攻略する対象からはみ出して、もう戦利品とか装飾品みたいな感じだと思う。ぱぱの中で」

「な、な、なななななななんだってええぇぇぇっ!? ヒグンッ、そんなのってないめよヒグンンンンンッ!!!」

「どうしたのかな!? メチョチョに何を吹き込まれたのか知らないけど糸やめて! どうするの!?」

「手足をちぎってぼくの部屋に閉じ込める。子供10人作るまで部屋から出さない!」

「10年近くの監禁宣言!? 一体何を言ったんだメチョチョ!!!」

「ぱぱ、次はあたちと子供作ってよ」

「メチョチョ!? 会話のキャッチボールちゃんとしようか! お父さん取りやすい球を投げたと思ったんだけどな!?」



 フルカニャルリとヒグンが揉み合い、それを見てメチョチョが腹を抱えて笑っている。いいねえ平和だ。少女もその光景を、楽しむような目で見ていた。



「君は、お母さんに会いたいんだっけ?」



 少女に尋ねる。彼女はオレの目を見た。その表情は真剣そのもの、確固たる意志があった。



「うん、あいたい」

「それじゃあその後はどうするの?」

「そのあと?」

「会えたら」

「……おかあさんとはなしをしたい。それで、たくさんおはなしをして、そのあとは……」



 そこで、少女の言葉は止まった。彼女は少し考えた後、目の前で繰り広げられている三人のドタバタを見て言った。



「……いろんないきものをしりたい。わたしをたすけてくれたひとがね、いったの。みんなひっしにいきていて、それぞれがちがうかんがえをもっていて。ひとりひとりにものがたりがあるから、ころしてしまうのはもったいないんだって」

「へぇ。君を助けてくれたってのは、悪魔さん?」

「うん。わたしをたすけてくれて、まもってくれて、みんなとであわせてくれた。このからだをくれたのもあくまさん」

「へぇ……」



 随分とその悪魔とやらに良くしてもらったらしい。良い悪魔って、まあ言葉にしてみると変な感じだけど、やっぱりいるんだな。



「分かった。じゃあ君の名前を決めようか」

「なまえ?」

「あぁ。お母さんに出会えるまで私達は共に行動しよう。仲間だってんなら、呼びやすい名前があった方がいいだろ?」

「……うん」

「なんかいい名前ある?」

「プルンチャッポにするめ!」「黙りなさいフルカニャ」「なんで!?」



 センスが終わってるんだよ。メチョチョの時にも思ったけど!



「今のは無しにして、どんな名前がいい?」

「……ふぁうな」

「ファウナ?」

「うん。へん?」

「いいんじゃないか? よろしくな、ファウナ」



 謎の少女、もといファウナと握手をする。ファウナは照れくさそうに口を引き結んだまま、笑みの表情を浮かべた。

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